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第二部

33.アレクシスのいない日々(後編)

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 ◇


(大丈夫とは答えたものの、正直、胃が重いわ)

 それから三時間後、エリスは帝国図書館に向かう馬車の中で――対面に座る侍女には気付かれないよう――小さく溜め息をついた。

 朝食の後、腹ごなしのために庭園を散歩してたみものの、未だに消化された気がしない。
 それもこれも、アレクシスがいない寂しさからくる不調なのだろう。

(まさか、自分がこんなに繊細だったなんて……)

 アレクシスがいない今でさえ、祖国にいたときとは比べ物にならないほど恵まれた環境にいるというのに、自分はいつからこんなに強欲になってしまったのだろう。

 少しアレクシスと離れただけで体調不良を起こすほど、愛されることが当たり前になってしまったのだろうか。
 あるいは、それほどまでにアレクシスに執着してしまったということなのか。
 
(どちらにせよ、使用人を心配させているようじゃ皇子妃失格よ。しっかりしなさい、エリス)

 エリスは心の中で自身に言い聞かせ、背筋を正して外の景色に視線を向ける。
 今日も今日とて活気づいた帝都の街並みを眺めながら、エリスは気分を変えようと、これから会うことになっているマリアンヌの顔を思い浮かべる。

(そうよ、楽しいことを考えればきっと気分も良くなるわ。例えばマリアンヌ様とセドリック様の恋の行方だとか……)

 ――実はエリス、アレクシスが出立前夜に寝台で「セドリックがマリアンヌからハンカチを返してもらっていた」と語った内容から、マリアンヌの想い人がセドリックであることを予想していた。

 念のためアレクシスに「もしや、そのハンカチの色はグレーでしたか?」と尋ねたところ、「そうだが、なぜ君がそれを知っている?」と回答を得たため、予想というよりほぼ確信に近かったが、あくまで予想と言ったのは、まだマリアンヌ本人に確認できていないからである。

(三日前にお会いしたときに聞こうかと思ったけれど、聞いてほしくないことかもしれないし……と思ったら、結局聞けなかったのよね)

 けれどアレクシス曰く、ハンカチのやり取りはクロヴィスの執務室で行われたとのことなので、思うにクロヴィスは承知の上ということなのだろう。

(クロヴィス殿下が良しとされるなら、可能性はゼロではないと考えていい……のかしら)

 何にせよ、マリアンヌには幸せになってもらいたい。

 エリスはそんなことを考えながら、図書館までの道のりを過ごすのだった。
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