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第二部
20.夏の宵(後編)
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「でも、いったいどうして……。もしや殿下は、理由をご存じなのですか?」
エリスは真剣な顔で問う。
するとアレクシスは、思い当たることがあると言った風に、ほんの一瞬視線を揺らした。
「理由か。……そうだな。大方予想はついているが、これは俺の口から言うことではない」
「そんな……! ここまで話しておいて、肝心なところは秘密だなんて……!」
「そう言うな。俺の考えとて、あくまで予想に過ぎないんだ。それに本人のいないところで秘密を話されては、シオンだっていい気はしないだろう?」
「ですが……」
シオンが父親を欺いてまでお金を集めなければならなかった理由。
それはきっと、自分を廃嫡しようと目論む父親に対抗するためだった。
万が一のときに困らぬよう、備えておく必要があったからだろう。
(最初はエリスと市井に下るために溜めたのかとも考えたが、そもそもエリスは王太子と婚約していたというからな。となると、あの金はあいつが自身のために溜めたもの)
つまり、シオンはそれほどまでに追い詰められていたと考えることもできる。
が、アレクシスは、それについてエリスに伝える気はさらさらなかった。
なぜならエリスは、父親がシオンを廃嫡しようとしている事実に、少しも気付いていないのだろうから。
(こんなところで、エリスにいらぬ心配を与える必要はない。シオンとて、同じ気持ちだろう)
アレクシスは、不満を漏らすエリスの顎をくいっと持ち上げ、諭すような声で続ける。
「あまり難しく考えるな。俺が言いたかったのは、君がシオンを心配しすぎる必要はないということだ。あいつは君が思っているよりも賢く優秀だし、今はもう君だけではなく、俺とセドリックもついている。…………だから君は、俺だけを見ていればいい」
「――!」
瞬間、エリスはハッと息を呑んだ。
『俺だけを見ていればいい』
と言ったその声が、あまりにも甘く、心地よく響いたからだ。
「……で……んか……?」
薄暗い部屋のベッドの上で、アレクシスの角ばった手のひらが、エリスの頬を優しく撫でる。
どこか乞う様な、熱情を含んだ眼差しで。
甘く絡みつくような声で、「エリス」――と、そう囁く。
「もう一度言う。君は、俺だけを見ていろ」
「……っ」
刹那、エリスは突如として、腹の奥が何かに突き上げられる様な、奇妙な感覚に襲われた。
それが、アレクシスに刻みつけられた身体の記憶だと気付くのに、さして時間はかからなかった。
途端、エリスはかあっと顔を赤らめて――といっても、暗い中では顔色を悟られることはないが――コクリと首を縦に振る。
するとアレクシスは唇にゆるりと弧を描き、満足げに呟いた。
「そうだ。それでいい」――と。
アレクシスは最早何も躊躇うことなく、溢れ出す熱情にまかせ、エリスの唇に深く口づけるのだった。
エリスは真剣な顔で問う。
するとアレクシスは、思い当たることがあると言った風に、ほんの一瞬視線を揺らした。
「理由か。……そうだな。大方予想はついているが、これは俺の口から言うことではない」
「そんな……! ここまで話しておいて、肝心なところは秘密だなんて……!」
「そう言うな。俺の考えとて、あくまで予想に過ぎないんだ。それに本人のいないところで秘密を話されては、シオンだっていい気はしないだろう?」
「ですが……」
シオンが父親を欺いてまでお金を集めなければならなかった理由。
それはきっと、自分を廃嫡しようと目論む父親に対抗するためだった。
万が一のときに困らぬよう、備えておく必要があったからだろう。
(最初はエリスと市井に下るために溜めたのかとも考えたが、そもそもエリスは王太子と婚約していたというからな。となると、あの金はあいつが自身のために溜めたもの)
つまり、シオンはそれほどまでに追い詰められていたと考えることもできる。
が、アレクシスは、それについてエリスに伝える気はさらさらなかった。
なぜならエリスは、父親がシオンを廃嫡しようとしている事実に、少しも気付いていないのだろうから。
(こんなところで、エリスにいらぬ心配を与える必要はない。シオンとて、同じ気持ちだろう)
アレクシスは、不満を漏らすエリスの顎をくいっと持ち上げ、諭すような声で続ける。
「あまり難しく考えるな。俺が言いたかったのは、君がシオンを心配しすぎる必要はないということだ。あいつは君が思っているよりも賢く優秀だし、今はもう君だけではなく、俺とセドリックもついている。…………だから君は、俺だけを見ていればいい」
「――!」
瞬間、エリスはハッと息を呑んだ。
『俺だけを見ていればいい』
と言ったその声が、あまりにも甘く、心地よく響いたからだ。
「……で……んか……?」
薄暗い部屋のベッドの上で、アレクシスの角ばった手のひらが、エリスの頬を優しく撫でる。
どこか乞う様な、熱情を含んだ眼差しで。
甘く絡みつくような声で、「エリス」――と、そう囁く。
「もう一度言う。君は、俺だけを見ていろ」
「……っ」
刹那、エリスは突如として、腹の奥が何かに突き上げられる様な、奇妙な感覚に襲われた。
それが、アレクシスに刻みつけられた身体の記憶だと気付くのに、さして時間はかからなかった。
途端、エリスはかあっと顔を赤らめて――といっても、暗い中では顔色を悟られることはないが――コクリと首を縦に振る。
するとアレクシスは唇にゆるりと弧を描き、満足げに呟いた。
「そうだ。それでいい」――と。
アレクシスは最早何も躊躇うことなく、溢れ出す熱情にまかせ、エリスの唇に深く口づけるのだった。
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