ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

文字の大きさ
上 下
55 / 147
第一部

Fin.初恋の少女

しおりを挟む
 太陽が地平線に沈み、祭りの喧騒も鎮まってきたころ、アレクシスはまだベッド上にいた。

 今にも眠ってしまいそうなエリスを腕に抱き、亜麻色の髪を優しく撫でていた。


「すまない。無理をさせたな」
「……いえ……、そのような……こと……、……は……」
「少し眠れ。その間に食事の用意をさせておく。昼から何も食べていないからな。軽くでも、腹に何か入れた方がいい」
「……は……い」

 アレクシスがそう言うと、エリスは体力の限界を迎えたのか、すぅ――と眠りに落ちていく。

 ――無理もない。アレクシスは、一度ならず二度もエリスを抱いたのだから。


(流石にやりすぎたか)

 アレクシスはエリスをそっとベットに横たえると、反省の意を込めて大きく息をはく。

 本当は一度でやめるつもりでいた。
 だが、どうしても性欲という名の本能に勝てなかった。


(……あんな風に言われてしまってはな)


 アレクシスは思い返す。
 一度目のコトが済んだあと、「君は俺の初恋だったんだ」と告げたときの、エリスの反応を。

 エリスは、かつてランデル王国で助けた相手がアレクシスだったことを知ると、驚いた様に目を見開いたのち、気恥ずかしそうに頬を染め、こう言ったのだ。

「では、わたくしが今こうして殿下といるのは、運命だったのかもしれませんね。あのとき殿下のお命をお救いできて、本当によかった」――と。

 一点の曇りもない瞳で、柔らかく微笑んだのだ。


 それを聞いたアレクシスは、再び身体が熱を持つのを止められなかった。
 だから彼は、エリスと物理的に距離を取るべく、急いでベッドから這い出ようとした。

 けれどエリスの、「殿下、どちらへいかれるのですか?」との声に引き留められ、あえなく断念。
 我慢しきれず二度目のコトに及んで、今に至るというわけである。


「……あの顔は、反則だろう」


 思い出すと、それだけで下半身が反応してしまう。

 情事の後の、赤く高揚したエリスの頬。
 まるで誘っているかのように、上目遣いで自分を見上げる潤んだ瞳。

 特に他意はないとわかっていても、欲情せずにはいられなかった。

「…………」


 自分の隣で、まるで警戒心の欠片もなくすやすやと寝息を立て始めたエリスを見下ろし、アレクシスは再び大きく息を吐く。

(寝顔すら、こうもいとおしいとは)

 溢れ出る想いを抑えきれず、エリスの頬にゆっくりと指を這わせ――その耳元に唇を寄せる。


「エリス――君に、感謝する」


 ――俺に、君を愛する機会を与えてくれて。


 アレクシスはそう囁くと、眠っているエリスの顔をしばらく見つめ、その薄紅色の唇に、自身の唇をそっと重ねた。



《Fin.》
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。 でも貴方は私を嫌っています。 だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。 貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。 貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

今夜で忘れる。

豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」 そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。 黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。 今はお互いに別の方と婚約しています。 「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」 なろう様でも公開中です。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結済】侯爵令息様のお飾り妻

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────

きっと彼女は側妃にならない。

豆狸
恋愛
答えは出ない。出てもどうしようもない。 ただひとつわかっているのは、きっと彼女は側妃にならない。 そしてパブロ以外のだれかと幸せになるのだ。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...