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第一部
45.リアムとの再会(後編)
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一気に五十メートルを走り切り、橋の欄干から下を見下ろす。
すると、幅二十メートルほどある川の真ん中で、アデルが必死にシーラを抱えようとしているところだった。
まだ沈んでいないが、シーラはパニック状態で暴れている。水難時は第一に、冷静になることが大切だが、子供にはそれは難しいだろう。
『アデル! 大丈夫よ! 今助けるわ!』
エリスは声を張り上げながら、川の様子と土手の傾斜を確認する。
(水面からの高さは約七メートル、水深は少なくとも二メートル以上。土手も這い上がれる角度だわ。これなら、十分飛び込める。助けられる)
そして靴を脱ぎ捨てると、ドレスの裾を何のためらいもなく引き裂いた。
夏の薄い生地のドレスとはいえ、長い裾は泳ぐのに邪魔になる。少しでも身軽であるに越したことはない。
だがそのとき、後ろから追いかけてきたらしいリアムに、必死の形相で止められた。
「レディ、いったい何を……!? まさか飛び込む気じゃないでしょうね!? 止めてください! 私が行きますから!」と。
「あなたが?」
「はい、私が行きます! ですから!」
(でも……この方、泳げるのかしら)
先ほどから、帝国民は誰一人として川に飛び込もうとしない。
人を呼んだり、浮き輪を探したり、そういう動きは見せるものの、水に入ろうとするものはいないのだ。
その状況から考えられるのは、恐らく、帝国民は泳げないのだということ。
確かに帝都は帝国の中央にあるし、海は何百キロも移動した先。
川はあるが、湖の少ないこの土地で、一般市民が泳ぎを身に着けるのは難しい状況なのだろう。
となると、目の前のリアムも、果たして泳げるかどうか。
「あなたは泳げますの? 陸軍所属ですわよね?」
海軍ならまだしも、陸軍が泳ぎの訓練などするだろうか。――いや、多分しない。
エリスは尋ねながら、今にも川に飛び込もうとアクセサリーを取り外し、地面に放り投げる。
今は一分一秒を争うとき。礼儀やマナーを気にしている余裕はなかった。
が、リアムはそんなエリスの腕を掴んで、無理やり制止する。
「私は元海兵。泳ぎには自信があります。ですからここは私に任せて、あなたは安全な場所でお待ちください。レディを危険に晒すなど、私の紳士道に反します」
「そうですか。ではお言葉に甘えて、二人で参りましょう。わたくしも泳ぎには自信があります。祖国は三方を海に囲まれており、三歳のころから泳ぎを学んでおりましたので。人を救助した経験もございますのよ。あなた様の足は引っ張りませんわ」
「――!? いえ、私は一人で……!」
「それに、あの子たちはわたくしの知人なのです。見ているだけなのは、嫌なのです」
「……!」
エリスはきっぱりと言い切ると、引き裂いたドレスの裾を捌きながら欄干の上に立ち上がる。
そうして、リアムが止める間もなく、川に飛び込んだ。
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