27 / 145
第一部
27.シオンとの再会(前編)
しおりを挟む
ジークフリートに連れられていった中庭に、シオンはいた。
月明りだけが辺りを照らす、静かな中庭。その中心にある噴水の縁に腰かけて、シオンは神妙な顔で俯いていた。
(本当にシオンだわ)
記憶の中のシオンに比べ身体は大きく成長しているが、あれはシオンで間違いない。
ここに来るまでジークフリートに懐疑的な思いを抱いていた彼女だが、はた目にも肩を落としたシオンの背中を見て、一気に警戒心が消え失せる。
ジークフリートから「行っておいで」と優しい声で促され、エリスは芝生を踏みしめた。
けれど、よほど深く考え事をしているのか、シオンはエリスに気付かない。
そんなシオンに、エリスはそっと声をかける。
「……シオン?」
するとシオンはハッと目を見開いて、ゆっくりと顔を上げた。
その顔がエリスの方を向いて、泣き出しそうに歪む。
次の瞬間、シオンの口から洩れる、縋るような声。
「姉さん……ッ!」
――と、そう呼ばれたと思ったら、気付いた時にはシオンに抱きしめられていた。
すっかり大人の男に成長した弟の腕の中に、彼女の身体はすっぽりと納められていた。
「会いたかった……姉さん……」
エリスの耳元で囁かれる、聞き慣れないシオンの声。
それが声変わりのせいだと気付くまでに、エリスは数秒の時間を要した。
「シオン、大きくなったわね。もうすっかり大人だわ」
「――っ」
「わたしも会いたかった。ごめんなさいね、手紙、出さなくて……」
「……ほんとだよ。僕がどれだけ心配したか……きっと姉さんにはわからない」
シオンの両腕が、エリスの身体を更に強く抱き寄せる。
十六歳になったシオンの身長はエリスをとっくに超えていて、随分と逞しい身体に成長していた。
エリスがおずおずと顔を上げると、当然顔立ちも大人びていて、何だか知らない人の様に思える。
(でも、そうよね。会うのは四年ぶりだもの)
――エリスがシオンに最後に会ったのは、もう四年も前のこと。
そのときまだ十二歳だったシオンは、天使のように愛らしい少年だった。
エリスと同じ亜麻色の髪と、瑠璃色の瞳。
エリスもシオンも外見は母親譲りで、幼い頃の二人は性別こそ違えど、本当にそっくりだった。
シオンは目が大きく童顔で、色白だったこともあり、よく姉妹に間違えられた。
違うところと言えば、シオンの方は髪質がややくせ毛なところくらいだ。
そんな愛らしかった弟が、会わない間にこんなに大きくなっているものだから、エリスはとても驚いた。
けれど、自分をまっすぐに見つめるこの瞳は、紛れもなく彼女の記憶の中の弟のものだ。
月明りだけが辺りを照らす、静かな中庭。その中心にある噴水の縁に腰かけて、シオンは神妙な顔で俯いていた。
(本当にシオンだわ)
記憶の中のシオンに比べ身体は大きく成長しているが、あれはシオンで間違いない。
ここに来るまでジークフリートに懐疑的な思いを抱いていた彼女だが、はた目にも肩を落としたシオンの背中を見て、一気に警戒心が消え失せる。
ジークフリートから「行っておいで」と優しい声で促され、エリスは芝生を踏みしめた。
けれど、よほど深く考え事をしているのか、シオンはエリスに気付かない。
そんなシオンに、エリスはそっと声をかける。
「……シオン?」
するとシオンはハッと目を見開いて、ゆっくりと顔を上げた。
その顔がエリスの方を向いて、泣き出しそうに歪む。
次の瞬間、シオンの口から洩れる、縋るような声。
「姉さん……ッ!」
――と、そう呼ばれたと思ったら、気付いた時にはシオンに抱きしめられていた。
すっかり大人の男に成長した弟の腕の中に、彼女の身体はすっぽりと納められていた。
「会いたかった……姉さん……」
エリスの耳元で囁かれる、聞き慣れないシオンの声。
それが声変わりのせいだと気付くまでに、エリスは数秒の時間を要した。
「シオン、大きくなったわね。もうすっかり大人だわ」
「――っ」
「わたしも会いたかった。ごめんなさいね、手紙、出さなくて……」
「……ほんとだよ。僕がどれだけ心配したか……きっと姉さんにはわからない」
シオンの両腕が、エリスの身体を更に強く抱き寄せる。
十六歳になったシオンの身長はエリスをとっくに超えていて、随分と逞しい身体に成長していた。
エリスがおずおずと顔を上げると、当然顔立ちも大人びていて、何だか知らない人の様に思える。
(でも、そうよね。会うのは四年ぶりだもの)
――エリスがシオンに最後に会ったのは、もう四年も前のこと。
そのときまだ十二歳だったシオンは、天使のように愛らしい少年だった。
エリスと同じ亜麻色の髪と、瑠璃色の瞳。
エリスもシオンも外見は母親譲りで、幼い頃の二人は性別こそ違えど、本当にそっくりだった。
シオンは目が大きく童顔で、色白だったこともあり、よく姉妹に間違えられた。
違うところと言えば、シオンの方は髪質がややくせ毛なところくらいだ。
そんな愛らしかった弟が、会わない間にこんなに大きくなっているものだから、エリスはとても驚いた。
けれど、自分をまっすぐに見つめるこの瞳は、紛れもなく彼女の記憶の中の弟のものだ。
451
お気に入りに追加
1,527
あなたにおすすめの小説
大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる