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第一部
3.突然の婚約破棄(後編)
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それからどれくらい経ったころだろうか。
不意にドアが開いて、クリスティーナが入ってきた。
目の覚めるような彼女の美しい金髪も、この暗闇ではわからない。
「何よ、灯りもつけないで。辛気臭いったらないわ」
クリスティーナはヒールの音をわざとらしく鳴らしながらベッドの脇にやってきて、エリスを冷たく見下ろした。
「まさかずっと泣いてたの? やーねぇ、メソメソしちゃって。大丈夫よ、安心して。ユリウス殿下のことはわたしに任せてくれればいいから」
クリスティーナの口から出た、ユリウスの名前。
その名前に、エリスは反応しないわけにはいかなかった。
「それ……どういう意味? 殿下を任せるって……」
ベッドから身体を起こし震える声で問うエリスに、クリスティーナはニヤリと口角を上げる。
「全部言わないとわからない? ユリウス殿下はわたしが誠心誠意お慰めしてあげるって言ってるのよ。あーあ、にしても本当に簡単だったわ。こんなことならもっと早く実行していればよかった!」
「…………」
(いったいこの子は何を言ってるの? もっと早く実行していればって……何?)
困惑するエリスに、クリスティーナは笑みを深くする。
「あの男に、”抱いた女の肩に火傷の痕があった”って噂を流してもらったのよ。まさかそれがお姉さまのことだなんて思いもしなかったでしょうけど。今頃王国から逃げ出す算段を整えているでしょうね。しつこい男だったから、ほんといい気味!」
「――ッ! まさか……クリスティーナ……全部、あなたが計画したことなの……?」
「だからそうだって言ってるでしょう? でも仕方ないじゃない? だってお姉さま、全然ユリウス殿下を譲ってくださらないんだもの。だったら壊すしかないじゃない」
「……そん、な……」
――ああ……そんなことのために、クリスティーナは殿下の気持ちまでも傷付けたと……?
私だけでなく、周りを巻き込んで……?
「許されないわ……こんなこと、許されていいはずがない……。これを知ったらきっと、お父さまだってお怒りに――!」
「あら、そう思うのなら告げ口したら? もっとも、お父さまはお姉さまの言うことなんて信じないでしょうけど!」
「――っ」
「むしろ、お父さまがこの件を知ったらわたしを褒めてくださるんじゃないかしら? だってお父さま、昔から言っていたもの。お姉さまが邪魔だって。殿下の婚約者じゃなければ、シオンと一緒に追い出してやったのにって……!」
「……!」
絶望するエリスを蔑むように見下ろして、クリスティーナは月明りの下、美しく嗤う。
「じゃあ、そういうことだから。おやすみなさい、お姉さま。良い夢を見られるといいわね」
「――ッ」
クリスティーナは機嫌よく部屋を後にする。
エリスはその背中を、ただ茫然と見送ることしかできなかった。
不意にドアが開いて、クリスティーナが入ってきた。
目の覚めるような彼女の美しい金髪も、この暗闇ではわからない。
「何よ、灯りもつけないで。辛気臭いったらないわ」
クリスティーナはヒールの音をわざとらしく鳴らしながらベッドの脇にやってきて、エリスを冷たく見下ろした。
「まさかずっと泣いてたの? やーねぇ、メソメソしちゃって。大丈夫よ、安心して。ユリウス殿下のことはわたしに任せてくれればいいから」
クリスティーナの口から出た、ユリウスの名前。
その名前に、エリスは反応しないわけにはいかなかった。
「それ……どういう意味? 殿下を任せるって……」
ベッドから身体を起こし震える声で問うエリスに、クリスティーナはニヤリと口角を上げる。
「全部言わないとわからない? ユリウス殿下はわたしが誠心誠意お慰めしてあげるって言ってるのよ。あーあ、にしても本当に簡単だったわ。こんなことならもっと早く実行していればよかった!」
「…………」
(いったいこの子は何を言ってるの? もっと早く実行していればって……何?)
困惑するエリスに、クリスティーナは笑みを深くする。
「あの男に、”抱いた女の肩に火傷の痕があった”って噂を流してもらったのよ。まさかそれがお姉さまのことだなんて思いもしなかったでしょうけど。今頃王国から逃げ出す算段を整えているでしょうね。しつこい男だったから、ほんといい気味!」
「――ッ! まさか……クリスティーナ……全部、あなたが計画したことなの……?」
「だからそうだって言ってるでしょう? でも仕方ないじゃない? だってお姉さま、全然ユリウス殿下を譲ってくださらないんだもの。だったら壊すしかないじゃない」
「……そん、な……」
――ああ……そんなことのために、クリスティーナは殿下の気持ちまでも傷付けたと……?
私だけでなく、周りを巻き込んで……?
「許されないわ……こんなこと、許されていいはずがない……。これを知ったらきっと、お父さまだってお怒りに――!」
「あら、そう思うのなら告げ口したら? もっとも、お父さまはお姉さまの言うことなんて信じないでしょうけど!」
「――っ」
「むしろ、お父さまがこの件を知ったらわたしを褒めてくださるんじゃないかしら? だってお父さま、昔から言っていたもの。お姉さまが邪魔だって。殿下の婚約者じゃなければ、シオンと一緒に追い出してやったのにって……!」
「……!」
絶望するエリスを蔑むように見下ろして、クリスティーナは月明りの下、美しく嗤う。
「じゃあ、そういうことだから。おやすみなさい、お姉さま。良い夢を見られるといいわね」
「――ッ」
クリスティーナは機嫌よく部屋を後にする。
エリスはその背中を、ただ茫然と見送ることしかできなかった。
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