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第一章 今日も俺は手紙を届ける
第二話
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「――くそッ」
俺はバイクに跨がりエンジンをふかしながら、独り悪態をつく。
この仕事についてから3ヵ月。その間に300通程の配達を行ってきた。――のだが。
その殆どが、見事に受け取り拒否されてしまうのだ。今の女性の様に。けれどそれでは困る。だからここ最近は、拒否されても無理やり手紙を置いてくるようにしていた。
「――こっちの気も知らないで」
別に俺だって、好きでこんなことしているわけじゃない。こんな仕事、ノルマを達成したらすぐにでも辞めてやる。あと700通、それを配り終えたら……俺は――。
そんなことを考えながら、なんとかその日の配達を終わらせた。
*
夕方事務所に戻ると、部長が俺のデスクで待ち構えていた。
「お疲れっす」
俺がぶっきらぼうに呟けば、部長は難しい顔をしながら俺のデスクに右手を置く。
「お前、クレームが来てるぞ。無理やり受け取らせたらしいじゃないか」
その言葉に、脳裏に何人かの顔が過ぎった。
さっきの婆さんか……それともその後のおっさんか?いや、昨日の主婦って可能性も――。
俺はあり過ぎる可能性に苛立ちを募らせる。
「おい、聞いてるのか」
俺を見据える鋭い瞳。その視線に、俺は今直ぐ退職願を叩きつけたい気持ちに駆られた。
けれど、まだ辞める訳にはいかない。
だから俺は必死に取り繕って、なんとか頭を下げる。
「すみませんでした」
俺の謝罪に、部長の低い声が返される。
「いつ辞めて貰っても、構わないんだぞ」
「――っ」
それは、脅しか?そう思って顔を上げれば、しかしそうでは無いようで――どういう訳か、部長の瞳が憐れむようにこちらを見下ろしていた。
「この仕事は、きついからな」
「……っ」
それだけを言い残し、部長は自分の席へと戻っていく。俺はその背中を、黙って見送ることしか出来なかった。
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