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第一章 今日も俺は手紙を届ける

第一話

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「佐竹加奈子さんでお間違いありませんか? ――はい、結構です。こちらにサインを」

 まだ暑さの残る初秋の午後。
 俺は一軒の農家の土間で、宛先人に書留のサインを求めていた。目の前の60代半ば程の女性は、郵便局の制服姿の俺を特に気にもとめない様子で、俺の手から一通の封筒を受け取る。それは彼女に宛てられた、恐らく息子さんからの手紙だ。

「――では」
 俺は彼女が手紙を受け取ったのを確かに確認すると、すぐさま踵を返した。早くここから立ち去る為に。

「待って」
 けれど、呼び止められる。

 ――またかよ。
 そう思うのと同時に俺の背中に突き刺さる、苛立ちの込められた女性の声。そこに侮蔑の感情も混ざっているように感じるのは、恐らく気のせいではないだろう。

「これ――受け取れないわ。悪戯よ。差し戻してちょうだい」

 ――あぁ、これで何度目だろうか。俺は心中で深い溜息をつく。

 そもそも差し戻しなど絶対に出来ないのだ。それに受け取り拒否されてしまったら、俺のノルマが達成できない。

 俺は顔に笑みを張り付け、女性の方を振り向いた。

「申し訳ございませんが、差し戻しは不可となっております。必要なければ、そちらで処分して頂いて結構ですから」
 なるべく声を押さえて、申し訳なさげに告げる。

 すると女性は絶句し、顔を強ばらせた。俺はその姿を他人事のように感じながら、もう一度だけ頭を下げる。

「――では、これで」
 そして今度こそ、逃げるようにその場を後にした。
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