B線上のアリア

callas

文字の大きさ
上 下
2 / 2

☆☆

しおりを挟む
 「久しぶりの王都だわ」

 あの卒業式から今まで、領地に引っ込んでいたアリアは、例の二人の結婚式のため、半年ぶりに王都に来ていた─


 あれから、この国の宰相を務める父に婚約解消を伝えたが、概ね陛下から聞いていたのだろう。
 特になにも言わず領地へ帰ることを許してくれたので、ここぞとばかりに羽を伸ばした。
 
 王都から離れた場所にあるランドバートの領地でのんびりと過ごしていたアリアの元に、結婚式の招待状が届いたのは、庭で優雅に紅茶を飲んでいるときだった。

 よく送ってこれたわね…って仕方ないか。仮にも私、公爵令嬢だし。

 流石に宰相の娘である彼女が不参加というのは要らぬ噂を立ててしまうので、面倒と思いながらも、参加の返事をすると同時に、王都へ旅立つ準備を始めた。
    
 そして今日─半年ぶりに戻って来たのである。


 ランドバートの屋敷は王都の中でも立地のいい場所にあり、王城からも近い。
 とはいえ、もちろん馬車を必要とする距離ではある。

 懐かしい顔ぶれに迎えられ、アリアは此処もやっぱりいいわねと再認識した。

 特に何も変わったこともなく、結婚式当日となる。
 朝から侍女たちに全身磨かれ、ドレスを着せられた彼女は、鏡に映る自分をみて彼女たちの思惑に苦笑いがこぼれる。

 (これは見初められて来いってことね……)

 あの婚約解消のあと、父も母も新たな婚約者を立てることはなかった。
 跡継ぎには兄がいるので、慌てなくてもいいということなのか、我が家は意外とそこが寛容だ。

 もともと王太子との婚約も、あちら側から言われただけで、我が家としてはどちらでも良かったという。
 アリア自身も彼が嫌とかは特になく、貴族だしこんなものか…ぐらいの気持ちしかなかった。
 
 特に好きな相手もいないため、自分では焦っているわけではないのだが、使用人たちは違ったのだろう。
 今回の結婚式で他国からも高位貴族らが集まってくる。

 あわよくば…

 そんな思いが見え隠れする彼女たちに呆れるが、心配かけていることもわかる。
 とりあえず準備はできたので、この場を立ち去るのが吉とばかりに、玄関に待たせている両親の元へアリアは急いだ。


 ◇


 式は恙無く終わった。
 その後の披露宴にて、皆が順番に新郎新婦へと祝いを述べるなか、アリアも両親と共に向かった。

 もう何も思っていなかったのに、フェルナンドには申し訳なさそうな顔、カナリアに関しては、アリアにしか聞こえない小さな声で「アリア様も愛する相手が見つかるといいですわね」と上から目線の言葉をかけられ、イラッとしたのは仕方がない。
 まぁ、両親がピクッと反応したので、二人には確実に聞こえたはず。

 しかし、そこは長年王妃教育で使った仮面えがおで、華麗にスルーした。
 

 その後は料理を堪能したり、他国の方に誘われてダンスをしたりして過ごした。

 パーティーが終わった後、招待客には部屋が用意されているらしく、時間も遅かったので、そのままアリアたちは自分たちに用意された部屋へと案内してもらった。


 そして深夜─

 目が覚めた彼女は、何だか眠れないからと、ガウンを纏い部屋に面した庭へと足を踏み出した。




 
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

王子の逆鱗に触れ消された女の話~執着王子が見せた異常の片鱗~

犬の下僕
恋愛
美貌の王子様に一目惚れしたとある公爵令嬢が、王子の妃の座を夢見て破滅してしまうお話です。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

処理中です...