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ルアナ・クリストフ
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(ジョエルときちんと話し合うべきだわ…)
お互いにきちんと話し合って蟠りなく前に進みたい。
ただの政略結婚の相手ならこのまま去っても良かったが、ジョエルは違う──番なのだ。
決別も込めて完全に断ち切らないと。
「…私も一緒に居ていいだろうか」
胸の内を伝えると、ノアが心配してくれた。
ジョエルとの話し合いが穏やかに進まないだろうことを察してのものだろう。
彼の提案に、無意識に入っていた肩の力が抜けるのが分かった。
(私が番だと知った今、ジョエルは婚約の継続を望むかしら…それともあんなに大切にしていた彼女が捕らえられたから懇願に来る?…どちらにしても彼と私の未来がこれから交わることはないのだから、きちんと伝えないと…それがけじめよ)
◇
「すまなかった!」
ルアナたちが部屋に入るとすぐに、ジョエルは彼女の側まで来て跪き、その手を強く握りしめてきた。
今までに見たことのない彼の姿に戸惑い反応が遅れる。
その間をどうとらえたのか、彼が言葉を続けた。
「今までの俺は騙されていたとは言え婚約者にとる態度ではなかった。これからは貴女だけを愛し、大切にすることを誓うから」
「えっ…と」
必死に言葉を並べるジョエルだが、ルアナには彼が何を言っているのか理解出来なかった。
「貴方との婚約は白紙になったはずだろ?」
そんな彼女の心情を察したのか、ノアが口をはさむ。その際、ルアナの手を彼から引き離すことも忘れずに。
「…くっ」
「とりあえず座ろう」
ノアは彼の返事を待たずに、ルアナを二人掛けのソファーへと促すと、そのまま自分も彼女の隣に腰かけた。
あまりにも自然な流れだったので、ジョエルは抗議する間もなく、自分は渋々反対側のソファーに腰かけた。
「だいたい騙されていたって言うが、聞いた話によると君は随分小さい頃からルアナ嬢を蔑ろにしていたんだろう?学園に入ってからはあの女と仲睦まじくしている姿を何人もの生徒が見ているというじゃないか…」
「…っそれは!」
「香りが似ていたから……それは言い訳にはならないよ」
その言葉にジョエルはなにも言い返せず俯くと、掌を強く握りこんだ。
「……私は…私は初めての顔合わせの日に貴方が私の番であると気づきましたわ」
ゆっくりと話し出したルアナの声に、ハッとしたようにジョエルが顔を上げた。
「まだ香りは感じられませんでしたが、本能がそうだと……」
胸の前できつく両手を握りしめる彼女に、これまでの後悔が押し寄せる。
「……君との婚約を、初めから嫌っていたわけじゃない…っ嘘じゃない!本当だ!……ただ…あの日」
あの日とは彼がマノンと出会った日のことだろう─
「…あの日は婚約のことで家がバタバタしていたんだ……いつも側にいる使用人たちも忙しそうにしていて…つい…普段は一人じゃ許可が降りない外出も今なら出来るんじゃないかと……それがどれだけ危険なことか今ならわかる。俺は運が良かったんだ……案の定迷子になって頼れる大人もいなくて…途方にくれていたところに声をかけてくれたのが彼女だったんだ」
(まさに運命の出会いね…)
「彼女は困っている俺を心配して、広場まで案内してくれたんだ…今まで身近に同い年の女の子なんていなくて、その……歩いてるときずっと手を握られてすごくドキドキしたんだ」
困っているところを助けられたら誰だって好感を持ってしまうでしょうね……
それがもし可愛い女の子だったら?──好感は好意に変わるでしょうね
(…それにしても私は一体何を聞かされているのかしら)
別に今さらそんな言い訳を聞いたところでどうしようもないのだけれど?
お互いにきちんと話し合って蟠りなく前に進みたい。
ただの政略結婚の相手ならこのまま去っても良かったが、ジョエルは違う──番なのだ。
決別も込めて完全に断ち切らないと。
「…私も一緒に居ていいだろうか」
胸の内を伝えると、ノアが心配してくれた。
ジョエルとの話し合いが穏やかに進まないだろうことを察してのものだろう。
彼の提案に、無意識に入っていた肩の力が抜けるのが分かった。
(私が番だと知った今、ジョエルは婚約の継続を望むかしら…それともあんなに大切にしていた彼女が捕らえられたから懇願に来る?…どちらにしても彼と私の未来がこれから交わることはないのだから、きちんと伝えないと…それがけじめよ)
◇
「すまなかった!」
ルアナたちが部屋に入るとすぐに、ジョエルは彼女の側まで来て跪き、その手を強く握りしめてきた。
今までに見たことのない彼の姿に戸惑い反応が遅れる。
その間をどうとらえたのか、彼が言葉を続けた。
「今までの俺は騙されていたとは言え婚約者にとる態度ではなかった。これからは貴女だけを愛し、大切にすることを誓うから」
「えっ…と」
必死に言葉を並べるジョエルだが、ルアナには彼が何を言っているのか理解出来なかった。
「貴方との婚約は白紙になったはずだろ?」
そんな彼女の心情を察したのか、ノアが口をはさむ。その際、ルアナの手を彼から引き離すことも忘れずに。
「…くっ」
「とりあえず座ろう」
ノアは彼の返事を待たずに、ルアナを二人掛けのソファーへと促すと、そのまま自分も彼女の隣に腰かけた。
あまりにも自然な流れだったので、ジョエルは抗議する間もなく、自分は渋々反対側のソファーに腰かけた。
「だいたい騙されていたって言うが、聞いた話によると君は随分小さい頃からルアナ嬢を蔑ろにしていたんだろう?学園に入ってからはあの女と仲睦まじくしている姿を何人もの生徒が見ているというじゃないか…」
「…っそれは!」
「香りが似ていたから……それは言い訳にはならないよ」
その言葉にジョエルはなにも言い返せず俯くと、掌を強く握りこんだ。
「……私は…私は初めての顔合わせの日に貴方が私の番であると気づきましたわ」
ゆっくりと話し出したルアナの声に、ハッとしたようにジョエルが顔を上げた。
「まだ香りは感じられませんでしたが、本能がそうだと……」
胸の前できつく両手を握りしめる彼女に、これまでの後悔が押し寄せる。
「……君との婚約を、初めから嫌っていたわけじゃない…っ嘘じゃない!本当だ!……ただ…あの日」
あの日とは彼がマノンと出会った日のことだろう─
「…あの日は婚約のことで家がバタバタしていたんだ……いつも側にいる使用人たちも忙しそうにしていて…つい…普段は一人じゃ許可が降りない外出も今なら出来るんじゃないかと……それがどれだけ危険なことか今ならわかる。俺は運が良かったんだ……案の定迷子になって頼れる大人もいなくて…途方にくれていたところに声をかけてくれたのが彼女だったんだ」
(まさに運命の出会いね…)
「彼女は困っている俺を心配して、広場まで案内してくれたんだ…今まで身近に同い年の女の子なんていなくて、その……歩いてるときずっと手を握られてすごくドキドキしたんだ」
困っているところを助けられたら誰だって好感を持ってしまうでしょうね……
それがもし可愛い女の子だったら?──好感は好意に変わるでしょうね
(…それにしても私は一体何を聞かされているのかしら)
別に今さらそんな言い訳を聞いたところでどうしようもないのだけれど?
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