黒鳥は踊る~あなたの番は私ですけど?~

callas

文字の大きさ
上 下
13 / 22
ルアナ・クリストフ

2

しおりを挟む
 「……懐かしい夢ね」

 目が覚めたが動く気になれず、ルアナはベッドに横になったまま天蓋を見つめた──



 あれから月日が流れ11歳になった彼女の現状はお世辞にもいいとは言えなかった。

 ジョエルとはあの日から何度か顔を合わせていたが、彼の態度は変わらず、此方に敵意を向けたまま。
 
 (なぜ……私は自分の番に嫌われているの?)

 日に日にルアナの心は疲弊していき、ついには国王である父に相談し、自身のフェロモン香りをコントロールする術を尋ねていた。

 「いいのか?」
 父の心配そうな顔。
 (……良いわけない)
 ルアナは何も言わず俯き、両手をきつく握りしめた。

 「体が成長すれば、フェロモン香りが濃くなり、今は分からなくても、自ずと気づくようになるのだぞ?……それまで待てぬのか?」

 「……で彼を得ても、きっと蟠りは残ると思うの……それに……もしそれでも彼の態度が変わらなければ?」

 「……」
 
 「だから……だから私は、自分が彼の番だということを隠して、もし…もしも、彼に好きな相手が出来たときは、その手を離そうと思います」

 「ルアナ…」

 「別に番同士が必ず結婚するわけではないし……手離すことも愛でしょう?」

 気丈に話してはいるが、今にも泣きそうな顔の娘に、縁談を早く纏めるべきではなかったと彼は後悔した。

 「すまない……お前にいい嫁ぎ先をと選んだつもりだったのに…」

 「いいの…それにまだ諦めたわけではないから」
 そう微笑む娘を、彼はきつく抱き締めた。

 「……ではコントロールの術を教えてやろう」

 



 ◇



 それから入学まで、ルアナは彼には会わず、自分の教育と合わせてフェロモン香りを抑える練習を始めた。

 その間に月のものがきて、彼女の体は大人への段階を上ったが、フェロモン香りはきちんと抑えられているとのことだった。
 一応抑えなかったら、が発するのも確認済み─


 「入学までに間に合ってよかったわ」

 来月から通う王立学園─
 ルアナも婚約者も12歳になったので、学園に入学することが決まっている。

 基本的に、貴族の子息子女が通うのだが、能力があり、且つ試験に受かれば、平民でも通うことが出来る。
 まぁ圧倒的に人数は少ないが──

 久しぶりに会う婚約者に、ルアナの胸は高鳴る一方、恐怖もあった。

 (会えることはうれしいけれど、またあの目で見られると思うと……)

 それでも恋しさの方が勝り、入学式の日、朝から何度もおかしなところがないかを確認しては、彼との再会に心を踊らせていたのである。



 「今日からここに通うのね」
 学園という初めての場所に緊張の面持ちで馬車から降りた。
 すぐに生徒会らしき人が来て、会場に案内してくれた。

 (彼はもう来たかしら……)
 キョロキョロするわけにもいかず、見える範囲で彼を探すが分からない。

 それから式が始まり、新入生代表としてルアナは壇上に立った。
 挨拶を終えて、席に戻る時ジョエルを見つけた。
 (あっ……)
 嬉しくなったが、すぐに逸らされた視線に(やっぱり……)と悲しくなった。

 式が終わり、それぞれが自分のクラスを確認して教室に入る。

 (私は……あっ彼と同じクラスだわ!)

 さっき視線を逸らされたことなど忘れ、ルアナは嬉しくなった。

 (毎日彼と一緒……ふふふ)
 浮き足立つままに教室に行こうと廊下を歩いていると、「ジョエル!」と呼ぶ声が聞こえた。

 「えっ……?」
 声のした方を振り向くと、蜂蜜色の長い髪をした少女が、自身の婚約者に走り寄っていた。

 貴族は走らない……彼女は平民なのだろう。
 それよりも気になるのは婚約者の名前を呼び捨てにしているところだ。
 この場にいるということは今年入学してきたのだろう。
 彼女は親しげにジョエルに話しかけ、彼も優しい顔でそれに答えている。

 (あんな顔見たことない……)

 ルアナは胸が痛くなり、これ以上二人を見ていたくなくて、足早にその場を去っていった。
 頭には疑問符だらけだ。

 彼女は誰なの?
 彼とどういう関係なの?
 なぜ名前を呼ばせているの?
 
 せっかく彼も同じクラスになれたと思って喜んでいたのに、ルアナの気持ちは沈んだ。
 更に最悪なことに、その彼女も同じクラスだった──

 先生が教室に入ってくると、皆の自己紹介が始まった。
 それによると彼女はマノン・シュベール─やはりというか平民だった。

 貴族の彼と平民の彼女がどこで知り合ったのだろう。
 あの様子では今日が初対面ではないはずだ。

 自己紹介も終わり、先生よりこれからの学園生活の説明があったところで、今日は終わりとなった。

 皆が帰宅するなか、ルアナは慌ててジョエルの元に向かった。

 「あの……ジョエル!」
 久しぶりに呼ぶ名前に緊張しつつ声をかければ、彼は足を止めてこちらを振り向いた。
 「何?」
 その顔は先ほどマノンに向けられていたものと違い、いつもの─嫌悪を顕にした─表情だった。

 「……っ……同じクラスですし、これから一緒に登下校しませ「学園での接触は控えてくれ」……えっ?」

 「どうせ王命だからこの婚約は破棄できない。せっかく番に会えたのにお前のせいで結ばれない」

 こちらを睨む目よりも、彼が今口にした内容が気になって仕方がなかった。

 「つ…がい?」

 「そうだ。マノンは俺の番だ」

 その後彼が何か言っていたが、ルアナは呆然とその場に立ち尽くしていた。



 「どういうこと……?」














 

 






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】番って便利な言葉ね

朝山みどり
恋愛
番だと言われて異世界に召喚されたわたしは、番との永遠の愛に胸躍らせたが、番は迎えに来なかった。 召喚者が持つ能力もなく。番の家も冷たかった。 しかし、能力があることが分かり、わたしは一人で生きて行こうと思った・・・・ 本編完結しましたが、ときおり番外編をあげます。 ぜひ読んで下さい。 「第17回恋愛小説大賞」 で奨励賞をいただきました。 ありがとうございます 短編から長編へ変更しました。 62話で完結しました。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

処理中です...