11 / 22
ディアナ・レイティスト
2
しおりを挟む
ジーク・ロンベルトから訪問伺いの手紙が届いた。
(まずいわ…)
普段ならすぐに承諾の返事をするところだが、ディアナは先日の夜会での別れ際に彼が見せた表情を思い出した─
◇
「あぁ……そういえば先程隣にいた女性は…」
「まぁ…運命の番である私ではなく、他の女性を気にするなんて……」
「すっすまない……少し気になったもので…」
悲しげに顔を伏せれば、彼の焦ったような声が聞こえた。
(他人だと偽ったところですぐにバレるわ……まぁ私の姉なのは周知の事実だから仕方ないわね)
「クスッ……冗談ですわ。彼女は私の姉ですの」
「姉……」
「えぇ…似てないでしょう?でも仲の良い姉妹ですの」
こう言えば大抵の人は「あんな地味な姉も気にかけるなんて、君は優しいね」とディアナを誉めてくれる。
今回もその言葉を待っていたのだが、彼は何かを考え込んでしまい、それきりディアナに視線を向けなくなった。
(彼にふさわしいのは私よ!)
姉のものを奪ってきたディアナは、ここに来てジークが自分のものにならない可能性に憤りを覚え、無意識に握りしめていた手に力が入った。
(何としてもジーク様を自分のものにする!)
彼女はそのままジークに別れの言葉を告げると、会場を後にした。
ディアナの背中には、彼女を引き留める声がいくつか聞こえたが、その中に欲しい声は含まれていなかった─
◇
手紙を眺めて考え込むディアナに、両親は返事をどうするのか聞いてきた。
それに対し彼女は一週間待ってもらうようお願いした。
いつもならすぐに承諾するのにと両親は不思議に思ったが、特に理由は聞かず、その通りに返事を出した。
(猶予は一週間………エリックに頼まないと)
ディアナは早速自身の取り巻きの一人であるエリック・ハルベリーフに手紙を書いた。
彼はハルベリーフ子爵の三男だが、調香が得意で、自分が作り出した香りを売り出し、巷で人気の店を持っている。
そんな彼は匂いを嗅いだだけでその香りを作れるという特技を持っていた。
今までそれを聞かされても、何に使えるのかさっぱりわからなかったディアナだが、今回が正にその特技を活かす場面だろうと、オルディナがあの日身に付けていたドレスを持って彼のもとを訪れた。
◇
「あぁ……愛しいディアナ嬢!ようこそ我が家へ」
恭しくディアナの手を取り、その甲に口づけを落とすエリックに満足そうに微笑むと、早速お願いをした。
「ねぇエリック…貴方にしか出来ないことなんだけど……」
「君のためなら何でもするよ」
エリックはディアナの手を握りしめたまま、にっこり微笑んだ。
「実はこれなんだけど……」
ディアナは持ってきたドレスを取り出すと、それをエリックに渡した。
「これ?」
「このドレスじゃなくて、このドレスについてる香りを再現して欲しいのよ」
「うーん」
香りと聞いて真剣な顔になったエリックは、ドレスを受けとると、鼻を擦り付けるように嗅ぎはじめた。
「どう?出来そう?」
「……だいぶ薄くはなってるけど…大丈夫だよ……」
「……一週間で出来る?」
「うーん……3日あれば出来ると思う」
「流石だわエリック…やっぱり貴方を頼って良かった」
「そっそれじゃあ今度デートしてくれる?」
「……そうねぇ…これが出来たらね?」
「僕頑張るよ!」
特に深く追求することもなくディアナの希望を叶えてくれるエリックはとても扱いやすい。
「あっ…ちなみにこれは二人だけの秘密よ」
「…っ!!!僕と君だけの…」
「そうよ…もし誰かに話したら─」
「いっ言わないよ!二人だけの秘密だからね!」
「ふふふ……じゃあお願いね…」
熱にうなされたようなエリックをそのままに、ディアナはハルベリーフ家を後にした。
3日後─
再びエリックを訪れたディアナは、その仕上がりに満足した。
「……天才ね」
ディアナの満足そうな顔にエリックはホッと息を吐いた。
「あの香りでパルファンを作ってみたんだ…」
「…素敵……本当にありがとう」
(これで彼は私のもの……)
うっとりと眺めていると、エリックがもじもじしながら話しかけてきた。
「そっそしたら約束のデー…」
「ねぇ……もう1ついいかしら?」
「え?…あっ!何なに?」
「自分の匂いを消す香りって作れる?」
「……?…君はとてもいい匂いだよ?」
「(ちょっと気持ち悪いわね)……私ぢゃなくて……ほらお父様とか…ね?」
「あぁ……うん…それはすぐ出来るよ」
「本当?……じゃあお願いね?」
「う…うん……あの…それでデー」
「楽しみねデート」
「…うん!!」
「(チョロいわ)…で、いつ出来るの?」
「明日にでも!」
「そう……そしたらデートも明日行きましょう」
「うん!」
エリックの返事に満足するとディアナは仕上がったパルファンを鞄にしまうと上機嫌で帰っていった。
ジークが来るまでの一週間、ディアナは自分に甘い使用人を使って、オルディナの香水をエリックが作ったもの─香りを抑える─とすり替えて、それを彼女に必ずつけるように指示をした。
自分にはオルディナの香りを……
姉は自分の香水が変わっても特に気にする様子もなく、準備は万端だった。
後はジークがどう出るか─・・・
(さぁ勝負よ!)
滅多にない緊張感のもと、ディアナはジークを出迎えた。
結果は───ふふふ…私の勝ちね。
ジークはディアナの手を取った。
(オルディナのものは私のもの……)
(まずいわ…)
普段ならすぐに承諾の返事をするところだが、ディアナは先日の夜会での別れ際に彼が見せた表情を思い出した─
◇
「あぁ……そういえば先程隣にいた女性は…」
「まぁ…運命の番である私ではなく、他の女性を気にするなんて……」
「すっすまない……少し気になったもので…」
悲しげに顔を伏せれば、彼の焦ったような声が聞こえた。
(他人だと偽ったところですぐにバレるわ……まぁ私の姉なのは周知の事実だから仕方ないわね)
「クスッ……冗談ですわ。彼女は私の姉ですの」
「姉……」
「えぇ…似てないでしょう?でも仲の良い姉妹ですの」
こう言えば大抵の人は「あんな地味な姉も気にかけるなんて、君は優しいね」とディアナを誉めてくれる。
今回もその言葉を待っていたのだが、彼は何かを考え込んでしまい、それきりディアナに視線を向けなくなった。
(彼にふさわしいのは私よ!)
姉のものを奪ってきたディアナは、ここに来てジークが自分のものにならない可能性に憤りを覚え、無意識に握りしめていた手に力が入った。
(何としてもジーク様を自分のものにする!)
彼女はそのままジークに別れの言葉を告げると、会場を後にした。
ディアナの背中には、彼女を引き留める声がいくつか聞こえたが、その中に欲しい声は含まれていなかった─
◇
手紙を眺めて考え込むディアナに、両親は返事をどうするのか聞いてきた。
それに対し彼女は一週間待ってもらうようお願いした。
いつもならすぐに承諾するのにと両親は不思議に思ったが、特に理由は聞かず、その通りに返事を出した。
(猶予は一週間………エリックに頼まないと)
ディアナは早速自身の取り巻きの一人であるエリック・ハルベリーフに手紙を書いた。
彼はハルベリーフ子爵の三男だが、調香が得意で、自分が作り出した香りを売り出し、巷で人気の店を持っている。
そんな彼は匂いを嗅いだだけでその香りを作れるという特技を持っていた。
今までそれを聞かされても、何に使えるのかさっぱりわからなかったディアナだが、今回が正にその特技を活かす場面だろうと、オルディナがあの日身に付けていたドレスを持って彼のもとを訪れた。
◇
「あぁ……愛しいディアナ嬢!ようこそ我が家へ」
恭しくディアナの手を取り、その甲に口づけを落とすエリックに満足そうに微笑むと、早速お願いをした。
「ねぇエリック…貴方にしか出来ないことなんだけど……」
「君のためなら何でもするよ」
エリックはディアナの手を握りしめたまま、にっこり微笑んだ。
「実はこれなんだけど……」
ディアナは持ってきたドレスを取り出すと、それをエリックに渡した。
「これ?」
「このドレスじゃなくて、このドレスについてる香りを再現して欲しいのよ」
「うーん」
香りと聞いて真剣な顔になったエリックは、ドレスを受けとると、鼻を擦り付けるように嗅ぎはじめた。
「どう?出来そう?」
「……だいぶ薄くはなってるけど…大丈夫だよ……」
「……一週間で出来る?」
「うーん……3日あれば出来ると思う」
「流石だわエリック…やっぱり貴方を頼って良かった」
「そっそれじゃあ今度デートしてくれる?」
「……そうねぇ…これが出来たらね?」
「僕頑張るよ!」
特に深く追求することもなくディアナの希望を叶えてくれるエリックはとても扱いやすい。
「あっ…ちなみにこれは二人だけの秘密よ」
「…っ!!!僕と君だけの…」
「そうよ…もし誰かに話したら─」
「いっ言わないよ!二人だけの秘密だからね!」
「ふふふ……じゃあお願いね…」
熱にうなされたようなエリックをそのままに、ディアナはハルベリーフ家を後にした。
3日後─
再びエリックを訪れたディアナは、その仕上がりに満足した。
「……天才ね」
ディアナの満足そうな顔にエリックはホッと息を吐いた。
「あの香りでパルファンを作ってみたんだ…」
「…素敵……本当にありがとう」
(これで彼は私のもの……)
うっとりと眺めていると、エリックがもじもじしながら話しかけてきた。
「そっそしたら約束のデー…」
「ねぇ……もう1ついいかしら?」
「え?…あっ!何なに?」
「自分の匂いを消す香りって作れる?」
「……?…君はとてもいい匂いだよ?」
「(ちょっと気持ち悪いわね)……私ぢゃなくて……ほらお父様とか…ね?」
「あぁ……うん…それはすぐ出来るよ」
「本当?……じゃあお願いね?」
「う…うん……あの…それでデー」
「楽しみねデート」
「…うん!!」
「(チョロいわ)…で、いつ出来るの?」
「明日にでも!」
「そう……そしたらデートも明日行きましょう」
「うん!」
エリックの返事に満足するとディアナは仕上がったパルファンを鞄にしまうと上機嫌で帰っていった。
ジークが来るまでの一週間、ディアナは自分に甘い使用人を使って、オルディナの香水をエリックが作ったもの─香りを抑える─とすり替えて、それを彼女に必ずつけるように指示をした。
自分にはオルディナの香りを……
姉は自分の香水が変わっても特に気にする様子もなく、準備は万端だった。
後はジークがどう出るか─・・・
(さぁ勝負よ!)
滅多にない緊張感のもと、ディアナはジークを出迎えた。
結果は───ふふふ…私の勝ちね。
ジークはディアナの手を取った。
(オルディナのものは私のもの……)
16
お気に入りに追加
4,311
あなたにおすすめの小説
【本編完結】番って便利な言葉ね
朝山みどり
恋愛
番だと言われて異世界に召喚されたわたしは、番との永遠の愛に胸躍らせたが、番は迎えに来なかった。
召喚者が持つ能力もなく。番の家も冷たかった。
しかし、能力があることが分かり、わたしは一人で生きて行こうと思った・・・・
本編完結しましたが、ときおり番外編をあげます。
ぜひ読んで下さい。
「第17回恋愛小説大賞」 で奨励賞をいただきました。 ありがとうございます
短編から長編へ変更しました。
62話で完結しました。
龍王の番
ちゃこ
恋愛
遥か昔から人と龍は共生してきた。
龍種は神として人々の信仰を集め、龍は人間に対し加護を与え栄えてきた。
人間達の国はいくつかあれど、その全ての頂点にいるのは龍王が纏める龍王国。
そして龍とは神ではあるが、一つの種でもある為、龍特有の習性があった。
ーーーそれは番。
龍自身にも抗えぬ番を求める渇望に翻弄され身を滅ぼす龍種もいた程。それは大切な珠玉の玉。
龍に見染められれば一生を安泰に生活出来る為、人間にとっては最高の誉れであった。
しかし、龍にとってそれほど特別な存在である番もすぐに見つかるわけではなく、長寿である龍が時には狂ってしまうほど出会える確率は低かった。
同じ時、同じ時代に生まれ落ちる事がどれほど難しいか。如何に最強の種族である龍でも天に任せるしかなかったのである。
それでも番を求める龍種の嘆きは強く、出逢えたらその番を一時も離さず寵愛する為、人間達は我が娘をと龍に差し出すのだ。大陸全土から若い娘に願いを託し、番いであれと。
そして、中でも力の強い龍種に見染められれば一族の誉れであったので、人間の権力者たちは挙って差し出すのだ。
龍王もまた番は未だ見つかっていないーーーー。
後悔だけでしたらどうぞご自由に
風見ゆうみ
恋愛
女好きで有名な国王、アバホカ陛下を婚約者に持つ私、リーシャは陛下から隣国の若き公爵の婚約者の女性と関係をもってしまったと聞かされます。
それだけでなく陛下は私に向かって、その公爵の元に嫁にいけと言いはなったのです。
本来ならば、私がやらなくても良い仕事を寝る間も惜しんで頑張ってきたというのにこの仕打ち。
悔しくてしょうがありませんでしたが、陛下から婚約破棄してもらえるというメリットもあり、隣国の公爵に嫁ぐ事になった私でしたが、公爵家の使用人からは温かく迎えられ、公爵閣下も冷酷というのは噂だけ?
帰ってこいという陛下だけでも面倒ですのに、私や兄を捨てた家族までもが絡んできて…。
※R15は保険です。
※小説家になろうさんでも公開しています。
※名前にちょっと遊び心をくわえています。気になる方はお控え下さい。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風、もしくはオリジナルです。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字、見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。
キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。
離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、
窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語
くたばれ番
あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。
「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。
これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。
────────────────────────
主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです
不定期更新
ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています
柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。
領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。
しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。
幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。
「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」
「お、畏れ多いので結構です!」
「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」
「もっと重い提案がきた?!」
果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。
さくっとお読みいただけますと嬉しいです。
気付いたのならやめましょう?
ましろ
恋愛
ラシュレ侯爵令嬢は婚約者である第三王子を愛していた。たとえ彼に子爵令嬢の恋人がいようとも。卒業パーティーで無実の罪で断罪されようとも。王子のその愚かな行為を許し、その愛を貫き通したのだ。己の過ちに気づいた第三王子は婚約者の愛に涙を流し、必ず幸せにすることを誓った。人々はその愚かなまでの無償の愛を「真実の愛」だと褒め称え、二人の結婚を祝福した。
それが私の父と母の物語。それからどうなったか?二人の間にアンジェリークという娘が生まれた。父と同じ月明かりのような淡いプラチナブロンドの髪にルビーレッドの瞳。顔立ちもよく似ているらしい。父は私が二歳になる前に亡くなったから、絵でしか見たことがない。それが私。
真実の愛から生まれた私は幸せなはず。そうでなくては許されないの。あの選択は間違いなかったと、皆に認められなくてはいけないの。
そう言われて頑張り続けたけど……本当に?
ゆるゆる設定、ご都合主義です。タグ修正しました。
好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】
須木 水夏
恋愛
大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。
メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。
(そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。)
※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。
※ヒーローは変わってます。
※主人公は無意識でざまぁする系です。
※誤字脱字すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる