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ディアナ・レイティスト

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 ジーク・ロンベルトから訪問伺いの手紙が届いた。

 (まずいわ…)

 普段ならすぐに承諾の返事をするところだが、ディアナは先日の夜会での別れ際に彼が見せた表情を思い出した─



 ◇



 「あぁ……そういえば先程隣にいた女性は…」
 「まぁ…運命の番である私ではなく、他の女性を気にするなんて……」
 「すっすまない……少し気になったもので…」
 悲しげに顔を伏せれば、彼の焦ったような声が聞こえた。

 (他人だと偽ったところですぐにバレるわ……まぁ私の姉なのは周知の事実だから仕方ないわね)
 「クスッ……冗談ですわ。彼女は私の姉ですの」
 「姉……」
 「えぇ…似てないでしょう?でも仲の良い姉妹ですの」
 こう言えば大抵の人は「あんな地味な姉も気にかけるなんて、君は優しいね」とディアナを誉めてくれる。

 今回もその言葉を待っていたのだが、彼は何かを考え込んでしまい、それきりディアナに視線を向けなくなった。


 (彼にふさわしいのは私よ!)
 姉のものを奪ってきたディアナは、ここに来てジークが自分のものにならない可能性に憤りを覚え、無意識に握りしめていた手に力が入った。

 (何としてもジーク様を自分のものにする!)
 
 彼女はそのままジークに別れの言葉を告げると、会場を後にした。
 ディアナの背中には、彼女を引き留める声がいくつか聞こえたが、その中に欲しい声は含まれていなかった─

 

 ◇


 手紙を眺めて考え込むディアナに、両親は返事をどうするのか聞いてきた。
 それに対し彼女は一週間待ってもらうようお願いした。

 いつもならすぐに承諾するのにと両親は不思議に思ったが、特に理由は聞かず、その通りに返事を出した。

 (猶予は一週間………エリックに頼まないと)

 ディアナは早速自身の取り巻きの一人であるエリック・ハルベリーフに手紙を書いた。

 彼はハルベリーフ子爵の三男だが、調香が得意で、自分が作り出した香りを売り出し、巷で人気の店を持っている。

 そんな彼は匂いを嗅いだだけでその香りを作れるという特技を持っていた。
 今までそれを聞かされても、何に使えるのかさっぱりわからなかったディアナだが、今回が正にその特技を活かす場面だろうと、オルディナがあの日身に付けていたドレスを持って彼のもとを訪れた。



 ◇



 「あぁ……愛しいディアナ嬢!ようこそ我が家へ」
 恭しくディアナの手を取り、その甲に口づけを落とすエリックに満足そうに微笑むと、早速をした。

 「ねぇエリック…貴方にしか出来ないことなんだけど……」
 「君のためなら何でもするよ」
 エリックはディアナの手を握りしめたまま、にっこり微笑んだ。

 「実はこれなんだけど……」
 ディアナは持ってきたドレスを取り出すと、それをエリックに渡した。
 「これ?」
 「このドレスじゃなくて、このドレスについてる香りを再現して欲しいのよ」
 「うーん」
 香りと聞いて真剣な顔になったエリックは、ドレスを受けとると、鼻を擦り付けるように嗅ぎはじめた。

 「どう?出来そう?」
 「……だいぶ薄くはなってるけど…大丈夫だよ……」
 「……一週間で出来る?」
 「うーん……3日あれば出来ると思う」
 「流石だわエリック…やっぱり貴方を頼って良かった」
 「そっそれじゃあ今度デートしてくれる?」
 「……そうねぇ…が出来たらね?」
 「僕頑張るよ!」

 特に深く追求することもなくディアナの希望を叶えてくれるエリックはとても扱いやすい。

 「あっ…ちなみにこれは二人だけのよ」
 「…っ!!!僕と君だけの…」
 「そうよ…もし誰かに話したら─」
 「いっ言わないよ!二人だけの秘密だからね!」
 「ふふふ……じゃあお願いね…」

 熱にうなされたようなエリックをそのままに、ディアナはハルベリーフ家を後にした。


 3日後─
 再びエリックを訪れたディアナは、その仕上がりに満足した。

 「……天才ね」
 ディアナの満足そうな顔にエリックはホッと息を吐いた。

 「あの香りでパルファンを作ってみたんだ…」
 「…素敵……本当にありがとう」

 (これで彼は私のもの……)
 うっとりと眺めていると、エリックがもじもじしながら話しかけてきた。

 「そっそしたら約束のデー…」
 「ねぇ……もう1ついいかしら?」
 「え?…あっ!何なに?」
 「自分の匂いを消す香りって作れる?」
 「……?…君はとてもいい匂いだよ?」
 「(ちょっと気持ち悪いわね)……私ぢゃなくて……ほらお父様とか…ね?」
 「あぁ……うん…それはすぐ出来るよ」
 「本当?……じゃあお願いね?」
 「う…うん……あの…それでデー」
 「楽しみねデート」
 「…うん!!」
 「(チョロいわ)…で、いつ出来るの?」
 「明日にでも!」
 「そう……そしたらデートも明日行きましょう」
 「うん!」
 
 エリックの返事に満足するとディアナは仕上がったパルファンを鞄にしまうと上機嫌で帰っていった。
 


 ジークが来るまでの一週間、ディアナは自分に甘い使用人を使って、オルディナの香水をエリックが作ったもの─香りを抑える─とすり替えて、それを彼女に必ずつけるように指示をした。
 自分にはオルディナジークの番の香りを……

 姉は自分の香水が変わっても特に気にする様子もなく、準備は万端だった。

 後はジークがどう出るか─・・・

 (さぁ勝負よ!)

 滅多にない緊張感のもと、ディアナはジークを出迎えた。

 結果は───ふふふ…私の勝ちね。


 ジークはディアナの手を取った。
 
 (オルディナのものは私のもの……)














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