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オルディナ・レイティスト
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ソファにはオルディナとクロイドが並んで座り、テーブルを挟んで反対側に伯爵夫妻が座った。
「そ……それでグランドヘルムの王太子さまがどうして我が家に?……その…今我が家は立て込んでおりまして…」
伯爵がチラチラとオルディナに視線を送り、何かを目で訴えてくるが彼女はそれを無視した。
昨日追い出した娘が、まさかの大物─とはいってもすでに顔見知りの相手だったのだが─を連れて現れるとは想像もしていなかった伯爵夫妻は、冷や汗が止まらない。
「あぁ大丈夫……私の用事とは今この家で起きている事と関係があるのですよ」
「え?」
「とりあえず……二人をここに呼んでもらってもよろしいですか?」
早い展開についていけていない伯爵は、とにかく言われた通りにと、控えていたメイドに二人を呼びに行かせた。
◇
勢いよく開け放たれた客室の扉から、甘いしびれを纏った香りが押し寄せてきた。
(──っ!)
その瞬間、オルディナの手を握っていたクロイドの手に僅かに力が入った。
(あぁクロイドはやっぱり心配してたのね……)
先程までの自信たっぷりな様子とは違い、何だか余裕の無い様子に胸が熱くなった。
大丈夫だというように優しく手を握り返すと、ホッとしたように力が抜けた。
「~~っこの香り!やはり君が私の番だったんだな!」
二人の空気を無視して、ジークはズカズカとオルディナの側によってきた。
あと少しと言うところで、オルディナを隠すように立ち上がったクロイドに、ジークは今気づいたとばかりに目を見開いた。
そのジークをクロイドは無言で見据えた。
「こっこれはクロイド殿……ええっとどうしてここに?」
一瞬たじろいだジークの質問には答えず、クロイドはその行動を非難した。
「それよりも婚約者でない女性をいきなり呼び捨てにするのはどうかと思いますよ?」
「─っしかし彼女は私の番です!」
「ほぉ?」
噛みつくように発した言葉にクロイドは眉を顰めた。
「君の番はディアナ嬢ではなかったのかな?……ねえ?」
ジークの後から部屋に入ってきたディアナにクロイドは尋ねた。
オルディナを憎々しげに睨んでいた彼女は、突然話を振られて、すぐに反応できなかった。
「私はこの女に騙されていたんだ!」
ジークに指差されたディアナは顔を真っ赤にさせ俯いた。
「……とりあえず話をしましょうか。」
ニッコリと微笑んでみせたクロイド。だがしかしその目だけは笑っていなかった。
(何か……性格変わってない?)
大人しく見守っていたオルディナは、クロイドから発せられる圧に身を竦ませた。
◇
「ではまず、伯爵夫妻から……昨日貴女方は何故オルディナを追い出したのでしょうか?……仮にも二人の娘ですよね?」
「なっ…!!」
その言葉に一早く反応したのはジークだった。
「貴様らは私の番を追い出したというのか!!」
怒り心頭の彼を見るオルディナの目は…無だった。
(変わり身の早さについていけないわ……)
昨日の自分の行動を棚にあげてよく言えたものだと、半ば呆れ果てた。
「…ふぅ……ジーク殿、すまないが怒るのは後にしてくれないか?」
ジークはまだ何か言いたそうにしていたが、渋々席についた。
それを確認したクロイドは再度伯爵夫妻に視線を向けた。
「あぁそれと呼び戻そうとした理由も……ね?」
「……オ…オルディナが……我が家の家名を汚したと思い……」
「………それは追い出されるほどの事だったのでしょうか?」
苦しげに言葉を発する伯爵にお構いなしにクロイドは切り込んだ。
夫人の顔色は真っ青だ。
「私が聞いた話では、オルディナが二人を追い回していると彼女が騒ぎだしたことが原因だと………」
「それはほんとの事でっ!」
今まで大人しく俯いていたディアナが、顔を上げて目を潤ませながら訴えた。
「何故そう思ったのですか?」
「えっ……だって行く先々に現れたら誰だって」
思った反応と違ったのか、彼女は動揺した。
「逆に考えれば二人が彼女を追い回していたとも取れないか……というか君がね?」
スッと細められた目に、ディアナはビクッと肩を震わせた。
「っそれはどういう……」
信じられないとばかりに伯爵が立ち上がった。
「まず大前提として、彼も言ったように、妹君はジーク殿の番ではない」
「………」
ディアナは何も反応しなかった。
「君は初めからオルディナが彼の番だと気づいていた。常日頃から彼女より優位に立ちたがった君は、彼が自分を選んだことに、優越感を感じてたんじゃないのか?」
「そんなことはっ!」
「ないとは言わせないよ?私は人の魂の色が見えるんだ。君が姉の前にいるときは、必ずその色のどす黒さが増してたよ?只でさえ汚いのに……」
汚いと言われたディアナは羞恥に顔を赤くした。
「だいたい君たちは姉妹なんだ。あんなところで騒がなくても、家で注意すれば良かったんじゃないのか?」
「それは……」
言葉を濁すディアナに、クロイドはさらに続けた。
「君は姉の番が自分といるところを見せびらかしたかった。姉の行く先を使用人にでも聞いていたんじゃないのか?貴族のしかも女性が、行き先も告げずに出るのはよろしくないからね……逆に言えば行き先を聞いて、避けることも出来たはずだ。付きまとわれて嫌だったと言うならね?」
伯爵夫妻は信じられないものを見る目でディアナを見つめた。
「確かに……出掛けるときは大体君が行きたいと言ったところだった……」
ジークも思い出したように呟いた。
「まぁそれでも番だ……何かしらの力が働いてホントに偶然会うことも多々あったのだろう。焦った君は皆の前で騒ぐことで姉を貶めたかったんだろ。その作戦は見事成功した。だって周りは君の同情の目を、彼女には蔑視の目を向けたのだから……さらにおまけ付きで、伯爵夫妻が彼女を追い出した」
言われた二人は気まずそうに視線を反らした。
オルディナはその時の周りが自分を見る目を思い出し、身震いした。
するとクロイドが安心させるように背中を撫でた。
「私の番に気安く触れないでもらいたい!」
二人の雰囲気にジークが焦ったように抗議してきたが、クロイドはそれを無視して話を続けた。
「ねぇ伯爵……罪を犯したならまだしも、たかだか追い回した、まぁ実際にはそれも違ったのだけれど、果たしてその程度でオルディナは追い出されないといけなかったのかな?」
それからクロイドはディアナに視線を向けた。
「君も……せっかく今まで騙せていたのに、既成事実さえ作れば問題ないと思った?君は他国の、それも高位貴族を謀ったことになるんだよ?それこそ家名に泥を塗る行為じゃないのかい?」
自分のしたことに今更ながらに気づき、彼女の顔はみるみる青ざめた。
(さっきからよく顔の色が変わるなぁ……)
オルディナはあまり好きではない妹だが、何だか哀れになってきた。
(だからって彼を止めるつもりはないけどね……)
それだけの事をしたのだ。
これを期にしっかり反省してもらいたい。
「でも一体どうやって……?」
よく理解していない伯爵夫妻に説明する前に、クロイドはチラリとディアナを見た。
彼女の顔は青ざめたままだが、彼は気にすることなく、むしろどこかその様子を楽しむように口を開いた。
「私も初めから彼女の番がジークだと気づいていたんだよ……ただ彼がオルディナではなくディアナの手を取ったことは意外だったけど」
「それはっ……」
ジークが何か言おうと立ち上がったが、クロイドは一瞥しただけだった。
「あのときはまだ何もしていなかったんだ……というかいきなりだからできなかったと言うべきか?」
「………」
ディアナは何も言わない。
「君はオルディナのすぐ側に居たから彼女の発した香りに気づいた。近くにいたから自分だと誤解してくれたが、踊ってるときに違うと気づかれて焦ったんじゃないか?」
「……………」
「高位貴族で、容姿もいい。そんな彼が姉の結婚相手になるのが我慢ならなかったんだろ?……何としてもその地位を手に入れたかった君は、番の香りを利用したんだ。………そう…君はパルファンを作った。もちろん君一人では出来ないだろう。きちんと協力者もわかっている。まぁ彼は君がこんなことに使うとは思っても見なかったようだけれどね」
「でも流石にそれじゃあオルディナと会ったときにわかるのではなくて?だって流石に偽物と本物の香りじゃあ…ねぇ?」
伯爵夫人はまだ納得の行かない顔をしていた。
「もちろんディアナだけではダメだ。だから君はオルディナの分も作った。ただし彼女のは香りを抑えるものをね」
「「「!!!!!」」」
伯爵夫妻とジークは驚いてディアナを見たが、その表情は事実だと語っているようなものだった。
かくゆうオルディナもまさか自分にそんなものが使われているとは思わず内心驚いていた。
気づいてなかったの?とでもいうようなクロイドの視線が痛い──
「そ……それでグランドヘルムの王太子さまがどうして我が家に?……その…今我が家は立て込んでおりまして…」
伯爵がチラチラとオルディナに視線を送り、何かを目で訴えてくるが彼女はそれを無視した。
昨日追い出した娘が、まさかの大物─とはいってもすでに顔見知りの相手だったのだが─を連れて現れるとは想像もしていなかった伯爵夫妻は、冷や汗が止まらない。
「あぁ大丈夫……私の用事とは今この家で起きている事と関係があるのですよ」
「え?」
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(──っ!)
その瞬間、オルディナの手を握っていたクロイドの手に僅かに力が入った。
(あぁクロイドはやっぱり心配してたのね……)
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大丈夫だというように優しく手を握り返すと、ホッとしたように力が抜けた。
「~~っこの香り!やはり君が私の番だったんだな!」
二人の空気を無視して、ジークはズカズカとオルディナの側によってきた。
あと少しと言うところで、オルディナを隠すように立ち上がったクロイドに、ジークは今気づいたとばかりに目を見開いた。
そのジークをクロイドは無言で見据えた。
「こっこれはクロイド殿……ええっとどうしてここに?」
一瞬たじろいだジークの質問には答えず、クロイドはその行動を非難した。
「それよりも婚約者でない女性をいきなり呼び捨てにするのはどうかと思いますよ?」
「─っしかし彼女は私の番です!」
「ほぉ?」
噛みつくように発した言葉にクロイドは眉を顰めた。
「君の番はディアナ嬢ではなかったのかな?……ねえ?」
ジークの後から部屋に入ってきたディアナにクロイドは尋ねた。
オルディナを憎々しげに睨んでいた彼女は、突然話を振られて、すぐに反応できなかった。
「私はこの女に騙されていたんだ!」
ジークに指差されたディアナは顔を真っ赤にさせ俯いた。
「……とりあえず話をしましょうか。」
ニッコリと微笑んでみせたクロイド。だがしかしその目だけは笑っていなかった。
(何か……性格変わってない?)
大人しく見守っていたオルディナは、クロイドから発せられる圧に身を竦ませた。
◇
「ではまず、伯爵夫妻から……昨日貴女方は何故オルディナを追い出したのでしょうか?……仮にも二人の娘ですよね?」
「なっ…!!」
その言葉に一早く反応したのはジークだった。
「貴様らは私の番を追い出したというのか!!」
怒り心頭の彼を見るオルディナの目は…無だった。
(変わり身の早さについていけないわ……)
昨日の自分の行動を棚にあげてよく言えたものだと、半ば呆れ果てた。
「…ふぅ……ジーク殿、すまないが怒るのは後にしてくれないか?」
ジークはまだ何か言いたそうにしていたが、渋々席についた。
それを確認したクロイドは再度伯爵夫妻に視線を向けた。
「あぁそれと呼び戻そうとした理由も……ね?」
「……オ…オルディナが……我が家の家名を汚したと思い……」
「………それは追い出されるほどの事だったのでしょうか?」
苦しげに言葉を発する伯爵にお構いなしにクロイドは切り込んだ。
夫人の顔色は真っ青だ。
「私が聞いた話では、オルディナが二人を追い回していると彼女が騒ぎだしたことが原因だと………」
「それはほんとの事でっ!」
今まで大人しく俯いていたディアナが、顔を上げて目を潤ませながら訴えた。
「何故そう思ったのですか?」
「えっ……だって行く先々に現れたら誰だって」
思った反応と違ったのか、彼女は動揺した。
「逆に考えれば二人が彼女を追い回していたとも取れないか……というか君がね?」
スッと細められた目に、ディアナはビクッと肩を震わせた。
「っそれはどういう……」
信じられないとばかりに伯爵が立ち上がった。
「まず大前提として、彼も言ったように、妹君はジーク殿の番ではない」
「………」
ディアナは何も反応しなかった。
「君は初めからオルディナが彼の番だと気づいていた。常日頃から彼女より優位に立ちたがった君は、彼が自分を選んだことに、優越感を感じてたんじゃないのか?」
「そんなことはっ!」
「ないとは言わせないよ?私は人の魂の色が見えるんだ。君が姉の前にいるときは、必ずその色のどす黒さが増してたよ?只でさえ汚いのに……」
汚いと言われたディアナは羞恥に顔を赤くした。
「だいたい君たちは姉妹なんだ。あんなところで騒がなくても、家で注意すれば良かったんじゃないのか?」
「それは……」
言葉を濁すディアナに、クロイドはさらに続けた。
「君は姉の番が自分といるところを見せびらかしたかった。姉の行く先を使用人にでも聞いていたんじゃないのか?貴族のしかも女性が、行き先も告げずに出るのはよろしくないからね……逆に言えば行き先を聞いて、避けることも出来たはずだ。付きまとわれて嫌だったと言うならね?」
伯爵夫妻は信じられないものを見る目でディアナを見つめた。
「確かに……出掛けるときは大体君が行きたいと言ったところだった……」
ジークも思い出したように呟いた。
「まぁそれでも番だ……何かしらの力が働いてホントに偶然会うことも多々あったのだろう。焦った君は皆の前で騒ぐことで姉を貶めたかったんだろ。その作戦は見事成功した。だって周りは君の同情の目を、彼女には蔑視の目を向けたのだから……さらにおまけ付きで、伯爵夫妻が彼女を追い出した」
言われた二人は気まずそうに視線を反らした。
オルディナはその時の周りが自分を見る目を思い出し、身震いした。
するとクロイドが安心させるように背中を撫でた。
「私の番に気安く触れないでもらいたい!」
二人の雰囲気にジークが焦ったように抗議してきたが、クロイドはそれを無視して話を続けた。
「ねぇ伯爵……罪を犯したならまだしも、たかだか追い回した、まぁ実際にはそれも違ったのだけれど、果たしてその程度でオルディナは追い出されないといけなかったのかな?」
それからクロイドはディアナに視線を向けた。
「君も……せっかく今まで騙せていたのに、既成事実さえ作れば問題ないと思った?君は他国の、それも高位貴族を謀ったことになるんだよ?それこそ家名に泥を塗る行為じゃないのかい?」
自分のしたことに今更ながらに気づき、彼女の顔はみるみる青ざめた。
(さっきからよく顔の色が変わるなぁ……)
オルディナはあまり好きではない妹だが、何だか哀れになってきた。
(だからって彼を止めるつもりはないけどね……)
それだけの事をしたのだ。
これを期にしっかり反省してもらいたい。
「でも一体どうやって……?」
よく理解していない伯爵夫妻に説明する前に、クロイドはチラリとディアナを見た。
彼女の顔は青ざめたままだが、彼は気にすることなく、むしろどこかその様子を楽しむように口を開いた。
「私も初めから彼女の番がジークだと気づいていたんだよ……ただ彼がオルディナではなくディアナの手を取ったことは意外だったけど」
「それはっ……」
ジークが何か言おうと立ち上がったが、クロイドは一瞥しただけだった。
「あのときはまだ何もしていなかったんだ……というかいきなりだからできなかったと言うべきか?」
「………」
ディアナは何も言わない。
「君はオルディナのすぐ側に居たから彼女の発した香りに気づいた。近くにいたから自分だと誤解してくれたが、踊ってるときに違うと気づかれて焦ったんじゃないか?」
「……………」
「高位貴族で、容姿もいい。そんな彼が姉の結婚相手になるのが我慢ならなかったんだろ?……何としてもその地位を手に入れたかった君は、番の香りを利用したんだ。………そう…君はパルファンを作った。もちろん君一人では出来ないだろう。きちんと協力者もわかっている。まぁ彼は君がこんなことに使うとは思っても見なかったようだけれどね」
「でも流石にそれじゃあオルディナと会ったときにわかるのではなくて?だって流石に偽物と本物の香りじゃあ…ねぇ?」
伯爵夫人はまだ納得の行かない顔をしていた。
「もちろんディアナだけではダメだ。だから君はオルディナの分も作った。ただし彼女のは香りを抑えるものをね」
「「「!!!!!」」」
伯爵夫妻とジークは驚いてディアナを見たが、その表情は事実だと語っているようなものだった。
かくゆうオルディナもまさか自分にそんなものが使われているとは思わず内心驚いていた。
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