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黄昏時という世界
花咲か爺さんのその後
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ちょっとブラック要素入ります
─────────────────────
ガヤガヤ……
…ガヤガヤ……
「何だか向こうが騒がしいわね」
聡椛たちは人だかりができている所に近寄ってみた。
野次馬の隙間から覗いてみると、どうやら白い犬が争っているようだった。もちろん二匹ともただの犬ではなく、二足歩行で言葉も話せるあやかしである。
『━━━!』
『━━━━━』
言葉が途切れてよく聞こえない。
「あの……」
聡椛は近くにいたあやかしに声をかけようとしてやめた。
(えっはたき?!)
頭と言っていいのか…とりあえず、てっぺんがはたきで体は細く、長い指に長い爪の腕が生えていた。
(どこが顔だかわからない……それに見た目的に声がかけづらいよぉ~)
それに向けた視線をそっとソワちゃんとハクタクちゃんに戻す。
「あぁ…えぇと、何か騒がしいけど、よくわかんないね」
二人も騒ぎの原因が気になるのか、ぴょんぴょん跳び跳ねている。
少しずつ前に進んでいくと、何とか中心に近づいた。
『なんであんなことをしたんだ』
『俺がしなくてもあの家はそのうち没落してたぜ』
片方は優しそうな犬で、もう片方は目の鋭い犬だった。
聡椛はチラリと隣を見ると、着物を着た女の人だった。
(あっ普通…)
さっきの衝撃があったので、人間らしい見た目にホッとする。
「あの……何でこの二人(?)は喧嘩をしているんですか?」
『あら貴方見ない顔ね…』
「お歯黒!!!」
きれいな見た目には不釣り合いなお歯黒が、チラリと口の隙間から覗いた。
『まぁ…ほほほ……この歯なんて特に珍しくもないでしょうに』
女の人はコロコロとおかしそうに笑った。
「あっすみません……」
『ふふふ…いいのよ。あっちの犬の子はね、昔人間界のあるお家にいたのよ』
女の人は優しそうな犬の方を指差した。
『そこでおじいさんとおばあさんに大切に育てられたんだけど、ある日彼が二人のために宝を掘り当てたことを隣に住んでる夫婦が知ってね……まぁ色々あってその夫婦に殺されちゃったのよ』
「まさかの花咲か爺さん……」
『はなさか?…知ってるの?』
「その話は小さい頃から聞いてるので…」
『そうなの?』
ここにきてまさかの日本昔話の登場に、聡椛は驚いた。
『それで、死んでしまった彼は育ててくれた二人が亡くなるまでという約束で、霊体となって見守っていたんだけど、どうやら二人が引き取った子供が問題でね……』
女の人は頬に手をやりため息をはいた。
『なんでも二人が亡くなった後、嫁いできた嫁とやりたい放題。白い犬が宝を掘り当てると信じ込んで、手当たり次第に白い犬を連れて帰っては結果がでないと殺してたみたいね』
(こわっ…)
聡椛はあの話のその後が、まさかの展開になっている事実に絶句した。
手を繋いでいた二人も話を聞いていたようで震えていた。
安心させようと二人まとめて抱き締めると、ホッとしたように肩の力が抜けた。
『君たちにはまだこの話は早かったわね。ごめんなさいね』
女の人は申し訳なさそうに二人の頭を撫でた。
『とりあえず、もう片方の犬がその時の犬なのよ』
彼女はチラリと目の鋭い犬に視線を向けた。
『ただ彼はね、その子供夫婦を手玉にとって、当時の偉い人が隠してた財産を二人に掘らせたの』
「えっ」
その後は想像も容易かった。
二人は必死で犬のせいにしようとしたが、まずそんなことを人が信じるわけもない。
二人は盗っ人として罰を与えられたらしい。
(あの話のその後がこんな結末だなんて……)
聡椛は何だか後味の悪い気分になった。
・
・
・
『君があんなことしなければ彼らは罰せられることもなかった』
『俺は何にもしてないぜ』
『君は彼らにあの場所を教えただろう!』
『そう……教えただけだ。やったのはアイツらであって、俺じゃない』
『そんなことっ……』
『まぁ甘い汁は吸わせてもらったが、それだけだ。俺は手を出してない』
『そんなの方便だ……おじいさんたちがこのことを知ればどれだけ悲しむか……』
『甘やかして育て方を間違えたな……だいたいジジィたちは死んでるんだ。知ることはないぜ』
『だけど……』
『それにだ。俺がやらなくても結果は変わらないと言ったろ?…………あの時【座敷】が入ってたぞ?』
「座敷?」
その言葉に和室が浮かんだが、たぶん違う……
『俺は座敷の査定が入ったから、潰れる前に甘い汁を吸いに行っただけだ』
『そ…そんな……おじいさんの家系を守っていこうと誓ったのに……そのために家守になるよう勉強してたのに……』
両手をついて項垂れる犬を一瞥すると『わかったらもう突っかかってくるなよ』と目の鋭い犬は去っていった──・・・
「ここで聞く雰囲気じゃないのはわかってるけど、どうしても気になる…………【座敷】って何?」
『お前さんそんなことも知らないのかい?』
『お姉ちゃん、【座敷】は座敷わらしのことだよ』
「えぇぇぇぇ」
驚きで大きな声が出た。
辺りの視線が一気に自分に集まり、思わず顔が赤くなる。
『知らなかったの?』
ハクタクちゃんの呆れた声に「だって聞いてなかったんだもの」と弁明をする。
『座敷わらしが査定してるのは常識だろう?お前さんいったいどこの……』
「あっ座敷わらしで思い出した!私早く戻んないと、屋敷童子に怒られる!」
“座敷”繋がりで思い出した屋敷童子の名前に、あの場所から抜け出してから時間が経っていることに気づいた。
『早く行かないとだよ』
『急ぐよ』
ソワちゃんとハクタクちゃんに引っ張られ、慌てて女の人に別れを言って歩き出す。
少し進んだところで何となく後ろを振り向くと、さっきの女の人の後ろ髪が動いていた。
(ん?)
聡椛は立ち止まり動いている後ろ髪に目を凝らしてみた。
〈ニタァ〉
風が吹いて女の人の髪が靡いた瞬間、髪の隙間から大きな口が覗いた。
─!!!!!!
(やっぱりあの人も黄昏時の人だったー)
聡椛は見なかったことにして、先を急いだ。
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ガヤガヤ……
…ガヤガヤ……
「何だか向こうが騒がしいわね」
聡椛たちは人だかりができている所に近寄ってみた。
野次馬の隙間から覗いてみると、どうやら白い犬が争っているようだった。もちろん二匹ともただの犬ではなく、二足歩行で言葉も話せるあやかしである。
『━━━!』
『━━━━━』
言葉が途切れてよく聞こえない。
「あの……」
聡椛は近くにいたあやかしに声をかけようとしてやめた。
(えっはたき?!)
頭と言っていいのか…とりあえず、てっぺんがはたきで体は細く、長い指に長い爪の腕が生えていた。
(どこが顔だかわからない……それに見た目的に声がかけづらいよぉ~)
それに向けた視線をそっとソワちゃんとハクタクちゃんに戻す。
「あぁ…えぇと、何か騒がしいけど、よくわかんないね」
二人も騒ぎの原因が気になるのか、ぴょんぴょん跳び跳ねている。
少しずつ前に進んでいくと、何とか中心に近づいた。
『なんであんなことをしたんだ』
『俺がしなくてもあの家はそのうち没落してたぜ』
片方は優しそうな犬で、もう片方は目の鋭い犬だった。
聡椛はチラリと隣を見ると、着物を着た女の人だった。
(あっ普通…)
さっきの衝撃があったので、人間らしい見た目にホッとする。
「あの……何でこの二人(?)は喧嘩をしているんですか?」
『あら貴方見ない顔ね…』
「お歯黒!!!」
きれいな見た目には不釣り合いなお歯黒が、チラリと口の隙間から覗いた。
『まぁ…ほほほ……この歯なんて特に珍しくもないでしょうに』
女の人はコロコロとおかしそうに笑った。
「あっすみません……」
『ふふふ…いいのよ。あっちの犬の子はね、昔人間界のあるお家にいたのよ』
女の人は優しそうな犬の方を指差した。
『そこでおじいさんとおばあさんに大切に育てられたんだけど、ある日彼が二人のために宝を掘り当てたことを隣に住んでる夫婦が知ってね……まぁ色々あってその夫婦に殺されちゃったのよ』
「まさかの花咲か爺さん……」
『はなさか?…知ってるの?』
「その話は小さい頃から聞いてるので…」
『そうなの?』
ここにきてまさかの日本昔話の登場に、聡椛は驚いた。
『それで、死んでしまった彼は育ててくれた二人が亡くなるまでという約束で、霊体となって見守っていたんだけど、どうやら二人が引き取った子供が問題でね……』
女の人は頬に手をやりため息をはいた。
『なんでも二人が亡くなった後、嫁いできた嫁とやりたい放題。白い犬が宝を掘り当てると信じ込んで、手当たり次第に白い犬を連れて帰っては結果がでないと殺してたみたいね』
(こわっ…)
聡椛はあの話のその後が、まさかの展開になっている事実に絶句した。
手を繋いでいた二人も話を聞いていたようで震えていた。
安心させようと二人まとめて抱き締めると、ホッとしたように肩の力が抜けた。
『君たちにはまだこの話は早かったわね。ごめんなさいね』
女の人は申し訳なさそうに二人の頭を撫でた。
『とりあえず、もう片方の犬がその時の犬なのよ』
彼女はチラリと目の鋭い犬に視線を向けた。
『ただ彼はね、その子供夫婦を手玉にとって、当時の偉い人が隠してた財産を二人に掘らせたの』
「えっ」
その後は想像も容易かった。
二人は必死で犬のせいにしようとしたが、まずそんなことを人が信じるわけもない。
二人は盗っ人として罰を与えられたらしい。
(あの話のその後がこんな結末だなんて……)
聡椛は何だか後味の悪い気分になった。
・
・
・
『君があんなことしなければ彼らは罰せられることもなかった』
『俺は何にもしてないぜ』
『君は彼らにあの場所を教えただろう!』
『そう……教えただけだ。やったのはアイツらであって、俺じゃない』
『そんなことっ……』
『まぁ甘い汁は吸わせてもらったが、それだけだ。俺は手を出してない』
『そんなの方便だ……おじいさんたちがこのことを知ればどれだけ悲しむか……』
『甘やかして育て方を間違えたな……だいたいジジィたちは死んでるんだ。知ることはないぜ』
『だけど……』
『それにだ。俺がやらなくても結果は変わらないと言ったろ?…………あの時【座敷】が入ってたぞ?』
「座敷?」
その言葉に和室が浮かんだが、たぶん違う……
『俺は座敷の査定が入ったから、潰れる前に甘い汁を吸いに行っただけだ』
『そ…そんな……おじいさんの家系を守っていこうと誓ったのに……そのために家守になるよう勉強してたのに……』
両手をついて項垂れる犬を一瞥すると『わかったらもう突っかかってくるなよ』と目の鋭い犬は去っていった──・・・
「ここで聞く雰囲気じゃないのはわかってるけど、どうしても気になる…………【座敷】って何?」
『お前さんそんなことも知らないのかい?』
『お姉ちゃん、【座敷】は座敷わらしのことだよ』
「えぇぇぇぇ」
驚きで大きな声が出た。
辺りの視線が一気に自分に集まり、思わず顔が赤くなる。
『知らなかったの?』
ハクタクちゃんの呆れた声に「だって聞いてなかったんだもの」と弁明をする。
『座敷わらしが査定してるのは常識だろう?お前さんいったいどこの……』
「あっ座敷わらしで思い出した!私早く戻んないと、屋敷童子に怒られる!」
“座敷”繋がりで思い出した屋敷童子の名前に、あの場所から抜け出してから時間が経っていることに気づいた。
『早く行かないとだよ』
『急ぐよ』
ソワちゃんとハクタクちゃんに引っ張られ、慌てて女の人に別れを言って歩き出す。
少し進んだところで何となく後ろを振り向くと、さっきの女の人の後ろ髪が動いていた。
(ん?)
聡椛は立ち止まり動いている後ろ髪に目を凝らしてみた。
〈ニタァ〉
風が吹いて女の人の髪が靡いた瞬間、髪の隙間から大きな口が覗いた。
─!!!!!!
(やっぱりあの人も黄昏時の人だったー)
聡椛は見なかったことにして、先を急いだ。
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