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黄昏時という世界

赤いたぬきと緑のきつね

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 ─サワ……サワサワ……

                 ──サワサワサワ……

 聡椛は心地よい風を感じて目を開けた。
 さっきまで祖母の家の庭にいたはずが、気づけば竹林に横たわっている。

 (ここどこ?……竹?………ってことは…裏山……?)
 空はまだ真っ暗で、月の高さから時間がそんなに経っていないことはわかった。
 (暗い……普段は夜道も街灯があるのが当然だから、この月明かりだけじゃ心許なさすぎるよぉぉぉ……)

 なぜ自分がここにいるのか、どうやってここまで来たのか見当もつかず、聡椛は途方にくれた。
 (さっきまで庭に居たのよ…ね?…で、影を見つけて追いかけて…鹿威しの水の中を覗いて……そしたら………何かに引っ張られたような……?)
 「…………夢?にしては何でこんなに現実的リアルなの?……」
 急な展開に頭が追いつかない。
 辺りを見回しても行く道もわからない。

 (どうするどうするどうするどうする!!)

 その時、左手に鋭い痛みが走った。
 上ばかり見ていたので、低い草木が目に入らず、それで手を引っ掻いたようだ。
 (こういうとき下手に動き回るのは危険て誰か言ってた気がする……誰だったけ?って今はどうでもいい!)
 「痛いってことは、は夢じゃないってことよ!」
 とにかく何か情報を。聡花は耳を済ませ辺りの様子を伺った

 ⛩ ⛩ ⛩
 
 どれくらいそうしていただろうか。遠くから話し声が聞こえてきた。

 『────』
 『─────』
 『───』

 どうやら二人いるようだが、内容は聞き取れない。
 (助かった、人だ!)
 足を踏み出そうとした聡椛は、一瞬のうちに思い止まった。
 (待って待って待って……いやいやおかしい……こんな時間に人?第一、裏山ここって私有地よね?不審者の可能性大じゃない!!)
 徐々に近づいてくる気配に、聡椛は慌てて近くの草影に身を潜め、様子を伺うことにした。

 『この辺りで間違いないのか?』
 『うん!この辺りだよ!』
 (…………子供の声?何か探してる?)
 『それにしては姿形が見当たらないなぁ』
 『早く見つけてあげないとだね』
 『まったく童ちゃんも妖使いが荒いんだから』
 『………………クンクン…………あっ!こっちだ』
 
 (えっ何?こっちに来る!)
 聡椛は慌てて別の場所に移動しようとしたが、動き出すよりも早く、側の草木が揺れた。

 『みぃつけた♪』

 「きゃあああああああああ」
 緊張が頂点に達していた聡椛は、あまりの恐怖に悲鳴をあげた─が。
 『『ゔわ゙ああああああああああ』』
 草影から現れた二つの影もその声に驚き、叫び声をあげて、走り去っていった。
 「……………あれっ?」
 想定外の出来事に、聡椛は戸惑った。
 (もしや危機的状況ではない?) 
 考えるより早く、走り去った影の後を追いかける。よくわからないけど、これを逃したらダメな気がした。

 「ちょっと待ってえええええー」
 『『ゔ…ゔわ゙ああああああーーー!!!』』
 突如始まった謎の追い駆けっこは、終わりも突然だった。
 『何をしてるんだ?お前たち』
 頭上から声がしたと思うと、ひらりとは目の前に降りてきた。
 『『童ちゃん!!』』
 「童ちゃん?」
 それを合図に立ち止まると、は地面に両手をついて項を垂れ、乱れた呼吸を整えた。

 落ち着いた(?)ところで視線をあげれば、そこには人でいう四、五歳くらいの子供がいた。
 見れば、先程まで追いかけていた影も子供だった。
 とは言っても、そちらの姿は人の子供のそれではなく、片方は赤い羽織を着た子狸で、もう一方は緑の羽織を着た子狐だった。
 「……あれ?………赤い…たぬきに…緑のきつ…ね?……うどん……そば…………」
 『『え??』』
 言ってることがわからないとでもいうように、二人は顔を見合わせて、同時に首を傾げた。
 「かっ……」
 『『か?』』
 「可愛いっ!!!」
 思わず二人を抱き締めれば、後ろから呆れた声が聞こえた。
 『ねぇ、君たち本当に何やってるの?』
 (もう一人いたんだった…)
 振り返ると、着物を身につけた子供。
 何かに似ているなぁ、なんだっけと考える。
 「あぁっ座敷わらしか!」
 『あ"ぁ"ん?』
 浮かんだ答えにすっきりして、両手を叩いてその名を口にする。
 しかし、返ってきたのは不機嫌さ丸出しの声だった。

 『だっダメですよ、それを言っちゃあ』
 慌てて子狸が言えば、子狐も、
 『それは禁句だよぉ』
 焦りを滲ませた声で続けた。
 「あっ……ごっごめんなさい……」
 チラリと子供を見れば、背後に禍禍しいオーラが見えた。
 「…………」
 「…………(よくわかんないけど、とりあえず謝罪大事!)」
 『『…………』』(アワアワ)

 ・
 ・
 ・

 「──ふーん。まぁ今はこんな見た目だし?…君は僕に会うの初めてだから、知らないのは当然か……僕は…まぁ自己紹介は後にしよう…でも覚えておいて。僕は…次は………ね?」
 「はいぃぃぃぃ!」
 子供とは思えない眼力に、聡椛は居ずまいを正すと、高速で頭を上下に降った。
 『良かったね』
 『ったくヒヤヒヤさせるなよ』
 二人が聡椛の頭を撫でる。
 (この二人可愛い……癒される…………)
 聡椛はホッコリした気持ちになったところで、ある事実に気づいた。
 「って……動物がしゃべってるぅぅぅ!!!!!」
 (もう…意味わかんない…………)

 バタッ

 次々起こる展開に、聡椛は意識を手放した。
 
 『えっ!どうしよう!』
 『童ちゃん!!!』
 子狸と子狐はあたふたとに助けを求めた。

 『……ハァ……全く手のかかる……』

 





 
 
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