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「…大丈夫、なのか?」
「気にしないことよ」
特に気にした素振りも見せず、グレースは目の前の食事を食べ始めた。
今までの行動を考えれば自業自得なのだが、それによって目の前の彼女も好奇な視線に晒されることが、アレンには申し訳なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
パルミラから離れると決めた次の日、学園に向かうと門の前にグレースが立っていた。
「おはよ…ぅ」
声に出してから気づく。グレースがエマリアだと言うことで無条件に信じてしまったが、今世の彼女のことをアレンは何も知らない。昨日の話を真に受けて、のこのこと声を掛けたはいいが、揶揄われていただけだったらどうする。
あれこれ考えているうちに、歩くペースは徐々に落ちていき、心なしか顔も俯きがちになっていく。
「アレンどうしたの?」
ハッと顔を上げるといつのまにか目の前までグレースが来ていた。
「いや…」
「ん?どうし…あ、もしかして昨日の約束をなかったことにしようと思ってたんでしょ!」
「ちが「もう取り消しは受け付けません!」…え?」
「え?違うの?」
「…逆だよ。揶揄われてたらどうしようかと思って…」
「何で?」
「何でと言われても…よく考えたら、私は君のことをほとんど知らないし」
「あぁ…なるほど。それで私が貴方をからかったと思ったんでしょう?」
「…そんなことは」
「まぁしょうがないわね…ほら行くわよ」
アレンの躊躇いなどなかったかのように、グレースは彼の手を握ると校舎へと歩き出した。
ただ引っ張られているだけなのに、彼女と繋いだ手から徐々に体温が上がっていく。
(耳が…熱い……昨日までパルミラを追いかけていたのに、調子がいい奴だと思われるな…でも…この手は…離したくない)
弛む口元を隠すようにアレンは下を向いて歩いた。
それぞれの教室につく。流石に手を離さなければ。いやでも…あともう少し─切り出すタイミングを図っていたアレンをよそに、グレースはあっさりとその手を離した。
「ねぇ…昼食一緒に取らない?」
「っいいのか?」
「じゃないとあなた独りぼっちのご飯よ?」
からかうように言われたが事実である。自分は本当に周りが見えていなかったのだと、グレースが声かけてくれたことに改めて感謝した。
午前中、普段は休憩の度にパルミラに声をかけていたアレンが、何もせず席についていることに不思議がるクラスメイトたちもいたが、パルミラが友人たちに昨日のことを話しているのを聞き、納得している様子だった。
「これで付きまとわれずにすんで良かったわね」
「でも本当にもう大丈夫なの?」
「ええ、昨日キリクがはっきり言ってくれたから」
「頼れる幼馴染みっていいわね」
教室内に響く声に胸は痛んだがそれだけだ。
(うん…やっぱり…気持ちが今世に追い付く前に関わりを拒否されたから思ったよりもダメージが少ないのかもしれないな)
昼休みになり、グレースを誘いに教室を出ようとしたアレンは、その先にパルミラを含めた集団がいることに気付く。
進行方向なので目をそらすのも不自然だろう。そのまま目の前を横切ろうとしたアレンは、すれ違う瞬間彼女の顔が強ばるのを視界の端にとらえた。
何時ものように声をかけられると思ったのかもしれない。
自分がなにも言わずに通りすぎると、あからさまにホッとした様子を背中から感じた。
(本当に申し訳なかった…)
自分の気持ちばかり押し付けて、勝手に彼女の気持ちを決めつけた結果がこれか。情けなくて落ち込む。
現実から逃げるように足早に向かった教室の入り口から、緊張しつつもグレースの名を呼ぶ。彼女は友達と楽しそうに話していたが、アレンの声に反応すると、会話を切り上げ嬉しそうに寄ってきてくれた。
「その…友達と話してたけど良かったのか?」
「うん?あぁ…大丈夫よ。それよりもわざわざありがとう。じゃあ、ご飯行きましょうか」
教室内から向けられる好奇な視線を物ともせず、彼女はアレンの手を引いた。
「君は…その…距離が近いって言われないか?」
繋がれた手を見ながら尋ねる。グレースは何のことかわからず首をかしげる。
「いや…だから…て…手をすぐ繋いでくるし…「ダメ?」…ダ…ダメとか嫌とかではないんだ!むしろ安心するというか…ありがとうというか…何言ってんだろう私は」
「なら良かった!ちなみに誰でも簡単に繋ぐわけじゃないから」
「─っ!そ…そうか」
「そうよ?」
口角が上がるのを我慢できず、それを誤魔化すように今度はアレンがグレースの手を引っ張って歩きだした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
少しずつ。本当に少しずつ二人の距離は縮まっていったように思う。
今日も、卒業試験が近いからと二人は図書室に勉強をしに来ていた。
そんな彼らの様子は、周りにとって最早当たり前となった光景であったが、付き合っているのかと聞かれれば否という微妙な距離の状態でもあった。
アレンはチラリと前─参考書に向き合うグレースを見た。
(あと少しでこの学園生活も終わりか…あの時グレースが声をかけてくれなかったらどうなっていただろう…)
今はもうパルミラの件についてアレンに言ってくる者はいない。
たまに友人らにからかわれることはあるが、それは教訓として受け入れている。突っ走る前に周りを良く見ろという教訓に。
その友人らの中には、幼い頃からの付き合いのものもいた。忠告を聞き入れなかったときは、自分と距離を置かれていたが、今は以前の関係に戻っている。
「……ありがとう」
自然と言葉があふれてこぼれた。それはとても小さいものだったので、集中していたグレースには聞き取れなかったらしい。
「…ん?何か言った?」
顔を上げてこちらを見る彼女。面と向かってもう一度言うには恥ずかしく、最近出来たカフェの話で誤魔化す。
「…この試験が無事に終わったら行かないか?」
「行く!」
図書室内なので声は押さえていたが、その満面の笑みに彼女の嬉しさが伝わってくる。そこからなぜか自分が奢る流れになったが。まぁ、しょうがない。
「気にしないことよ」
特に気にした素振りも見せず、グレースは目の前の食事を食べ始めた。
今までの行動を考えれば自業自得なのだが、それによって目の前の彼女も好奇な視線に晒されることが、アレンには申し訳なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
パルミラから離れると決めた次の日、学園に向かうと門の前にグレースが立っていた。
「おはよ…ぅ」
声に出してから気づく。グレースがエマリアだと言うことで無条件に信じてしまったが、今世の彼女のことをアレンは何も知らない。昨日の話を真に受けて、のこのこと声を掛けたはいいが、揶揄われていただけだったらどうする。
あれこれ考えているうちに、歩くペースは徐々に落ちていき、心なしか顔も俯きがちになっていく。
「アレンどうしたの?」
ハッと顔を上げるといつのまにか目の前までグレースが来ていた。
「いや…」
「ん?どうし…あ、もしかして昨日の約束をなかったことにしようと思ってたんでしょ!」
「ちが「もう取り消しは受け付けません!」…え?」
「え?違うの?」
「…逆だよ。揶揄われてたらどうしようかと思って…」
「何で?」
「何でと言われても…よく考えたら、私は君のことをほとんど知らないし」
「あぁ…なるほど。それで私が貴方をからかったと思ったんでしょう?」
「…そんなことは」
「まぁしょうがないわね…ほら行くわよ」
アレンの躊躇いなどなかったかのように、グレースは彼の手を握ると校舎へと歩き出した。
ただ引っ張られているだけなのに、彼女と繋いだ手から徐々に体温が上がっていく。
(耳が…熱い……昨日までパルミラを追いかけていたのに、調子がいい奴だと思われるな…でも…この手は…離したくない)
弛む口元を隠すようにアレンは下を向いて歩いた。
それぞれの教室につく。流石に手を離さなければ。いやでも…あともう少し─切り出すタイミングを図っていたアレンをよそに、グレースはあっさりとその手を離した。
「ねぇ…昼食一緒に取らない?」
「っいいのか?」
「じゃないとあなた独りぼっちのご飯よ?」
からかうように言われたが事実である。自分は本当に周りが見えていなかったのだと、グレースが声かけてくれたことに改めて感謝した。
午前中、普段は休憩の度にパルミラに声をかけていたアレンが、何もせず席についていることに不思議がるクラスメイトたちもいたが、パルミラが友人たちに昨日のことを話しているのを聞き、納得している様子だった。
「これで付きまとわれずにすんで良かったわね」
「でも本当にもう大丈夫なの?」
「ええ、昨日キリクがはっきり言ってくれたから」
「頼れる幼馴染みっていいわね」
教室内に響く声に胸は痛んだがそれだけだ。
(うん…やっぱり…気持ちが今世に追い付く前に関わりを拒否されたから思ったよりもダメージが少ないのかもしれないな)
昼休みになり、グレースを誘いに教室を出ようとしたアレンは、その先にパルミラを含めた集団がいることに気付く。
進行方向なので目をそらすのも不自然だろう。そのまま目の前を横切ろうとしたアレンは、すれ違う瞬間彼女の顔が強ばるのを視界の端にとらえた。
何時ものように声をかけられると思ったのかもしれない。
自分がなにも言わずに通りすぎると、あからさまにホッとした様子を背中から感じた。
(本当に申し訳なかった…)
自分の気持ちばかり押し付けて、勝手に彼女の気持ちを決めつけた結果がこれか。情けなくて落ち込む。
現実から逃げるように足早に向かった教室の入り口から、緊張しつつもグレースの名を呼ぶ。彼女は友達と楽しそうに話していたが、アレンの声に反応すると、会話を切り上げ嬉しそうに寄ってきてくれた。
「その…友達と話してたけど良かったのか?」
「うん?あぁ…大丈夫よ。それよりもわざわざありがとう。じゃあ、ご飯行きましょうか」
教室内から向けられる好奇な視線を物ともせず、彼女はアレンの手を引いた。
「君は…その…距離が近いって言われないか?」
繋がれた手を見ながら尋ねる。グレースは何のことかわからず首をかしげる。
「いや…だから…て…手をすぐ繋いでくるし…「ダメ?」…ダ…ダメとか嫌とかではないんだ!むしろ安心するというか…ありがとうというか…何言ってんだろう私は」
「なら良かった!ちなみに誰でも簡単に繋ぐわけじゃないから」
「─っ!そ…そうか」
「そうよ?」
口角が上がるのを我慢できず、それを誤魔化すように今度はアレンがグレースの手を引っ張って歩きだした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
少しずつ。本当に少しずつ二人の距離は縮まっていったように思う。
今日も、卒業試験が近いからと二人は図書室に勉強をしに来ていた。
そんな彼らの様子は、周りにとって最早当たり前となった光景であったが、付き合っているのかと聞かれれば否という微妙な距離の状態でもあった。
アレンはチラリと前─参考書に向き合うグレースを見た。
(あと少しでこの学園生活も終わりか…あの時グレースが声をかけてくれなかったらどうなっていただろう…)
今はもうパルミラの件についてアレンに言ってくる者はいない。
たまに友人らにからかわれることはあるが、それは教訓として受け入れている。突っ走る前に周りを良く見ろという教訓に。
その友人らの中には、幼い頃からの付き合いのものもいた。忠告を聞き入れなかったときは、自分と距離を置かれていたが、今は以前の関係に戻っている。
「……ありがとう」
自然と言葉があふれてこぼれた。それはとても小さいものだったので、集中していたグレースには聞き取れなかったらしい。
「…ん?何か言った?」
顔を上げてこちらを見る彼女。面と向かってもう一度言うには恥ずかしく、最近出来たカフェの話で誤魔化す。
「…この試験が無事に終わったら行かないか?」
「行く!」
図書室内なので声は押さえていたが、その満面の笑みに彼女の嬉しさが伝わってくる。そこからなぜか自分が奢る流れになったが。まぁ、しょうがない。
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