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会場内は、すでに人であふれていたが、今年デビュタントの令嬢は、白いドレスを着ているので一目でわかるようになっていた。
「まずは王族の方々に挨拶にいくぞ」
ジョルジオがエマリアと共に、王と王妃のもとへ向かう後ろから、ディミトリアスはクロエをエスコートしながら進んでいく。
(やはり何人かの男たちはクロエが気になるようだ…)
自分に向けられる令嬢達からの秋波は視界に入らないのに、彼女に向けられる視線には敏感に反応してしまい、顔に不快感が滲み出る。
「....やっぱり私よりお姉様の方が良かったですよね」
クロエの呟きに、ディミトリアスはハッとなり視線を向ける。
「……会場に入ってから、お顔がずっと強ばってらっしゃいますわ…やはり私はお父様にエスコートしてもらって、デミ兄様はお姉様を「いや違う!」……えっ?」
クロエの言葉を遮るように出した声が思ったより大きく、周りの視線が一気に集まる。
「どうかしました?」
前を歩いていたエマリアが振り向き、心配そうに尋ねる。
「ゴホン…あぁ…何でもない」
「本当に?」
今度はクロエに尋ねた。
「あ…はいっ!」
慌てた彼女は元気のいい返事をしてしまい、再度視線を集めることとなり、顔を赤く染めた。
「…そう…なら参りましょう」
エマリアは彼女の様子に頬をゆるませると、王族の元へと父親を促した。
何事もなく挨拶は終わり、会場にいた知り合い等と言葉を交わしているうちに、ダンスの時間を告げる音楽が室内に鳴り響いた。
ディミトリアスは宣言通り、ファーストダンスを踊るためエマリアをホールへとエスコートする。
彼女のとても嬉しそうな顔に、自分も自然と笑みになり、気づけば2曲踊っていた。
「今夜はありがとうございました…そろそろクロエに変わりますわね。一人で心細そうにしてますから」
エマリアの視線を辿れば、確かにクロエは壁の花となっていた。どこぞの子息が声をかけていたが、頚を横に振っている…断っているのだろう。その姿にディミトリアスはホッと胸を撫で下ろす。
「ふふ…過保護な父のようですわ」
「いや…そんなことは」
「……早く行ってあげて。貴方と踊るの…楽しみにしてましたから」
婚約者の許可を得たディミトリアスはクロエの元に向かった。無意識に早まる足。その後ろ姿をエマリアはどんな表情で見ていたか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お嬢さん…一曲お願いしても?」
「いえ…私は──ってデミ兄様!!」
俯いていたクロエに声をかける。知らない相手からの誘いだと思ったのだろう。断りを述べようと顔を上げ──相手が自分だと分かると、花開くような笑顔になった。そして、ディミトリアスから差し出された手に視線を移すと、躊躇いがちに自分の手を重ねてきた。
他の子息らの誘いを断っているのが見えていた。自分がその手を取って貰えたことがとても嬉しい。ディミトリアスはどこか緊張した面持ちで彼女をホールへと促した。
クロエとのダンスは、とても楽しい時間と共に、彼女が大人の女性へと成長したことを感じた時間でもあった。
(いつか誰かの元に…)
「…私、デミ兄様が旦那さまだといいな」
小さく呟かれた声だったが、その音はしっかりとディミトリアスの耳に届いた。言われた内容に胸が高鳴る。しかし、現実不可能だ。儘ならない婚約事情にディミトリアスは歯噛みする。それを払拭するように何度も彼女と踊った。
その後、疲れた彼女を休ませようとホールを後にしたディミトリアスだったが、そこでやっとエマリアの存在を思い出した。
(しまった!例え彼女が許可したとはいえ婚約者でもない女性と踊りすぎた)
慌てて会場を見渡すが、姿が見えない。一先ずクロエをジョルジオに預けようと足をそちらに向ける。
「侯爵!すみません…エマリアを知りませんか?」
「……娘は帰ったよ」
「…は?」
ジョルジオに言われた言葉を一瞬理解できなかった。
「帰っ…た?」
「あぁ……大分前にな…気づかなかったのか?まぁいい…はぁ…君に少し話があるんだ。今日はもう遅い…明日我が家に来てくれ」
一瞬、何かやらかしてしまったかと焦る。隣にいるクロエも不安そうに此方を見るが、ジョルジオは安心させるように彼女の頭を優しく撫でると、「心配することではない」と告げた──が、その表情はどこか悲しげに見えた。
「まずは王族の方々に挨拶にいくぞ」
ジョルジオがエマリアと共に、王と王妃のもとへ向かう後ろから、ディミトリアスはクロエをエスコートしながら進んでいく。
(やはり何人かの男たちはクロエが気になるようだ…)
自分に向けられる令嬢達からの秋波は視界に入らないのに、彼女に向けられる視線には敏感に反応してしまい、顔に不快感が滲み出る。
「....やっぱり私よりお姉様の方が良かったですよね」
クロエの呟きに、ディミトリアスはハッとなり視線を向ける。
「……会場に入ってから、お顔がずっと強ばってらっしゃいますわ…やはり私はお父様にエスコートしてもらって、デミ兄様はお姉様を「いや違う!」……えっ?」
クロエの言葉を遮るように出した声が思ったより大きく、周りの視線が一気に集まる。
「どうかしました?」
前を歩いていたエマリアが振り向き、心配そうに尋ねる。
「ゴホン…あぁ…何でもない」
「本当に?」
今度はクロエに尋ねた。
「あ…はいっ!」
慌てた彼女は元気のいい返事をしてしまい、再度視線を集めることとなり、顔を赤く染めた。
「…そう…なら参りましょう」
エマリアは彼女の様子に頬をゆるませると、王族の元へと父親を促した。
何事もなく挨拶は終わり、会場にいた知り合い等と言葉を交わしているうちに、ダンスの時間を告げる音楽が室内に鳴り響いた。
ディミトリアスは宣言通り、ファーストダンスを踊るためエマリアをホールへとエスコートする。
彼女のとても嬉しそうな顔に、自分も自然と笑みになり、気づけば2曲踊っていた。
「今夜はありがとうございました…そろそろクロエに変わりますわね。一人で心細そうにしてますから」
エマリアの視線を辿れば、確かにクロエは壁の花となっていた。どこぞの子息が声をかけていたが、頚を横に振っている…断っているのだろう。その姿にディミトリアスはホッと胸を撫で下ろす。
「ふふ…過保護な父のようですわ」
「いや…そんなことは」
「……早く行ってあげて。貴方と踊るの…楽しみにしてましたから」
婚約者の許可を得たディミトリアスはクロエの元に向かった。無意識に早まる足。その後ろ姿をエマリアはどんな表情で見ていたか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お嬢さん…一曲お願いしても?」
「いえ…私は──ってデミ兄様!!」
俯いていたクロエに声をかける。知らない相手からの誘いだと思ったのだろう。断りを述べようと顔を上げ──相手が自分だと分かると、花開くような笑顔になった。そして、ディミトリアスから差し出された手に視線を移すと、躊躇いがちに自分の手を重ねてきた。
他の子息らの誘いを断っているのが見えていた。自分がその手を取って貰えたことがとても嬉しい。ディミトリアスはどこか緊張した面持ちで彼女をホールへと促した。
クロエとのダンスは、とても楽しい時間と共に、彼女が大人の女性へと成長したことを感じた時間でもあった。
(いつか誰かの元に…)
「…私、デミ兄様が旦那さまだといいな」
小さく呟かれた声だったが、その音はしっかりとディミトリアスの耳に届いた。言われた内容に胸が高鳴る。しかし、現実不可能だ。儘ならない婚約事情にディミトリアスは歯噛みする。それを払拭するように何度も彼女と踊った。
その後、疲れた彼女を休ませようとホールを後にしたディミトリアスだったが、そこでやっとエマリアの存在を思い出した。
(しまった!例え彼女が許可したとはいえ婚約者でもない女性と踊りすぎた)
慌てて会場を見渡すが、姿が見えない。一先ずクロエをジョルジオに預けようと足をそちらに向ける。
「侯爵!すみません…エマリアを知りませんか?」
「……娘は帰ったよ」
「…は?」
ジョルジオに言われた言葉を一瞬理解できなかった。
「帰っ…た?」
「あぁ……大分前にな…気づかなかったのか?まぁいい…はぁ…君に少し話があるんだ。今日はもう遅い…明日我が家に来てくれ」
一瞬、何かやらかしてしまったかと焦る。隣にいるクロエも不安そうに此方を見るが、ジョルジオは安心させるように彼女の頭を優しく撫でると、「心配することではない」と告げた──が、その表情はどこか悲しげに見えた。
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