1 / 12
1
しおりを挟む
あぁまたアイツだ……
姿が違うのに何故かアイツだとわかる。
前回はひどく鬱陶しかった。
ベタベタと纏わりつくだけでなく、影では愛しい彼女にひどい嫌がらせをして、ホントに屑みたいな女だった。
罪を暴露し、処刑したときはホントに胸がすく思いだった。
私は、今世にて何故か前世の記憶を持って生まれたが、アイツも記憶があるのだろうか………。
もしそうなら面倒だ。
そういえば、愛しい彼女はいるだろうか。
来世でも一緒だと約束したのだ。
きっとまた巡り会うのだろう。
たとえ彼女の記憶がなくても、私たちはまた惹かれ合う。
それが運命なのだから─・・・
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あのっ!櫂人様」
呼び声に振り向けば、同じクラスの東堂 愛嘩が立っていた。
声をかけてきたくせに、俯いて目線を合わせようとしない。
内心イラッとしながらも、顔には出さないよう心掛けた。
何を隠そうコイツは前世で俺に纏りついていた女だ。しかし、この女はどうやら前世の記憶が無いようだった。あれば即排除できたものを……運のいいヤツ。
「何か用ですか?」
鍛え上げた作り笑いで微笑めば顔を真っ赤にし、「あのぅ」やら「えっと」を繰り返し要領を得ない。
イライラしながら待てば、漸く決心したのか、勢いよく顔を上げた。
「今度のテスト範囲で、わからないところがあるので…よ..宜しければ教えて頂けませんか⁉」
言い終わった途端下を向き、両手を握りしめる姿は、クラスの男たちが見れば、可愛いとか何とか言って騒ぎそうだが、私は何とも思わない。記憶がないとはいえ前世のコイツを覚えているからだろう。
「…東堂さんはいつもテストで上位を維持しているではありませんか。私に教わるよりも先生に教わった方がいいのでは?」
「えっと……でも……櫂人様はいつも1番ですし……」
断ったのにすぐに諦めない女に、思わずため息がでる。
「私は人に教えるのは苦手なのですよ。あと勉強は一人でする方が好きですし」
「あっ…」
女が口を開く前に、さらに畳み掛ける。
「それと…親しくもないのに下の名前で呼ぶのはどうかと」
「─っ!申し訳ありません!」
女が頭を下げるのを横目に見ながら、その場を後にする。
この世界は前世よりもかなり進んでいる。私の記憶が5歳で戻ったのは幸いだったと思う。もし下手に記憶があれば、常識を覆すことから始まるので、記憶が邪魔をして順応するのに時間がかかっただろう。何より中と外の年の差がありすぎて、お世話をされることに全力で抵抗したはず。当時記憶が無くて、本当に良かった…あの羞恥には耐えられない…
話は戻るが、記憶がなかったおかげで、前世の記憶が戻った─ある日、急に思い出した─時は、すんなりと《この世界はこういうもの》として、前回とは分けて考えることができた。
今の私はどうやら大企業と呼ばれる会社の社長令息らしく、良くも悪くも、生まれたときから周囲の関心を集める存在だった。また、前世はそれなりに整った容姿だったが、今世もどうやら女を惹き付ける外見に生まれたようで、色んな女から声をかけられる。
もちろん断ってはいるが、後から後から寄ってくる。正直面倒だと思う。しかし、すべて切り捨てるのは立場上良くないのも知っている。ここは将来のためにと、出来るだけ敵を作らないよう気を付けていた。
まったくアイツは今世でも私に気があるのか…なんて面倒な……
あれから何度もアイツはきっかけを探しては、私に近寄よろうとしてくる。
事前に察知できるときは、それとなく避けているのだが、一年も続くとストレスも溜まってくるというもの。
来年は、せめて別のクラスでお願いしたい…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
学年が上がり、その年の編入生として彼女がやって来た。
今世は高遠 雛菜と言うらしい。
前世はふわふわな金髪で、瞳も大きく小動物のような愛らしい外見だったが、現在は黒髪ストレートのスラリとしたスタイルで、可愛いと言うよりは美しいと言う言葉が似合った。
(あぁ……やはり私は今世でも彼女に落ちたようだ)
彼女は見た目もさることながら、編入試験は好成績だったらしい。学校の編入試験は難しくてなかなか受からないので有名なのだが…さすが彼女だ。
当然、初めからかなり注目を浴びていた。
ライバルの多さに焦りながら、彼女が私のことを覚えてくれていることを期待して、さりげなく彼女の目の前に現れた。
絡む視線、息をのむ姿、潤み始めた瞳─彼女にも記憶があることを悟った。
その瞬間、全身を駆け巡った歓喜は言葉には言い表せないだろう。
「ルー?」
可愛らしい口から紡がれた嘗て彼女が呼んでいた私の愛称に、思わず口元が綻ぶのがわかる。
「あっ…ごめんなさい…意味がわからない…よね?」
慌てて俯きながら訂正をする彼女が、何とも愛らしい。
「……大丈夫。ちゃんとわかるよ、アリア」
その名に反応し、ハッと顔を上げた彼女と暫し見つめ合う。
「約束しただろう?来世も一緒だと……」
ニッコリと微笑めば、彼女の瞳から一筋の涙がこぼれた。
それをそっと拭い、彼女を抱きしめる。
「あっ…待って‼周りに人がっ!」
顔を真っ赤にして慌てる彼女に愛しさが込み上げ、このまま抱きしめていたいような、困らせるのはいけないようなそんな葛藤が生まれる。どちらかで迷い─渋々身体を離した。
「私たち今世では、自己紹介もまだよ」
「そうだったね。嬉しさのあまり体が先に動いてしまった」
お互いに顔を見合せ、何だかおかしくなって笑ってしまった。
(彼女が覚えていてくれて良かった……すぐに赤くなるところも変わらないなぁ。アイツが同じ表情をしたところで何とも思わないけど…アリアはホントに可愛い…)
それから改まって自己紹介をした。そして、今までの事などをお互いに話し合った。
私たちが付き合い始めたことは、すぐに全学年に知れ渡ることとなる。
今まで誰とも付き合うことがなかった私が彼女を作ったことにより、周りが騒がしかったが、相手がアリア─今は雛菜か─と知って、すんなり受け入れられたようだ。
雛菜と私、二人並ぶと美男美女でお似合いだと友人たちは、からかいながらも喜んでくれた。
もちろん、アイツの耳にも入っているだろう。
彼女が危害を加えられないよう、しっかり守らなくては─・・・
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
暫く警戒をしていたが、アイツは悲しそうな表情をするだけで、雛菜に危害を加えてくることもなかった。嬉しい誤算として、付き合いが広まるとアイツも近寄らなくなった──時々視線は感じるが。
そのうち私はアイツの存在を気にしなくなった。アイツのことを考えるより、雛菜といる方が楽しいし、何もしてこないのなら、気にする必要もない。どうでもよくなったのだ。
学校を卒業し、親の小会社に就職。実績を積み、本社勤務の内示が出た頃、私は雛菜にプロポーズをした。
涙を流して承諾の返事をする彼女を、嬉しさのあまり抱きしめてクルクル回してしまったのはいい思い出だ。
後から聞いた話だが、あの時は目が回ってちょっと吐きそうだったと言われ、謝りながらもう二度と回さないと誓った。
歳月が流れるなか、子供にも恵まれ、穏やかで幸せの日々を過ごした。
お互いに年を取り、そろそろ寿命がつきると感じた頃、風の噂でアイツが亡くなったことを知った。
生涯独身だったようだ─
アイツは死ぬまで私のことが好きだったのだろうか。
今となってはわからない。
どちらにせよ、私には愛した雛菜がいて、可愛い子供や孫たちもいる。
何と幸せな人生か………
「雛菜……来世も一緒に………」
愛しい妻に手を握られ私は目を閉じた。
姿が違うのに何故かアイツだとわかる。
前回はひどく鬱陶しかった。
ベタベタと纏わりつくだけでなく、影では愛しい彼女にひどい嫌がらせをして、ホントに屑みたいな女だった。
罪を暴露し、処刑したときはホントに胸がすく思いだった。
私は、今世にて何故か前世の記憶を持って生まれたが、アイツも記憶があるのだろうか………。
もしそうなら面倒だ。
そういえば、愛しい彼女はいるだろうか。
来世でも一緒だと約束したのだ。
きっとまた巡り会うのだろう。
たとえ彼女の記憶がなくても、私たちはまた惹かれ合う。
それが運命なのだから─・・・
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あのっ!櫂人様」
呼び声に振り向けば、同じクラスの東堂 愛嘩が立っていた。
声をかけてきたくせに、俯いて目線を合わせようとしない。
内心イラッとしながらも、顔には出さないよう心掛けた。
何を隠そうコイツは前世で俺に纏りついていた女だ。しかし、この女はどうやら前世の記憶が無いようだった。あれば即排除できたものを……運のいいヤツ。
「何か用ですか?」
鍛え上げた作り笑いで微笑めば顔を真っ赤にし、「あのぅ」やら「えっと」を繰り返し要領を得ない。
イライラしながら待てば、漸く決心したのか、勢いよく顔を上げた。
「今度のテスト範囲で、わからないところがあるので…よ..宜しければ教えて頂けませんか⁉」
言い終わった途端下を向き、両手を握りしめる姿は、クラスの男たちが見れば、可愛いとか何とか言って騒ぎそうだが、私は何とも思わない。記憶がないとはいえ前世のコイツを覚えているからだろう。
「…東堂さんはいつもテストで上位を維持しているではありませんか。私に教わるよりも先生に教わった方がいいのでは?」
「えっと……でも……櫂人様はいつも1番ですし……」
断ったのにすぐに諦めない女に、思わずため息がでる。
「私は人に教えるのは苦手なのですよ。あと勉強は一人でする方が好きですし」
「あっ…」
女が口を開く前に、さらに畳み掛ける。
「それと…親しくもないのに下の名前で呼ぶのはどうかと」
「─っ!申し訳ありません!」
女が頭を下げるのを横目に見ながら、その場を後にする。
この世界は前世よりもかなり進んでいる。私の記憶が5歳で戻ったのは幸いだったと思う。もし下手に記憶があれば、常識を覆すことから始まるので、記憶が邪魔をして順応するのに時間がかかっただろう。何より中と外の年の差がありすぎて、お世話をされることに全力で抵抗したはず。当時記憶が無くて、本当に良かった…あの羞恥には耐えられない…
話は戻るが、記憶がなかったおかげで、前世の記憶が戻った─ある日、急に思い出した─時は、すんなりと《この世界はこういうもの》として、前回とは分けて考えることができた。
今の私はどうやら大企業と呼ばれる会社の社長令息らしく、良くも悪くも、生まれたときから周囲の関心を集める存在だった。また、前世はそれなりに整った容姿だったが、今世もどうやら女を惹き付ける外見に生まれたようで、色んな女から声をかけられる。
もちろん断ってはいるが、後から後から寄ってくる。正直面倒だと思う。しかし、すべて切り捨てるのは立場上良くないのも知っている。ここは将来のためにと、出来るだけ敵を作らないよう気を付けていた。
まったくアイツは今世でも私に気があるのか…なんて面倒な……
あれから何度もアイツはきっかけを探しては、私に近寄よろうとしてくる。
事前に察知できるときは、それとなく避けているのだが、一年も続くとストレスも溜まってくるというもの。
来年は、せめて別のクラスでお願いしたい…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
学年が上がり、その年の編入生として彼女がやって来た。
今世は高遠 雛菜と言うらしい。
前世はふわふわな金髪で、瞳も大きく小動物のような愛らしい外見だったが、現在は黒髪ストレートのスラリとしたスタイルで、可愛いと言うよりは美しいと言う言葉が似合った。
(あぁ……やはり私は今世でも彼女に落ちたようだ)
彼女は見た目もさることながら、編入試験は好成績だったらしい。学校の編入試験は難しくてなかなか受からないので有名なのだが…さすが彼女だ。
当然、初めからかなり注目を浴びていた。
ライバルの多さに焦りながら、彼女が私のことを覚えてくれていることを期待して、さりげなく彼女の目の前に現れた。
絡む視線、息をのむ姿、潤み始めた瞳─彼女にも記憶があることを悟った。
その瞬間、全身を駆け巡った歓喜は言葉には言い表せないだろう。
「ルー?」
可愛らしい口から紡がれた嘗て彼女が呼んでいた私の愛称に、思わず口元が綻ぶのがわかる。
「あっ…ごめんなさい…意味がわからない…よね?」
慌てて俯きながら訂正をする彼女が、何とも愛らしい。
「……大丈夫。ちゃんとわかるよ、アリア」
その名に反応し、ハッと顔を上げた彼女と暫し見つめ合う。
「約束しただろう?来世も一緒だと……」
ニッコリと微笑めば、彼女の瞳から一筋の涙がこぼれた。
それをそっと拭い、彼女を抱きしめる。
「あっ…待って‼周りに人がっ!」
顔を真っ赤にして慌てる彼女に愛しさが込み上げ、このまま抱きしめていたいような、困らせるのはいけないようなそんな葛藤が生まれる。どちらかで迷い─渋々身体を離した。
「私たち今世では、自己紹介もまだよ」
「そうだったね。嬉しさのあまり体が先に動いてしまった」
お互いに顔を見合せ、何だかおかしくなって笑ってしまった。
(彼女が覚えていてくれて良かった……すぐに赤くなるところも変わらないなぁ。アイツが同じ表情をしたところで何とも思わないけど…アリアはホントに可愛い…)
それから改まって自己紹介をした。そして、今までの事などをお互いに話し合った。
私たちが付き合い始めたことは、すぐに全学年に知れ渡ることとなる。
今まで誰とも付き合うことがなかった私が彼女を作ったことにより、周りが騒がしかったが、相手がアリア─今は雛菜か─と知って、すんなり受け入れられたようだ。
雛菜と私、二人並ぶと美男美女でお似合いだと友人たちは、からかいながらも喜んでくれた。
もちろん、アイツの耳にも入っているだろう。
彼女が危害を加えられないよう、しっかり守らなくては─・・・
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
暫く警戒をしていたが、アイツは悲しそうな表情をするだけで、雛菜に危害を加えてくることもなかった。嬉しい誤算として、付き合いが広まるとアイツも近寄らなくなった──時々視線は感じるが。
そのうち私はアイツの存在を気にしなくなった。アイツのことを考えるより、雛菜といる方が楽しいし、何もしてこないのなら、気にする必要もない。どうでもよくなったのだ。
学校を卒業し、親の小会社に就職。実績を積み、本社勤務の内示が出た頃、私は雛菜にプロポーズをした。
涙を流して承諾の返事をする彼女を、嬉しさのあまり抱きしめてクルクル回してしまったのはいい思い出だ。
後から聞いた話だが、あの時は目が回ってちょっと吐きそうだったと言われ、謝りながらもう二度と回さないと誓った。
歳月が流れるなか、子供にも恵まれ、穏やかで幸せの日々を過ごした。
お互いに年を取り、そろそろ寿命がつきると感じた頃、風の噂でアイツが亡くなったことを知った。
生涯独身だったようだ─
アイツは死ぬまで私のことが好きだったのだろうか。
今となってはわからない。
どちらにせよ、私には愛した雛菜がいて、可愛い子供や孫たちもいる。
何と幸せな人生か………
「雛菜……来世も一緒に………」
愛しい妻に手を握られ私は目を閉じた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
212
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる