グリモワールの修復師

アオキメル

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3章 リリスと魔族の王子様

110 困惑

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「お城…」

 フルールに言われたことに、リリスは首を傾げた。
 確かに以前倒れた時に、そのようなこと言われていたような気がするけれど…。
 今、行くのだろうか。
 ただの休憩だったはずなのに。

「リリスを今から私のお城へ連れてくわ」

「今…なのね」

「そうよ、だからここに戻ってきたの。
 リリスだけしか連れて行けないから、ミルキはここで留守番よ」

 そう告げるフルールにミルキが声をあげた。
 ミルキもまた困惑した表情だ。

「フルール様。
  突然すぎて、リリス様が困惑してますよ。
 説明はないのですか?
 …お城に魔族が入るのはダメでしょうから、ここで待ってますけどね」

「リリスにノエルを紹介するの。
 きっと何か知恵を貸してくれると思うわ」

「そういうことなら…
 突然ではありますが、分かりました」

 呆れたような眼差しをミルキはフルールに向ける。
 突然なのはいつもの事かと顔に書いてあるようだった。

「さぁさぁ、行きましょう。
 悩みも晴れると思うわ」

 話はついたと言う感じにフルールは立ち上がりリリスの手を握った。
 微笑みを浮かべながら、フルールはリリスの手をぐいぐい引っ張っていく。
 リリスはフルールにされるがままに、歩みを進めたが、お城に行くのにこんな格好で大丈夫だろうかと思い立ち止まった。

「あの…着替えた方がいいと思うのだけど。
 普段着だし」

「その姿で大丈夫よ。
 リリスはいつでも、しっかりした格好だもの」

 そういうものだろうかとミルキを見つめれば、ため息をついた。

「仕方ありませんよ。
 星色の髪のフルール様が言うならいいんじゃないですか?」

 その言葉にミルキもフルールがこの国の王であることに気づいていたのだと分かる。
 王様が許しているのだから、このままで大丈夫と認識したようだった。
 なんで、ミルキはフルールが王様だと知っててもそんなに平然としていられるのだろうとリリスは不思議そうにミルキを見つめた。

「フルール様。
 リリス様を頼みましたよ」

「もちろんよ!」

 元気にフルールは返事をした。
 薔薇姫の塔で見た光景に少し重なった。
 あの時よりも気楽なものだ。
 だって、すぐに会いたい人に会えるのだから。

 自室の扉を開くとルビーとサファイアがいた。

「「あっ…」」

 扉にぴったりくっついて様子を探っていたのか、慌てた様子で飛び退き、廊下を走り逃げていった。
 それを見たリリスはまさかと思い、自室の窓を振り返った。
 そこには緑の目を持つカラスの姿が見えた。
 きっとエメラルドだ。
 ミルキのことをまだ信用していないのか、どこからか見ていたようだ。
 そんなことしなくても、ミルキは何もしないと思うけどとリリスは少し悲しいような感情が表情に現れる。
 その顔を見たフルールは面白がってるようだった。

「ふふ、リリス。
 怒らないであげてね。
 カラス達はきっとリリスが心配なだけなのだから」

「怒ったりしないわ。
 そんなに信用ないのかしらと落ち込んだだけよ…」

 フルールに手を引かれリリスは地下へと階段を降りていった。
 メルヒにも今から出かけることを伝えなくてはいけない。
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