グリモワールの修復師

アオキメル

文字の大きさ
上 下
110 / 111
3章 リリスと魔族の王子様

110 困惑

しおりを挟む
「お城…」

 フルールに言われたことに、リリスは首を傾げた。
 確かに以前倒れた時に、そのようなこと言われていたような気がするけれど…。
 今、行くのだろうか。
 ただの休憩だったはずなのに。

「リリスを今から私のお城へ連れてくわ」

「今…なのね」

「そうよ、だからここに戻ってきたの。
 リリスだけしか連れて行けないから、ミルキはここで留守番よ」

 そう告げるフルールにミルキが声をあげた。
 ミルキもまた困惑した表情だ。

「フルール様。
  突然すぎて、リリス様が困惑してますよ。
 説明はないのですか?
 …お城に魔族が入るのはダメでしょうから、ここで待ってますけどね」

「リリスにノエルを紹介するの。
 きっと何か知恵を貸してくれると思うわ」

「そういうことなら…
 突然ではありますが、分かりました」

 呆れたような眼差しをミルキはフルールに向ける。
 突然なのはいつもの事かと顔に書いてあるようだった。

「さぁさぁ、行きましょう。
 悩みも晴れると思うわ」

 話はついたと言う感じにフルールは立ち上がりリリスの手を握った。
 微笑みを浮かべながら、フルールはリリスの手をぐいぐい引っ張っていく。
 リリスはフルールにされるがままに、歩みを進めたが、お城に行くのにこんな格好で大丈夫だろうかと思い立ち止まった。

「あの…着替えた方がいいと思うのだけど。
 普段着だし」

「その姿で大丈夫よ。
 リリスはいつでも、しっかりした格好だもの」

 そういうものだろうかとミルキを見つめれば、ため息をついた。

「仕方ありませんよ。
 星色の髪のフルール様が言うならいいんじゃないですか?」

 その言葉にミルキもフルールがこの国の王であることに気づいていたのだと分かる。
 王様が許しているのだから、このままで大丈夫と認識したようだった。
 なんで、ミルキはフルールが王様だと知っててもそんなに平然としていられるのだろうとリリスは不思議そうにミルキを見つめた。

「フルール様。
 リリス様を頼みましたよ」

「もちろんよ!」

 元気にフルールは返事をした。
 薔薇姫の塔で見た光景に少し重なった。
 あの時よりも気楽なものだ。
 だって、すぐに会いたい人に会えるのだから。

 自室の扉を開くとルビーとサファイアがいた。

「「あっ…」」

 扉にぴったりくっついて様子を探っていたのか、慌てた様子で飛び退き、廊下を走り逃げていった。
 それを見たリリスはまさかと思い、自室の窓を振り返った。
 そこには緑の目を持つカラスの姿が見えた。
 きっとエメラルドだ。
 ミルキのことをまだ信用していないのか、どこからか見ていたようだ。
 そんなことしなくても、ミルキは何もしないと思うけどとリリスは少し悲しいような感情が表情に現れる。
 その顔を見たフルールは面白がってるようだった。

「ふふ、リリス。
 怒らないであげてね。
 カラス達はきっとリリスが心配なだけなのだから」

「怒ったりしないわ。
 そんなに信用ないのかしらと落ち込んだだけよ…」

 フルールに手を引かれリリスは地下へと階段を降りていった。
 メルヒにも今から出かけることを伝えなくてはいけない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

処理中です...