グリモワールの修復師

アオキメル

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3章 リリスと魔族の王子様

107 魔術書修復の考え方

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 ミルキを部屋に残して、リリスは工房に向かった。
 午後になってしまったけど、やれることはやっておきたい。
 部屋の前に着くと扉が自然に開いた。

「午後だけど、おはよう。
 リリス」

「おはようございます、メルヒ」

 メルヒは穏やかに微笑みを向けてくれた。
 上を見上げて見つめていると、メルヒの手が伸びてきた。
 わしゃわしゃと頭の上を撫でられる。

「最近体調悪いよねぇ。
 あんまり無理しちゃダメだよ」

「分かってますよ」

 恥ずかしくなってリリスは俯いた。
 落ち着くけど落ち着かない。
 そわそわした気持ちになってくる。

「最近は実技ばかりしていたから、今日は保存修復の考え方の復習をしよう。
 実技は集中力使うしね、手を使うのって運動したのとは違う疲れがあるもんね」

「そうですね、気をつけてやるせいか変なとこ疲れます」

 メルヒの後ろを伺えば、机の上に本と紙と鉛筆が用意してあった。
 いつもなら、製本の道具が置かれているはずだけど。
 今日は勉強のために片付けられていた。
 部屋に入り、用意されている場所に座る。
 メルヒはさっそく本をページをめくり、授業をはじめた。
 メルヒの作業机の方を見れば、仕事が一段落ついたのか修復された本が平置きされている。
 これなら、午後はリリスのために時間を使っても大丈夫そうだ。
 ゆっくり休んでもらいたいけど、教えて貰えるのがありがたい。

「魔術書修復をする時に気をつけなればならない原則って覚えているかい?」

「はい、もちろんですよ。
 すでにメルヒと一緒に修復もしたのですから、分かっていなければ触りません。
 魔術書修復の原則。
 一、可逆性の原則。
 二、安全性の原則。
 三、原型保存の原則。
 四、記録の原則。
 ですよね」

「ちゃんと覚えているねぇ。
 その全ての内容を説明することはできる?」

「もちろんです、ちゃんと勉強していたのですから言えますよ。
 少し自信ないですけど」

 メルヒは感心したように目を細めた。

「一、可逆性の原則
 資料にとって安全であり、かつ簡単な方法で元の状態に戻せるようにすることです。
 今後の未来で今以上の修復の技術が生まれた場合に資料に負担をかけず元の形に戻せるようにすることです。

 二、安全性の原則
 資料にとって安全であることを考える原則です。
 安易に手を出す前に、資料にとって害や変化がないか考えます。

 三、原形保存の原則
 資料に手を加えるにあたり守るべき大切な原則です。
 オリジナルを尊重する心がけです。
 修復処置にあたって資料の原型をできる限り変更しないこと。
 資料そのものを改変するような処置は必要最低限に留めるなど大切なことです。

 四、記録の原則
 資料に変更を加える際には必ず記録に残す。
 いつも書いてるカルテののとですよね。
 現状記録で、資料に修復処置を施す場合その原型及び処置内容を記録する。
 技法、材料、修復前写真、修復後写真など詳細に記録する。
 今後その資料を直す人に何の素材を使い修復したか伝えることができる手段です」

「うん、よく勉強できているねぇ。
 ばっちりだよ。
 普通の本の修復ならそれでバッチリだよ。
 その考えを忘れないように、今後も修復してねぇ。
 あとは魔術書の場合の考え方だねぇ」

 メルヒに褒めえもらえて嬉しい。

「魔術書は利用する人と歴史的価値で直し方を変えるのですよね」

「うん、その通りだよ。
 普段から使用するものならば、使えるように修復師するのが正しいけど…。
 古すぎて復元できない魔術式もあるからねぇ。
 そういう場合は魔術書だけど本と同じ考え方で大丈夫だ。
 オリジナルを尊重することが大切だからね。
 使えなくても情報を残すことが今後のためにも必要だと思う。
 どうしても、その魔術書を使いたいならば複製を作ることを勧めるのがいいよ。
 魔術式は残っているからねぇ。
 無理に直して壊してしまっては、ダメだ」

 メルヒの話しを聞きリリスは修復する前の修復方針を立てることが大切であると思った。
 手を出す前にまず、手を出したことによっておこる危険性を考慮することが必要だ。

「やっぱり、修復する前によく考えて方針立てるのが大切ですね。
 一人でそれを考えるのも危険なこともあるから、周りと相談しながら方針を決めると安心しますよね」

「うんうん、手を出すことの危険性をしっかりと理解していれば安心だよ。
 リリスには、仕事を任せられそうだ。
 実技の方もよくできているしねぇ」

 満足そうにメルヒは笑顔で頷いた。
 そう言ってもらえるなら、チャンと成長出来ているのかなとリリスは自信が持てそうだった。
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