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3章 リリスと魔族の王子様
104 王子の憧憬
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懐かしい思い出に心がぎゅっと締め付けられる。
あの日の想いも会話も全て昨日のことのように鮮やかに思い出すことができるのに、逃げ出した彼女を追いかけることしか出来ていない。
待ちに待った出会うはずのその日、リリスはリオンとレウを愛してはくれなかった。
顔を見ることも叶わぬまま、忽然とその姿を消したのだ。
悲しみが蘇り瞼を伏せる。
この仮面は大切なリリスとの思い出の一部だ。
一体誰がこんな場所に埋めたのかとリオンは考え込む。
誰かがリオンとレウをリリスに会わせないようにしているとしか思えない。
レインが使う探し物を辿る装置のことを知っている者の犯行であることは想像がつく。
リオンの中では、この犯行を行った人物は二人に絞られていた。
一人はオプスキュリテ家のダミアン。
この男は以前からこちらのことを嫌悪するような眼差しを向けていた。
その敵意はリリスと親しくしようとした者に向けられる。
私達、双子に向かっていてもおかしくはない。
正式な婚約者であるとしても何らかの嫌がらせをせずにはいられない性質だろうと思っている。
あの仮面舞踏会の時と性質は変わっていないならばの話だが。
もう一人は執事ミルキだ。
ずっと魔族の王家に使えている魔族。
王城の者は誰もが信頼を寄せる存在。
リオンとレウも彼には何回も助けられている。
そんな彼がリリスの捜索を撹乱させることをすんなんて思えないが、この丁寧な仕事はミルキの姿を思い浮かべてしまう。
もしかしたら、何か意味があってやっていることなのかもしれない。
リリスの婚約者として相応しいか試しているのかとさえ思えてくる。
考えすぎかもしれないが、それほどリオンはミルキのことを信用していた。
この二人どちらの犯行にしても、リリスを探さなくてはならないわけだが。
ふぅとため息をついてリオンはレインに箱を渡した。
「この箱がある限り、魔術道具はこれを指し続けるだろう。
ひとまず、レインのそのカバンにしまっておいてくれるかな」
「あとで必ず返してよ」
「美味しそうな香りの仮面…」
手に取りうっとりとするようにレインは仮面を見つめ、くんくん香りを楽しんでいる。
不快でしかないので早くしまって欲しい。
「…何遊んでるの?」
殺気を込めて見つめるとレインは慌てたように箱の蓋を閉めて、カバンに閉まった。
「あらぁ、失礼。
ついね…」
悪びれもせずに笑顔を浮かべる。
またこうやって箱を取り出しては、恍惚とした表情を浮かべるかもしれない。
リリスの私物を他の物が持つなんて嫌だが、レインの特殊なカバンにしまってもらわないと魔術道具の反応が狂ってしまう。
本人に会えないのは問題なので、しぶしぶその行動を許容することにした。
「悪ふざけは、ほどほどに」
「分かってるわよ。
さてと、これで反応は変わるわね!
うん、うん、しっかり動いてるわぁ!
よかった。
壊れてたわけじゃないのね。
あらぁ、あらぁ、なんだか来た道を戻るように指しているわ。
うーん、今日はもう疲れたし、この村で休んでまた明日にしましょう」
「そうだな…。
私もなんだか疲れてしまった。
今日は休もう」
「早くリリスに会いたいのに、なかなか会えないね」
三人とも森の道を戻り、村へと移動する。
眠っては朝日が登り、また眠る。
魔術道具ですぐに見つかると高を括っていた三人であったがその道程は簡単ではなかった。
リリスを探して旅をし穏やかに時間と日々が過ぎていく。
それは日に日に積み重なって季節は巡っていった。
───季節が巡っても、未だリリスは見つからない。
あの日の想いも会話も全て昨日のことのように鮮やかに思い出すことができるのに、逃げ出した彼女を追いかけることしか出来ていない。
待ちに待った出会うはずのその日、リリスはリオンとレウを愛してはくれなかった。
顔を見ることも叶わぬまま、忽然とその姿を消したのだ。
悲しみが蘇り瞼を伏せる。
この仮面は大切なリリスとの思い出の一部だ。
一体誰がこんな場所に埋めたのかとリオンは考え込む。
誰かがリオンとレウをリリスに会わせないようにしているとしか思えない。
レインが使う探し物を辿る装置のことを知っている者の犯行であることは想像がつく。
リオンの中では、この犯行を行った人物は二人に絞られていた。
一人はオプスキュリテ家のダミアン。
この男は以前からこちらのことを嫌悪するような眼差しを向けていた。
その敵意はリリスと親しくしようとした者に向けられる。
私達、双子に向かっていてもおかしくはない。
正式な婚約者であるとしても何らかの嫌がらせをせずにはいられない性質だろうと思っている。
あの仮面舞踏会の時と性質は変わっていないならばの話だが。
もう一人は執事ミルキだ。
ずっと魔族の王家に使えている魔族。
王城の者は誰もが信頼を寄せる存在。
リオンとレウも彼には何回も助けられている。
そんな彼がリリスの捜索を撹乱させることをすんなんて思えないが、この丁寧な仕事はミルキの姿を思い浮かべてしまう。
もしかしたら、何か意味があってやっていることなのかもしれない。
リリスの婚約者として相応しいか試しているのかとさえ思えてくる。
考えすぎかもしれないが、それほどリオンはミルキのことを信用していた。
この二人どちらの犯行にしても、リリスを探さなくてはならないわけだが。
ふぅとため息をついてリオンはレインに箱を渡した。
「この箱がある限り、魔術道具はこれを指し続けるだろう。
ひとまず、レインのそのカバンにしまっておいてくれるかな」
「あとで必ず返してよ」
「美味しそうな香りの仮面…」
手に取りうっとりとするようにレインは仮面を見つめ、くんくん香りを楽しんでいる。
不快でしかないので早くしまって欲しい。
「…何遊んでるの?」
殺気を込めて見つめるとレインは慌てたように箱の蓋を閉めて、カバンに閉まった。
「あらぁ、失礼。
ついね…」
悪びれもせずに笑顔を浮かべる。
またこうやって箱を取り出しては、恍惚とした表情を浮かべるかもしれない。
リリスの私物を他の物が持つなんて嫌だが、レインの特殊なカバンにしまってもらわないと魔術道具の反応が狂ってしまう。
本人に会えないのは問題なので、しぶしぶその行動を許容することにした。
「悪ふざけは、ほどほどに」
「分かってるわよ。
さてと、これで反応は変わるわね!
うん、うん、しっかり動いてるわぁ!
よかった。
壊れてたわけじゃないのね。
あらぁ、あらぁ、なんだか来た道を戻るように指しているわ。
うーん、今日はもう疲れたし、この村で休んでまた明日にしましょう」
「そうだな…。
私もなんだか疲れてしまった。
今日は休もう」
「早くリリスに会いたいのに、なかなか会えないね」
三人とも森の道を戻り、村へと移動する。
眠っては朝日が登り、また眠る。
魔術道具ですぐに見つかると高を括っていた三人であったがその道程は簡単ではなかった。
リリスを探して旅をし穏やかに時間と日々が過ぎていく。
それは日に日に積み重なって季節は巡っていった。
───季節が巡っても、未だリリスは見つからない。
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