グリモワールの修復師

アオキメル

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3章 リリスと魔族の王子様

102 仮面舞踏会その三

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 曲が終わると会場に光が戻ってくる。
 ダミアンがリリスの手をとり、部屋の隅の壁へと連れていった。
 その様子をリオンとレウは影から観察していた。

「リリス、ダンスよく出来ていたよ」

「ありがとうございます。
 ミルキとたくさん練習したおかげですね」

「ちっ…あの執事。
 言ってくれたら手伝ったのに」

「それは、下手なのでご迷惑かけてしまいますから…。
 あ、あの私、喉がかわいてしまいました」

「そうだよね、運動したものね。
 ここで隠れて待っていて。
 取ってくるから」

 ダミアンはリリスから離れていった。
 リリスと呼んでいたので、この令嬢が完全にリリスであるとリオンとレウは認識した。
 ダミアンが離れてちょうど良いと思い、私たちはリリスの前へ進み出た。

「あら、先程の…」

 リリスは二人に気づき唇に微笑みを浮かべてくれる。
 先程は失礼しましたと頭を下げた。

「いいんだよ、先約だったんでしょう」

 手を胸の前で振りレウが頭をあげてと微笑みかける。
 リオンもまた微笑みかけた。
 近くに来ただけだというのに、愛しくて触れたくてしかたない気持ちになる。

「ええ、まぁ…」

 困ったような返答が聞こえた。

「よろしければ、今度こそ踊りませんか?」

「双子だから二回踊って欲しいな」

「双子…?
 まぁ、本当だわ。
 こんな素敵な人と踊って頂けるなんて、夢みたいで感激です」

 嬉しそうにリリスは微笑んでくれた。
 なんて寂しそうに笑うのだろうとリオンは思った。
 嬉しそうなのに寂しそうなのだ。
 まるで、この瞬間が夢か幻のように終わってしまうものだと悟っているような顔だった。

「何をしているの?」

 リリスと楽しく話していると、冷たい声が聞こえた。
 目を向ければグラスを二つ持ったダミアンがこちらを見据えていた。

「今度こそ、踊ってもらおうと思い誘いに来たのです」

「さっきは取られちゃったからね。
 さすがに二回は踊らないでしょう?」

 その言葉に苦々しそうにこちらを睨んでくる。

「妹はこのような場に慣れていないのですよ。
 どうかご容赦を…」

 ダミアンが断ろうと口を開くと背後に黒い執事服を着た男が現れた、ミルキだ。

「ダミアン様、その御方は身分がしっかりした御方ですよ。
 どうか快く送り出して下さい。
 過保護すぎるのはよくありません」

「なぜ、お前がでてくる…」

 そこで、ダミアンはこちらを探るような視線を投げかけてきた。
 嫌な視線だと思いながらも軽く微笑みを、浮かべ受け流す。
 仮面をつけているのだからいくら見てもしょうがないだろうにと思う。
 しばらくするとダミアンは苦々しい顔をしながらリリスに小さく行ってもいいと唇を動かした。
 こちらを見やる瞳はまだ剣呑なものだか、ひとまずリリスと踊れそうだった。
 リオンは手をリリスへと差し出した。

「次は、僕だからね」

「分かっているよ。
 …さて、お嬢さん。
 私と踊ってください」

「はい、よろしくお願いします」

 その手の上にリリスが微笑みを浮かべて手を置いてくれる。
 ゆっくりと手を握りダンスの輪へと加わった。

「あの黒髪…仮装か?本物か?
 まさかな…まだ、時じゃないはずだが」

 後ろでダミアンがぼぞぼそと呟いている。
 よほどリオンとリリスが踊るのがストレスなのか忌々しそうに視線を細め爪を噛んでいた。
 そして、何かに思い至ったような顔をしているようだか、知ったことではない。
 リリスを恋に落とすためにリオンはこれから頑張るのだ。
 緩やかに流れ出す円舞曲に、体を任せ踊る。
 リリスが装着している、薔薇の仮面の下の顔を愛しそうに見つめるとぽっと頬が赤くなった。
 その存在をもっと確かめたくて、抱き寄せるように耳元で名前を読んだ。

「リリス」

「えっ?名前…」

 リリスは小さく驚いた。
 それに笑みを浮かべ、リオンは踊りながら会話を続ける。

「さっき聞こえてしまったのです。
 だから私の名前も教えます…。
 私はリオン、あっちはレウ。
 お兄様には内緒だよ」

「リオン様とレウ様」

「ふふ、呼んでくれてありがとう」

 名前を呼んでもらえるだけで、こんなに満たされる気持ちになるなんてとリオンは小さく震えた。
 この幸せが長く続いて欲しいと願わずにはいられない。
 リリスの仮面の下の顔が気になって仕方なくなってきた。
 きっとその仮面のしたには宝石のような赤い瞳があるのだろう。
 一つ欲を叶えれば、また一つと欲が増えていく。
 愛とは欲張りなものであると分かっていても、次々に望んでしまう。
 このダンスが終わったら、月明かりの下ゆっくりとテラスで話したい。
 熱ぽい眼差しをリオンはリリスに送った。
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