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3章 リリスと魔族の王子様
100 仮面舞踏会その一
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煌めくシャンデリアの光が幻想的に乱反射し、部屋を豪華に照らしていた。
時は夜、あたりは暗く空には美しい星々が輝いている。
それぞれ持てる光を放ち、地上までその存在を主張していた。
それはまるで、今の状況と似ているのではではないか、とこの夜会に招待されたリオン・シャイターンは考えていた。
競うよう着飾り微笑みを浮かべる令嬢たちは星のように輝いている。
顔が仮面で隠れていようとも、個の光を失うことはない。
傍らには仮面を片手に、にこにこと微笑む弟レウ・シャイターンがいる。
双子なので同じ顔をしているのだが、表情はまるで違っていた。
リオンは難しい顔をしていたが、レウはにこにこと二階の影から会場を見下ろしていた。
「兄さん、なに難しい顔しているの?
もしかして、緊張してる?」
「…はじめて会えるのだと思うと緊張してくる」
「僕は緊張よりも、今日この日を迎えられたことが嬉しいよ。
兄さん、そんな怖い顔しちゃダメだよ。
僕達の想い人が怖がっちゃう」
眉間に皺でも寄っていたのかレウが指で軽くつついていた。
その行動に少し肩の力が抜ける。
「…そうだな。
落ち着かなくてはいけない。
無理を言ってこのオプスキュリテ侯爵家の仮面舞踏会に特別に参加させてもらえたんだ。
怖がらせてはダメだ」
「誕生日が来る度にお願いしていたもんね。
二十一歳になってしまったけど叶ってよかった。
子供の頃からずっと言い続けてやっと聞いて貰えた。
ずっとリリスに会いたかったから」
レウが言うように私達はずっと、リリスのことを恋焦がれていた。
リリスが生まれ落ちたその瞬間からその存在に囚われている。
まだ会ったこともないと言うのにだ。
この身に流れる王家の血がそうさせるのか、夜の女王の力に惹かれてかは分からないが会いたくて恋しくて愛したくて仕方がない。
この衝動をずっとこの身に抱えてきた。遂に今日その人に会えるのだ。
この出会いは特例であるために制約がかかっているが、それでも私達は満足だった。
本来ならリリスが十八になるまでは、出会えない決まりだ。
それを毎年しつこく祖父である陛下と父にお願いし捻じ曲げた。
「レウ、約束は覚えてる?」
「もちろん、覚えてる。
一、素性を明かしてはならない。
二、顔を見せてはいけない。
三、魔族であることを隠すこと。
ここに僕達がいることは、誰にも秘密なんだよね」
唇に人差し指をあてて、レウは微笑む。
きっとその微笑みを下で踊っている令嬢達に向けたなら誘いがたくさん来ることだろう。
リリス以外に興味がないことは分かりきっていることをだが。
「大丈夫そうで、安心だ」
オプスキュリテ侯爵家にはミルキの知人ということになっている。
王子であるとは伝えられていない。
さて、そろそろ私たちも下の階に混ざるとするかと思ったところで耳馴染みのある声がかけられた。
黒い執事服に仮面をつけたミルキが立っていた。
「リオン様、レウ様。
リリス様の準備が整いましたので、もうすぐ会場に入られますよ」
「報告感謝する」
「ありがとう、ミルキ」
「恋に堕ちるとよいですね…」
静かにそう告げると、ミルキはくるりと踵を返し人混みに混ざって見えなくなった。
顔も素性も明かさずに心を奪えるか、リオンはまた不安になる。
婚約しているものの手紙を交わすことも無く会うことがない相手に愛は生まれるのだろうか。
リオンはリリスが心から望んでこちらに来てくれることを願っていた。
傍らを見ればレウも少し緊張しているように見えた。
「リリスに好きって思ってもらいたいな」
「私もだよ」
どうかこの出会いが運命の出会いである事を…。
祈るように胸に手を当てると、会場の扉が開かれた。
時は夜、あたりは暗く空には美しい星々が輝いている。
それぞれ持てる光を放ち、地上までその存在を主張していた。
それはまるで、今の状況と似ているのではではないか、とこの夜会に招待されたリオン・シャイターンは考えていた。
競うよう着飾り微笑みを浮かべる令嬢たちは星のように輝いている。
顔が仮面で隠れていようとも、個の光を失うことはない。
傍らには仮面を片手に、にこにこと微笑む弟レウ・シャイターンがいる。
双子なので同じ顔をしているのだが、表情はまるで違っていた。
リオンは難しい顔をしていたが、レウはにこにこと二階の影から会場を見下ろしていた。
「兄さん、なに難しい顔しているの?
もしかして、緊張してる?」
「…はじめて会えるのだと思うと緊張してくる」
「僕は緊張よりも、今日この日を迎えられたことが嬉しいよ。
兄さん、そんな怖い顔しちゃダメだよ。
僕達の想い人が怖がっちゃう」
眉間に皺でも寄っていたのかレウが指で軽くつついていた。
その行動に少し肩の力が抜ける。
「…そうだな。
落ち着かなくてはいけない。
無理を言ってこのオプスキュリテ侯爵家の仮面舞踏会に特別に参加させてもらえたんだ。
怖がらせてはダメだ」
「誕生日が来る度にお願いしていたもんね。
二十一歳になってしまったけど叶ってよかった。
子供の頃からずっと言い続けてやっと聞いて貰えた。
ずっとリリスに会いたかったから」
レウが言うように私達はずっと、リリスのことを恋焦がれていた。
リリスが生まれ落ちたその瞬間からその存在に囚われている。
まだ会ったこともないと言うのにだ。
この身に流れる王家の血がそうさせるのか、夜の女王の力に惹かれてかは分からないが会いたくて恋しくて愛したくて仕方がない。
この衝動をずっとこの身に抱えてきた。遂に今日その人に会えるのだ。
この出会いは特例であるために制約がかかっているが、それでも私達は満足だった。
本来ならリリスが十八になるまでは、出会えない決まりだ。
それを毎年しつこく祖父である陛下と父にお願いし捻じ曲げた。
「レウ、約束は覚えてる?」
「もちろん、覚えてる。
一、素性を明かしてはならない。
二、顔を見せてはいけない。
三、魔族であることを隠すこと。
ここに僕達がいることは、誰にも秘密なんだよね」
唇に人差し指をあてて、レウは微笑む。
きっとその微笑みを下で踊っている令嬢達に向けたなら誘いがたくさん来ることだろう。
リリス以外に興味がないことは分かりきっていることをだが。
「大丈夫そうで、安心だ」
オプスキュリテ侯爵家にはミルキの知人ということになっている。
王子であるとは伝えられていない。
さて、そろそろ私たちも下の階に混ざるとするかと思ったところで耳馴染みのある声がかけられた。
黒い執事服に仮面をつけたミルキが立っていた。
「リオン様、レウ様。
リリス様の準備が整いましたので、もうすぐ会場に入られますよ」
「報告感謝する」
「ありがとう、ミルキ」
「恋に堕ちるとよいですね…」
静かにそう告げると、ミルキはくるりと踵を返し人混みに混ざって見えなくなった。
顔も素性も明かさずに心を奪えるか、リオンはまた不安になる。
婚約しているものの手紙を交わすことも無く会うことがない相手に愛は生まれるのだろうか。
リオンはリリスが心から望んでこちらに来てくれることを願っていた。
傍らを見ればレウも少し緊張しているように見えた。
「リリスに好きって思ってもらいたいな」
「私もだよ」
どうかこの出会いが運命の出会いである事を…。
祈るように胸に手を当てると、会場の扉が開かれた。
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