グリモワールの修復師

アオキメル

文字の大きさ
上 下
99 / 111
3章 リリスと魔族の王子様

99 王子と従者

しおりを挟む
「黒髪に赤い瞳を持つ少女を見つけたら気づかれないように尾行して」

「大事な子だから傷つけたらダメだよ」

 リオンとレウは配下である魔物たちにそう命令を下した。
 ここはオプスキュリテ侯爵家の屋敷から歩いて数日ほどかかる場所だ。
 黒い森の中に開けたその場所には村があった。
 木材をそのまま使った家々は自然に溶け込むような造りで温かみがある。
 人の数もそれなりに多く、旅人や商人なども滞在し賑やかな村だった。
 近くに湖もあるようで森の恵みも合わせると豊かなのが手に取るように分かった。
 人が多いのなら魔族でも溶け込むことができると判断し、リオンとレウはこの村で少し休むことにした。
 この村は森に囲まれているので、何か作業をするものやりやすい。
 リオンとレウは、森の中に入り切り株に腰掛けて飼い慣らしていた魔物達を召喚陣から呼び出した。

「行っておいで」

「頼りにしてるからね」

 魔物達はそう声をかけると散り散りに去っていった。
 今回呼んだ魔物達は、気づかれぬよう風景に紛れる姿を取らせている。
 小鳥にうさぎに猫、全部黒い姿をしている。
 魔物たちは知能は低く本能のままに行動するが、魔族の王族であるリオンとレウが飼い慣らした彼らは命令には絶対に従ってくれる。
 彼らが見たものは全てリオンとレウに伝わるようになっていた。

「うーん、おかしいわね。
 私の魔術道具で薔薇姫ちゃんのとこに、連れてってくれるはずなのに、調子悪いのかしら?」

 遠くから従者であるダークエルフのレインの困惑する声が耳に入る。
 ふわふわと浮遊した赤いマントは羅針盤のような術式の中に納められ方向を定められず、狂ったようにくるくると回っていた。
 赤いマントで持ち主の場所を辿ることができる魔術道具のようだが、何故か途中でプツリと反応が途絶え、このような反応を示している。
 近くに村があって良かった。
 無闇に歩き回ったりせずに、休みながら原因を探ることができるのだから。
 この国にはない魔法や魔術を行使するときは、こうやって人目を避けなければならないが、ちょうどよい森もある。

「ねぇ、どうなってるの?」

「同じところでくるくる回っているな…」

「分からないわ…。
 これは目的に着いた時の反応なのよ。
 でもここに薔薇姫ちゃんの匂いはないし…。
 もかして、妨害する何かがあるのかしら?」

 珍しく申し訳なさそうな表情でレインは考えを告げた。
 レインは魔法や魔術に関して得意な種族であるダークエルフだ。
 特にレインはそのなかでも特筆した技量がある。
 魔法や魔術に関することならその目で看破し模倣をし新たな魔術や魔法を編出す才能を持っていた。
 故に性格が気に食わなくても従者としてリオンとラウは選んでいた。
 仕事の時は使える部下であったはずなのだが、レインが作った羅針盤の調子が悪く状況が芳しくないようだ。
 いつものふざけた態度がみられないということはそういうことなのだろう。
 レウとリオンは顔を見合わせ、お互いにため息を着いた。

「原因を見つければ動く?」

「…推測ですが動くかと」

「それを見つけないとダメなわけか」

「はい」

 リオンとレウはお互いに考え込む動作を取った。
 鏡のように同じような動きになってしまう。
 長い沈黙が続き、先に口を開いたのはリオンだった。

「レイン、確認したいことがある」

「何でしょう?
 あたしのスリーサイズとか?」

 しおらしくしていたと思えば、この女はまたふざけ始めたようだ。
 表情が苦々しいものになる。

「兄さん何か分かったの?」

「まぁな…」

「あらぁ、それは助かるわ!
 さすがリオン殿下」

 ぱぁっと表情を明るくさせてレインはこちらに近づいてきた。
 羅針盤は先程レインのいた方向へとゆらゆらと大きく揺れている。
 それを確認してリオンは自分の考えの正しさに自信を持った。

「レイン、先程お前はその羅針盤の反応が、目的地着いた時のだと言っていただろう」

「そう言ったわ」

「羅針盤を見てみるといい。
 お前がさっき立っていた方向に大まかだがさしている。
 つまり…」

「さっきのとこの真下に何かあるんだね!」

「おい、レウ…」

 言おうとしている言葉をレウに取られて、リオンはむっとした表情になった。
 しかし弟のやることだと諦めて穏やかに言葉を続けた。

「そういうことだよ。
 その地面掘ってくれるかな、レイン」

「…あたしが掘るの?
 女に力仕事させるなんて正気?」

 レインは体をくねらせながら女である事を強調してくる。
 これは相手にするのが面倒だ。

「…冗談だ」

「兄さん。
 僕は、掘らせてよかったと思うよ。
 レイン、なんか道具貸して!
 みんなで地面掘ろう」

 レインはカバンから小さいシャベルを取り出した。
 レインの鞄の中は見た目よりも色んなものが入っている。
 あの鞄すらも手製の魔術道具となっていて空間が広くなっているのだろう。
 レインからシャベルを受け取り三人で、羅針盤がクルクル回る場所を掘り始めた。

「本当にここに何か埋まってるのかしらね?」

 レインが疑わしげに地面を掘り進める。
 しばらく掘ったところでカツンと何か固いものにシャベルが当たった。

「これは…」

「箱だ」

「本当になにかでたわね…。
 ん?」

 すんすんとレインが犬のように鼻を鳴らす。
 その様子をリオンとレウは呆れた表情で見つめた。

「これから、薔薇姫ちゃんの匂いがするわ!」

「ほぅ…」

「中身なんだろうね」

 出てきた箱を取り出して、レインが土を丁寧に取り除いた。
 飾り気のないシンプルな赤い箱が現れる。

「開けるわよ」

 レインがそっと簡易的な金具をはずし蓋を開ける。
 そこには、赤い薔薇の花びらに埋もれた仮面が入っていた。
 白地に赤い薔薇の模様と羽の飾りが着いた舞踏会用の仮面だ。

「「…これは」」

 リオンとレウの声がシンクロした。
 心がぎゅっと掴まれるような切なさが体を電流のように巡った。
 二人の目には昨日のことのようにその時の光景が浮かんでくる。
 意識は遠い思い出へと駆けていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

【完結】あの子の代わり

野村にれ
恋愛
突然、しばらく会っていなかった従姉妹の婚約者と、 婚約するように言われたベルアンジュ・ソアリ。 ソアリ伯爵家は持病を持つ妹・キャリーヌを中心に回っている。 18歳のベルアンジュに婚約者がいないのも、 キャリーヌにいないからという理由だったが、 今回は両親も断ることが出来なかった。 この婚約でベルアンジュの人生は回り始める。

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

処理中です...