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3章 リリスと魔族の王子様
97 薔薇姫の執事
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「この屋敷への侵入は許しませんわ!」
「この禍々しい気配、魔族ですね」
「…殲滅」
リリス様の気配を辿り、着いた場所は緑あふれる屋敷だった。
妖精と精霊に愛されているこの場所は魔族にとって居心地が悪い。
踏み入れた瞬間、蜘蛛の子を散らすように光り輝く存在は逃げていった。
オプスキュリテ家の屋敷を出て、ミルキだけが感じるリリス様の気配を追いかけこの場所にたどり着いた。
道行く途中でまったく気配が無くなったときは焦ったが、守るべき主が内側にいるからかミルキは無事この場所を見つけることができた。
もちろん、ここにたどり着くまでに殿下達が迷うよう偽の情報を各地にばら撒き、撹乱させるのも忘れなかった。
世界から隠されるように建てられたこの場所はリリス様を隠すのに適している。
なるほど、あのフルールに任せたのは正解であったとミルキは頷いた。
リリスを主として付き従うミルキはリリスがどこに居ようとも追うことができる。
その魂がある限りミルキはけっしてリリスを見逃さない。
殿下達にも今までいた王族達にも伝えていない秘密だ。
「私は魔族ではありますが、怪しいものではありません」
優雅で丁寧なしぐさで相手の警戒を解こうとするが、見たところこの小さな生き物は精霊。
それもまだ子供の雛と見受けられる。
そう簡単には警戒は解けないと思うが、どうにかするしかない。
ミルキはリリス様のところに戻らなくてはいけない。
「どうやってここが分かったのです?」
「清浄な空気を荒らさないで」
「…みんな守る」
長い髪をみつあみにした緑の瞳を持つ精霊はどこからかナイフを取り出した。
左右の手にナイフが握られている。
小さく口が動き、風を纏った。
後ろの二人は祈るように互いに手を組み詠唱を始めた。
───守りの場所を荒らす者
水の守りと炎の守りで捕らえましょう
援護魔法付与
ナイフを握った精霊の力が増幅している。
水と炎が風とともに渦巻いている。
相性が悪いはずの水と炎は手を取りあうように調和していた。
「困りましたね…。
私は戦いたくないのですが?
話を聞いてくれないなら仕方ありませんね」
ミルキは渋々という形で目の前のメイドの姿をした精霊を見据えた。
瞬きした瞬間に目の前にみつあみとホワイトブリムが見える。
一瞬で距離を詰められた。
次は足を払う蹴りが飛んでくると予測してミルキは軽く地を蹴り上に飛んだ。
見た目の軽くという表現以上に宙へ飛ぶ。
「…!」
攻撃が読まれたことに動揺したのか、緑の瞳が微かに大きく開く。
すぐに思考を切り替えたのか、空を飛ぶミルキに狙いを定めナイフが飛んできた。
右手に炎、左手に水流を纏ったナイフだ。
本来なら重力に逆らわずに降ってくる敵をその勢いのまま殺傷することができるだろう。
「ほう…そうやって使うものでしたか」
ミルキは感嘆の声を出すと靴に施していた術を起動させた。
黒く艶やかな革靴の底に紫色の魔術式が浮かび上がる。
道を歩くようにミルキは浮遊しながら歩を進めた。
「なかなか機転が利き良いですね。
でも使用人という姿をとるならば、もう少し優雅に行動なさい。
攻撃が真っ直ぐすぎて読みやすい。
目を見れば分かってしまいますよ」
ミルキは階段を降りるようにすとんと地面に静かに降り立った。
「…主様」
泣きそうな顔で、でも涙を流さずにこちらを睨みつけている。
ミルキはこのまま全ての攻撃を躱すことができるとさっきの戦いで確信をもった。
信用してもらうためにも攻撃はしないで、全て避けなくてはいけない。
「いじめてるわけではありませんよ。
私はただ、ここにいるリリス様にお会いしたいだけです」
玄関扉が不意に開いた。
そこから銀色の髪に紫色の瞳を持つ白衣のようなローブを羽織った男が姿を現す。
男のかけた眼鏡の装飾鎖が金属音を鳴らした。
「「「主様」」」
一斉に顔のよく似た精霊達がその男を見た。
その行動と声に、ここの主であるとミルキは分かり丁寧に礼をとる。
頭と瞳を使いどのような人物であるのか注意深く観察することにした。
「ここの主人とお見受けします。
私はリリス様にお会いしに来ました」
「リリスという名前が君の口から出たから、外に出んだよねぇ。
君はオプスキュリテ家の者?
それとも魔族の王族の手駒?」
「そのどちらでもありません」
挑戦的な微笑みを浮かべて、ミルキは目の前にいる魔術師と思われる男を見た。
男もまた面白そうにこちらを見ている。
「じゃあ、なんだって言うの?」
「本当は分かってらっしゃるのでしょう?」
怪しげに唇に笑みを浮かべ、ミルキは応える。
「私はリリスお嬢様だけの執事です。
リリス様のもとへ帰ってきました。
我が主を保護して頂きお礼申し上げます」
人の体に膨大な魔力が流れているのを感じる。
どことなくフルールの魔力と似ているような気がして、顔を確かめ兄弟であるとミルキは判断した。
あのとんでも性能を持つフルールの兄とするならば、それは強いかと自然と納得した。
「リリスの執事くん、君が主としてるのはリリスだけなんだねぇ?」
「はい、私は主の命令には絶対に背きません」
「なら、僕は滞在することを許可しよう。
みだりに屋敷を詮索したり魔術的なものを弄らなければいても構わないよ」
その言葉に有無を言わさずに攻撃をしていた精霊達の視線がこちらに集中する。
「えーっ、なぜです?
魔族ですよ!
私は嫌!」
「執事で魔族…。
主様がいうなら良いですがボクに近寄らないでください」
「…嫌い」
相当な勢いで嫌われている。
人は鈍いから分からないだろうが、精霊だとより気配が禍々しいものに感じられて不快なのだろうとミルキは涼しい顔で受け流した。
玄関扉が小さく開いた。
伺うように顔が半分外にでてくる。
それは誰よりも敬愛し慕っている顔だ。
その人物とミルキの目があった。
「ミルキ」
リリスお嬢様がミルキに気づき、弾かれたように外に出てきた。
黒く長い綺麗な髪が風に揺れ、以前よりも赤みの増した瞳は宝石のように美しい。
リリスお嬢様はいつみても素晴らしいと誇らしい気持ちになる。
「…ミルキなのね」
リリス様は震える声でまた名前を呼んだ。
馴染み深いその声にミルキは自然と膝をつき頭を垂れた。
そっと主の手を取り、ミルキは伝えた。
「もう、おそばを離せませんよ」
安心したように泣き顔でリリス様は微笑んだ。
「この禍々しい気配、魔族ですね」
「…殲滅」
リリス様の気配を辿り、着いた場所は緑あふれる屋敷だった。
妖精と精霊に愛されているこの場所は魔族にとって居心地が悪い。
踏み入れた瞬間、蜘蛛の子を散らすように光り輝く存在は逃げていった。
オプスキュリテ家の屋敷を出て、ミルキだけが感じるリリス様の気配を追いかけこの場所にたどり着いた。
道行く途中でまったく気配が無くなったときは焦ったが、守るべき主が内側にいるからかミルキは無事この場所を見つけることができた。
もちろん、ここにたどり着くまでに殿下達が迷うよう偽の情報を各地にばら撒き、撹乱させるのも忘れなかった。
世界から隠されるように建てられたこの場所はリリス様を隠すのに適している。
なるほど、あのフルールに任せたのは正解であったとミルキは頷いた。
リリスを主として付き従うミルキはリリスがどこに居ようとも追うことができる。
その魂がある限りミルキはけっしてリリスを見逃さない。
殿下達にも今までいた王族達にも伝えていない秘密だ。
「私は魔族ではありますが、怪しいものではありません」
優雅で丁寧なしぐさで相手の警戒を解こうとするが、見たところこの小さな生き物は精霊。
それもまだ子供の雛と見受けられる。
そう簡単には警戒は解けないと思うが、どうにかするしかない。
ミルキはリリス様のところに戻らなくてはいけない。
「どうやってここが分かったのです?」
「清浄な空気を荒らさないで」
「…みんな守る」
長い髪をみつあみにした緑の瞳を持つ精霊はどこからかナイフを取り出した。
左右の手にナイフが握られている。
小さく口が動き、風を纏った。
後ろの二人は祈るように互いに手を組み詠唱を始めた。
───守りの場所を荒らす者
水の守りと炎の守りで捕らえましょう
援護魔法付与
ナイフを握った精霊の力が増幅している。
水と炎が風とともに渦巻いている。
相性が悪いはずの水と炎は手を取りあうように調和していた。
「困りましたね…。
私は戦いたくないのですが?
話を聞いてくれないなら仕方ありませんね」
ミルキは渋々という形で目の前のメイドの姿をした精霊を見据えた。
瞬きした瞬間に目の前にみつあみとホワイトブリムが見える。
一瞬で距離を詰められた。
次は足を払う蹴りが飛んでくると予測してミルキは軽く地を蹴り上に飛んだ。
見た目の軽くという表現以上に宙へ飛ぶ。
「…!」
攻撃が読まれたことに動揺したのか、緑の瞳が微かに大きく開く。
すぐに思考を切り替えたのか、空を飛ぶミルキに狙いを定めナイフが飛んできた。
右手に炎、左手に水流を纏ったナイフだ。
本来なら重力に逆らわずに降ってくる敵をその勢いのまま殺傷することができるだろう。
「ほう…そうやって使うものでしたか」
ミルキは感嘆の声を出すと靴に施していた術を起動させた。
黒く艶やかな革靴の底に紫色の魔術式が浮かび上がる。
道を歩くようにミルキは浮遊しながら歩を進めた。
「なかなか機転が利き良いですね。
でも使用人という姿をとるならば、もう少し優雅に行動なさい。
攻撃が真っ直ぐすぎて読みやすい。
目を見れば分かってしまいますよ」
ミルキは階段を降りるようにすとんと地面に静かに降り立った。
「…主様」
泣きそうな顔で、でも涙を流さずにこちらを睨みつけている。
ミルキはこのまま全ての攻撃を躱すことができるとさっきの戦いで確信をもった。
信用してもらうためにも攻撃はしないで、全て避けなくてはいけない。
「いじめてるわけではありませんよ。
私はただ、ここにいるリリス様にお会いしたいだけです」
玄関扉が不意に開いた。
そこから銀色の髪に紫色の瞳を持つ白衣のようなローブを羽織った男が姿を現す。
男のかけた眼鏡の装飾鎖が金属音を鳴らした。
「「「主様」」」
一斉に顔のよく似た精霊達がその男を見た。
その行動と声に、ここの主であるとミルキは分かり丁寧に礼をとる。
頭と瞳を使いどのような人物であるのか注意深く観察することにした。
「ここの主人とお見受けします。
私はリリス様にお会いしに来ました」
「リリスという名前が君の口から出たから、外に出んだよねぇ。
君はオプスキュリテ家の者?
それとも魔族の王族の手駒?」
「そのどちらでもありません」
挑戦的な微笑みを浮かべて、ミルキは目の前にいる魔術師と思われる男を見た。
男もまた面白そうにこちらを見ている。
「じゃあ、なんだって言うの?」
「本当は分かってらっしゃるのでしょう?」
怪しげに唇に笑みを浮かべ、ミルキは応える。
「私はリリスお嬢様だけの執事です。
リリス様のもとへ帰ってきました。
我が主を保護して頂きお礼申し上げます」
人の体に膨大な魔力が流れているのを感じる。
どことなくフルールの魔力と似ているような気がして、顔を確かめ兄弟であるとミルキは判断した。
あのとんでも性能を持つフルールの兄とするならば、それは強いかと自然と納得した。
「リリスの執事くん、君が主としてるのはリリスだけなんだねぇ?」
「はい、私は主の命令には絶対に背きません」
「なら、僕は滞在することを許可しよう。
みだりに屋敷を詮索したり魔術的なものを弄らなければいても構わないよ」
その言葉に有無を言わさずに攻撃をしていた精霊達の視線がこちらに集中する。
「えーっ、なぜです?
魔族ですよ!
私は嫌!」
「執事で魔族…。
主様がいうなら良いですがボクに近寄らないでください」
「…嫌い」
相当な勢いで嫌われている。
人は鈍いから分からないだろうが、精霊だとより気配が禍々しいものに感じられて不快なのだろうとミルキは涼しい顔で受け流した。
玄関扉が小さく開いた。
伺うように顔が半分外にでてくる。
それは誰よりも敬愛し慕っている顔だ。
その人物とミルキの目があった。
「ミルキ」
リリスお嬢様がミルキに気づき、弾かれたように外に出てきた。
黒く長い綺麗な髪が風に揺れ、以前よりも赤みの増した瞳は宝石のように美しい。
リリスお嬢様はいつみても素晴らしいと誇らしい気持ちになる。
「…ミルキなのね」
リリス様は震える声でまた名前を呼んだ。
馴染み深いその声にミルキは自然と膝をつき頭を垂れた。
そっと主の手を取り、ミルキは伝えた。
「もう、おそばを離せませんよ」
安心したように泣き顔でリリス様は微笑んだ。
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