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2章 リリスと闇の侯爵家
94 ちいさなグリモワール
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閉じた瞼の中で音を聞いた。
暗い世界の中聞こえてくる穏やかな寝息だ。
寝息は一つだけではない。
一、二、三、四、五。
これだけ気配を感じる。
眠る身体は温かく、居心地の良い目覚めが訪れた。
ゆっくり開いた瞼に光が眩しく突き刺さる。
目が眩んだ世界では真っ白すぎて何も見えない。
光の粒子が眩しくて目を何度が開いて閉じてを繰り返す。
瞳は徐々に世界を映し出して、色づき周りにいる者たちを見つめた。
フルール、ココ。
三つ子のカラスのサファイア、ルビー、エメラルド。
そこで、首を傾げる。
大切な人が一人足りない。
魔術書の修復師のメルヒはどこにいるのだろうとリリスは部屋に視線を走らせた。
目的の人物はとらえることは出来ない。
この部屋にはいないようだ。
見つからないことに心が少し寂しくなるけど、眠る前に話していたことを思い出して安心する。
きっとメルヒはいつものように工房にいるのだとリリスは思った。
仕事をしているのかもしれないし、調べ物をしているのかもしれない。
もっとメルヒの役に立ちたいのに自分は迷惑をかけてばかりだと気が沈む。
リリスはこのベットにばかり寝ているなと自嘲気味に微笑んだ。
もっと強くなりたい。
守られるだけの自分なんて嫌だとリリスは夢で願った。
夢の中のできごとであるが、きっとあれは現実だ。
瞳はより赤く魔眼に変質してしまった。
この瞳は以前よりも色んなものを映し出すことだろう。
リリスはもう知っているのだ、いや知っていたと言う方が正しい。
この瞳の使い方もこの身の在り方も、燃えるような痛みの中で自分が何をすべきか記憶が流れ込んできた。
制限のかかっていた記憶が開示されていく。
断片的な記憶ではあるが、リリスは帰らなくてはいけないと分かった。
懐かしいあの城と花畑のある場所へ。
このままこの場所に留まれば、世界に迷惑をかけてしまう。
枕元に自分の作った魔術書が見えた。
リリスの作った小さな魔術書。
メルヒと作った愛しい時間。
もう少しもっと多くを学びたい。
変質したのはまだ瞳だけだ。
この身はまだ人のまま。
リリスはいずれ身体も魔族へと変わってしまうだろう。
それも普通の魔族ではない。
こんなこと話せるわけがない。
リリスはこの事実を隠すことにした。
もう少しだけ時間が許させる限りは、メルヒのもとで修復師の弟子でありたい。
人でなくなるその日まで、リリスに”楽しい”を教えて欲しい。
「私は女王じゃなくて…。
グリモワールの修復師になりたいのよ…」
掠れたように小さな言葉は誰の耳にも届かずに消えた。
暗い世界の中聞こえてくる穏やかな寝息だ。
寝息は一つだけではない。
一、二、三、四、五。
これだけ気配を感じる。
眠る身体は温かく、居心地の良い目覚めが訪れた。
ゆっくり開いた瞼に光が眩しく突き刺さる。
目が眩んだ世界では真っ白すぎて何も見えない。
光の粒子が眩しくて目を何度が開いて閉じてを繰り返す。
瞳は徐々に世界を映し出して、色づき周りにいる者たちを見つめた。
フルール、ココ。
三つ子のカラスのサファイア、ルビー、エメラルド。
そこで、首を傾げる。
大切な人が一人足りない。
魔術書の修復師のメルヒはどこにいるのだろうとリリスは部屋に視線を走らせた。
目的の人物はとらえることは出来ない。
この部屋にはいないようだ。
見つからないことに心が少し寂しくなるけど、眠る前に話していたことを思い出して安心する。
きっとメルヒはいつものように工房にいるのだとリリスは思った。
仕事をしているのかもしれないし、調べ物をしているのかもしれない。
もっとメルヒの役に立ちたいのに自分は迷惑をかけてばかりだと気が沈む。
リリスはこのベットにばかり寝ているなと自嘲気味に微笑んだ。
もっと強くなりたい。
守られるだけの自分なんて嫌だとリリスは夢で願った。
夢の中のできごとであるが、きっとあれは現実だ。
瞳はより赤く魔眼に変質してしまった。
この瞳は以前よりも色んなものを映し出すことだろう。
リリスはもう知っているのだ、いや知っていたと言う方が正しい。
この瞳の使い方もこの身の在り方も、燃えるような痛みの中で自分が何をすべきか記憶が流れ込んできた。
制限のかかっていた記憶が開示されていく。
断片的な記憶ではあるが、リリスは帰らなくてはいけないと分かった。
懐かしいあの城と花畑のある場所へ。
このままこの場所に留まれば、世界に迷惑をかけてしまう。
枕元に自分の作った魔術書が見えた。
リリスの作った小さな魔術書。
メルヒと作った愛しい時間。
もう少しもっと多くを学びたい。
変質したのはまだ瞳だけだ。
この身はまだ人のまま。
リリスはいずれ身体も魔族へと変わってしまうだろう。
それも普通の魔族ではない。
こんなこと話せるわけがない。
リリスはこの事実を隠すことにした。
もう少しだけ時間が許させる限りは、メルヒのもとで修復師の弟子でありたい。
人でなくなるその日まで、リリスに”楽しい”を教えて欲しい。
「私は女王じゃなくて…。
グリモワールの修復師になりたいのよ…」
掠れたように小さな言葉は誰の耳にも届かずに消えた。
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