93 / 111
2章 リリスと闇の侯爵家
93 執事の冷笑
しおりを挟む
「ミルキ、お前も一緒にリリスを迎えに行かないか?」
「ミルキも一緒に来てくれると嬉しいな。
従者があいつだけなんて、疲れるよ」
リオン殿下とレウ殿下はそう言ってミルキに警戒心なく笑みを浮かべている。
なんの疑いもない顔だ。
ミルキがリリス様を薔薇姫の塔から逃がしたとも見抜けずにまっすぐにこちらを見ている。
ミルキは困ったような穏やかな笑みを二人に向けた。
「私を必要としてくれて、ありがたいのですが…。
ここでやることがありますので、ご一緒できません。
今はこの家の使用人ですので」
その言葉に王子達は残念そうな表情を浮かべる。
「それは」
「残念だ」
その表情を見てミルキは心の中で薄く微笑んだ。
信用してくれてるのはありがたいが、この二人は勘違いをしている。
ミルキは生まれてからずっと王家に使えてきたがそれは王家に対する忠誠ではない。
たまたまそこに”彼女”がいたから、ミルキはそこにいた。
姫であり女王である薔薇姫リリス。
その姿を幾千もの年月で生まれ変わりながらもずっと傍にいたい大切な君主。
守るべき存在感。
そう彼女に願われてミルキは生まれた。
ミルキは彼女と共にある存在。
ミルキにとっては離れ難い大切な人。
だというのに目の前の二人は、ミルキは王家の大事な従者であると、信じ頼っているのだ。
その傍らにリリス様がいれば、ミルキは喜んで王子達に手を貸すことだろう。
だが、ミルキの主人である少女はこの者達から逃げることを選択した。
この手を取ってもらったあの瞬間からミルキは全力でその願いを叶えるべく動いている。
大切なリリスお嬢様だけがミルキ主人だ。
彼女だけがミルキに命じる権利がある。
彼女の傍らにいることこそ、ミルキにとっての史上の喜びであり生の意味である。
「さぁ、私のことは気にせず旅の支度をしてください」
「「分かった」」
***
「お気をつけて」
王子たちの背中をオプスキュリテ家の玄関からそっと見送った。
レインの姿が見えないが、きっとその辺をふらふら歩いているに違いない。
そのうち置いていかれてことに気づき慌てて追いかけることだろう。
問題のないことだ。
ミルキは見送りを終えると、オプスキュリテ侯爵の部屋に向かった。
王子達が出ていったことを伝えなくてはいけない。
部屋の近くに来た時エリカお嬢様がちょうど侯爵の部屋から出てくるところだった。
こちらには気づかずに、堂々とした足取りで去っていく。
そこに小さな影が追加された、末娘のメアリ様だ。
メアリ様はこちらを見透かすような冷たい灰色の瞳でにこりと笑った。
そのまま何事も無かったかのようにエリカについて行き姿が見えなくなった。
メアリ様は無邪気そうにみえるが、瞳の奥に何かがいるようなそんな気配を感じ不気味だとミルキは思った。
気を取り直して扉の前にミルキは立った。
「侯爵様、ミルキです」
部屋の扉をノックして返事を待った。
すぐに返事がくる。
「中へ」
扉を開けるとオプスキュリテ侯爵だけでなく、夫人までいた。
二人の前に進みでる。
「何か用事かミルキ様?
さっきエリカが状況を報告しに来ていてのぅ。
ダミアンがリリスを見つけたそうだが、
逃がしてしまったそうじゃ。
ダミアンはなにかショックなことがあったのか、精神が不安定でしばらく部屋で休養をとらせることにした。
殿下達にはなんと伝えればよいか考えていたところだ」
「その殿下達なのですが、出ていかれました」
「あら?」
「なぬ!?」
侯爵も夫人も驚いて声を上げた。
「従者のレインからこちら話しを聞きました。
私も暇をもらおうかと思いこちらに寄らせて頂いたのです。
殿下達は自らの力でリリス様を探すことにしたそうで、私も従者としてついて行こうと思っております」
その言葉に二人はさらに呆けた顔になってしまった。
「挨拶を…」
「そうよね…。
いや、謝罪かしら?」
「すでにこの屋敷から出てしまわれているので、必要ないですよ。
お二人が心配しているのは魔族との繋がりですよね。
心配しなくても今後とも懇意にさせていただきますので、大丈夫です。
此度の薔薇姫様のしたことですのでリリス様をこの世に産んでくださっただけて、こちらは感謝しておりますから。
では、私はこれで…」
「そうか…分かった。
今までありがとうミルキ様」
頭を下げてミルキーは部屋から出ていく。
ミルキは言いたいことを言い終えた。
顔には濃い笑が浮かんでくる。
オプスキュリテ家には王子達の従者として着いていくといったが、嘘だ。
王子達にはここにいると伝えたこちらも、嘘だ。
それというのもリリス様のお傍に向かうため。
やはり、あの方の傍に行かなくては心が耐えられない。
王子達がいた時は怪しい行動は取れなかったが、これならばここから怪しまれずに出ていくことが出来る。
ダミアン様も部屋からはしばらく出てこないだろう。
「オプスキュリテの皆様。
次のリリス様が生まれるまで、さようなら…」
オプスキュリテ家の豪華な扉を静かに閉める。
闇色の燕尾服を翻し、世界に熔けた。
「ミルキも一緒に来てくれると嬉しいな。
従者があいつだけなんて、疲れるよ」
リオン殿下とレウ殿下はそう言ってミルキに警戒心なく笑みを浮かべている。
なんの疑いもない顔だ。
ミルキがリリス様を薔薇姫の塔から逃がしたとも見抜けずにまっすぐにこちらを見ている。
ミルキは困ったような穏やかな笑みを二人に向けた。
「私を必要としてくれて、ありがたいのですが…。
ここでやることがありますので、ご一緒できません。
今はこの家の使用人ですので」
その言葉に王子達は残念そうな表情を浮かべる。
「それは」
「残念だ」
その表情を見てミルキは心の中で薄く微笑んだ。
信用してくれてるのはありがたいが、この二人は勘違いをしている。
ミルキは生まれてからずっと王家に使えてきたがそれは王家に対する忠誠ではない。
たまたまそこに”彼女”がいたから、ミルキはそこにいた。
姫であり女王である薔薇姫リリス。
その姿を幾千もの年月で生まれ変わりながらもずっと傍にいたい大切な君主。
守るべき存在感。
そう彼女に願われてミルキは生まれた。
ミルキは彼女と共にある存在。
ミルキにとっては離れ難い大切な人。
だというのに目の前の二人は、ミルキは王家の大事な従者であると、信じ頼っているのだ。
その傍らにリリス様がいれば、ミルキは喜んで王子達に手を貸すことだろう。
だが、ミルキの主人である少女はこの者達から逃げることを選択した。
この手を取ってもらったあの瞬間からミルキは全力でその願いを叶えるべく動いている。
大切なリリスお嬢様だけがミルキ主人だ。
彼女だけがミルキに命じる権利がある。
彼女の傍らにいることこそ、ミルキにとっての史上の喜びであり生の意味である。
「さぁ、私のことは気にせず旅の支度をしてください」
「「分かった」」
***
「お気をつけて」
王子たちの背中をオプスキュリテ家の玄関からそっと見送った。
レインの姿が見えないが、きっとその辺をふらふら歩いているに違いない。
そのうち置いていかれてことに気づき慌てて追いかけることだろう。
問題のないことだ。
ミルキは見送りを終えると、オプスキュリテ侯爵の部屋に向かった。
王子達が出ていったことを伝えなくてはいけない。
部屋の近くに来た時エリカお嬢様がちょうど侯爵の部屋から出てくるところだった。
こちらには気づかずに、堂々とした足取りで去っていく。
そこに小さな影が追加された、末娘のメアリ様だ。
メアリ様はこちらを見透かすような冷たい灰色の瞳でにこりと笑った。
そのまま何事も無かったかのようにエリカについて行き姿が見えなくなった。
メアリ様は無邪気そうにみえるが、瞳の奥に何かがいるようなそんな気配を感じ不気味だとミルキは思った。
気を取り直して扉の前にミルキは立った。
「侯爵様、ミルキです」
部屋の扉をノックして返事を待った。
すぐに返事がくる。
「中へ」
扉を開けるとオプスキュリテ侯爵だけでなく、夫人までいた。
二人の前に進みでる。
「何か用事かミルキ様?
さっきエリカが状況を報告しに来ていてのぅ。
ダミアンがリリスを見つけたそうだが、
逃がしてしまったそうじゃ。
ダミアンはなにかショックなことがあったのか、精神が不安定でしばらく部屋で休養をとらせることにした。
殿下達にはなんと伝えればよいか考えていたところだ」
「その殿下達なのですが、出ていかれました」
「あら?」
「なぬ!?」
侯爵も夫人も驚いて声を上げた。
「従者のレインからこちら話しを聞きました。
私も暇をもらおうかと思いこちらに寄らせて頂いたのです。
殿下達は自らの力でリリス様を探すことにしたそうで、私も従者としてついて行こうと思っております」
その言葉に二人はさらに呆けた顔になってしまった。
「挨拶を…」
「そうよね…。
いや、謝罪かしら?」
「すでにこの屋敷から出てしまわれているので、必要ないですよ。
お二人が心配しているのは魔族との繋がりですよね。
心配しなくても今後とも懇意にさせていただきますので、大丈夫です。
此度の薔薇姫様のしたことですのでリリス様をこの世に産んでくださっただけて、こちらは感謝しておりますから。
では、私はこれで…」
「そうか…分かった。
今までありがとうミルキ様」
頭を下げてミルキーは部屋から出ていく。
ミルキは言いたいことを言い終えた。
顔には濃い笑が浮かんでくる。
オプスキュリテ家には王子達の従者として着いていくといったが、嘘だ。
王子達にはここにいると伝えたこちらも、嘘だ。
それというのもリリス様のお傍に向かうため。
やはり、あの方の傍に行かなくては心が耐えられない。
王子達がいた時は怪しい行動は取れなかったが、これならばここから怪しまれずに出ていくことが出来る。
ダミアン様も部屋からはしばらく出てこないだろう。
「オプスキュリテの皆様。
次のリリス様が生まれるまで、さようなら…」
オプスキュリテ家の豪華な扉を静かに閉める。
闇色の燕尾服を翻し、世界に熔けた。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説


夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。
ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。
しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。
ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。
それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。
この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。
しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。
そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。
素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……

二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる