グリモワールの修復師

アオキメル

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2章 リリスと闇の侯爵家

74 はじめての製本制作その四

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「表紙をつくろうか」

 メルヒが作業机の上で表紙に使うものをまとめてくれている。
 厚みのあるボード紙と刃物を使うためのマットが敷いてあった。

「あとは製本クロスがいるねぇ。
 リリス、製本クロスを選びに行こうか。
 あっちの棚にたくさんあるから、好きな色を選ぶといいよ」

 その言葉にまたやる気があふれ出す。
 どんな色の本にしようかと楽しみになってきた。
 メルヒの後ろをついて行き、製本クロスがしまってある棚をあける。
 棚の中には色とりどりの布がロールで積み重ねられていた。

「リリスの作っている本には、魔術式を各ページに付与する予定だよ。
 リリスが、いろんな魔術を使えるようにしようと思ってるんだよねぇ。
 長く使うものとして選ぶといいよ」

「長く使う私の魔術書…」

 リリスが作ったリリスだけの魔術書になる。
 嬉しくなってリリスは布をみつめる。
 それならば、やっぱり色はあの色だ。
 リリスは臙脂色の布に手をかけた。

「この色で本を作りたいです」

「…赤が好きだねぇ」

「臙脂色です」

「赤という範囲では同じだよ…。
 リリスらしい色で安心するねぇ」

 メルヒが少し呆れたように微笑みを浮かべる。
 リリスの後ろから腕を伸ばして、目的の布のロールを取ってくれた。
 作業机の方まで運んでくれる。

「製本クロスは、あとで使う分だけ切り取ろうねぇ。
 まずは表紙ボードを作らないとねぇ。
 表紙、裏表紙、背表紙の三パーツを作るよ。
 本紙のサイズを測ってから、サイズを導き出そう」

「分かりました。
 縦横厚さのサイズを測ります」

 定規を使って、本紙のサイズを測っていく。
 そのサイズをメモに記していった。

「高さと横幅は本紙よりも、五ミリほど大きく切り取ろうねぇ。
 サイズがわかったら、図に書いておくと作りやすいよ」

 メルヒに言われた通りに作る予定の図を描いていく。
 表紙、背表紙、裏表紙の順番に図を描いてサイズを記入していく。
 これで、ボードのサイズが分かった。

「ボードのサイズがわかったら、クロスのサイズも分かるようになるねぇ。
 ボードより一センチくらい大きく布をとるよ。
 背表紙の左右の間は九ミリあけてねぇ。
 開く時に必要な隙間だから。
 横幅はプラス十八ミリ多くとることになる」

「はい」

 メルヒに言われた通りに図に製本クロス分もサイズを記入していく。
 これで、ボードと製本クロスを裁断出来そうだ。
 大きな作業机に刃物用のマットを敷いてボードを切っていく。
 定規に沿って真っ直ぐに、角が直角になるように気をつける。
 ボードの裁断が終わったら次は製本クロスだ。
 こちらも手がぶれないように、まっすぐ切っていく。

「切れました」

 これで、表紙のパーツを切り出すことができた。

「ガタガタにならなかったねぇ。
 最初だからなるのかと思ったけど」

「気をつけて切ったので…
 あと、刃物がとても切れ味よかったです。
 引っ掛かる感じがありません」

「ルドルフのところの道具は使いやすくていいでしょう」

 にこやかに頷きながらメルヒがリリスの切ったものを確認していく。
 切り取った製本クロスの上にボードを乗せた。
 表紙、背表紙、裏表紙の順番で横に並べてある。

「よく出来てるねぇ。
 きれいに直角が出ているよ。
 あとは、図の通りの位置にボードを置いて印をつけようか」

「ボードを置くための目印ですね。
 もう、接着するのですね」

 この印はボードを置く目印だ。
 きっとこれから、接着剤を使ってボードと製本クロスをくっつける作業がはじまる。

「その通り。
 はい、接着剤と大きな筆だよ。
 これでボードと製本クロスをくっつけてねぇ」

「ありがとうございます。
 ぶよぶよに布が弛まないように気をつけます…」

 この作業で、より本の表紙ぽいものが出来上がっていく。
 きれいに張り込むことができるが不安だ。
 並べたボードを手に取り、筆で接着剤を塗っていく。
 塗っていく間に乾いてしまわないように、急ぎ目に塗った。
 塗った瞬間から、まっすぐだったボードが反りはじめる。

「えっ…なんで…」

 リリスは慌てて抑え込むように、接着剤をつけたボードを印をつけた場所に貼り付けた。

「ふふ、大丈夫だよ」

 暴れるボードの上にメルヒが重しを乗せた。

「全部、塗っちゃって」

「…はい」

 三パーツとも製本クロスに貼り付けた所で、仮に置いていた重しをどかした。
 接着剤がくっつかないワックスペーパーを上に乗せて、木板の上に重しを置いた。

「こうしないとボードが反ってきちゃうんだよねぇ。
 普通のことだから木にしなくて大丈夫」

「接着剤を塗った瞬間から、反ってきたので焦りました…」

「こうして乾かせばきれいにまっすぐになるよ。
 接着剤が乾くまで、休憩だねぇ」

「まっすぐになるのでしょうか。
 不安なところですけど、乾燥待ちですね」

 これから先は乾燥を待つ作業が多いので、休憩が多そうだ。

 ***

「わぁ、きれいに出来てますね!」

 重石を取り出して、製本クロスに貼り付けたボードをとりだす。
 反っていた時はどうなるものがと思っていたが、きれいにまっすぐになっていた。
 裏返して見ても、ぶよぶよな状態にならないで布がきれいに貼られている。

「大丈夫だったでしょう。
 じゃぁ、このまま表紙を完成させようか」

「はい!」

 メルヒに言われるままに、製本クロスの四つ角を切り落として、接着剤をつけてボードを包み込んでいった。
 これで表紙の完成だ。
 どこからどうみても、よく手に取る本の表紙だ。
 タイトルはまだないけれど、間違いなく本の表紙。

「あとで、好きなように表紙を飾っていいからねぇ」

「楽しみです」

「次は本紙と表紙を合わせる作業なわけだけど…。
 リリスは何度が見てるから大丈夫だよねぇ?」

「…いきなり、突き放すような教え方になるのでしょうか?」

 悲しげな表情を浮かべてメルヒを見つめる。

「…リリスができるの知ってるからだよ。
 あとは、本の背に接着剤をつけて背固めして、寒冷紗を貼り付ける。
 花ぎれ付けたかったら貼り付けてねぇ。
 あとはクータを貼り付けたら、表紙と本紙を合わせて接着して出来上がりだよ。
 見守ってるから、一人でやってみるといいよ」

「見られすぎというのも緊張しますけどね…」

 こうして、リリスは黙々と本を完成まで組み立てた。
 楽しみにしていたけれど、本作りって地味だなと考えていた。
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