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2章 リリスと闇の侯爵家
72 はじめての製本制作その二
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「リリス、こちらへ」
メルヒは広い方の作業机に移動する。
近寄ってみると本を作る材料がすでに用意されていた。
「こっちが本紙用の紙で、こっちが表紙の分の素材だよ。
本の構造や名称はちゃんと覚えている?」
「分かりやすいように分けて準備してくれたのですね。
ありがとうございます。
名称ですか…。
自信ないですが大体は覚えています」
リリスは机の上に置いてある見本のための本を手に取る。
「本の上下を表す時は、天と地。
開くところの面は小口。
表表紙に裏表紙、背にタイトルが書かれているのが背表紙ですよね。
表紙と裏表紙を開くと見返しがあります!
あとの中身は本紙です」
「うん、よく覚えているねぇ。
問題はなさそうだよ」
満足そうにメルヒは微笑んだ。
「では、本紙を組み立てる前に紙の流れ目について話そうか」
「紙の目?
紙に目があるのですか?」
不思議なことを言うのでリリスは首を傾げる。
「顔についてる目の事じゃないからねぇ」
可笑しそうにメルヒは笑う。
本紙用の紙を一枚手に取ると、折り目がつかないようにゆるく曲げる。
「紙は流れがあって、縦目と横目があるだ。
こうやって、ゆるく曲げると違いが分かるよ」
メルヒがリリスにも紙を一枚わたしてくれた。
メルヒの真似をしてゆるく曲げてみる。
「あっ…曲げやすい方と抵抗がある方があります」
「そう、それが縦目と横目だよ。
作る時に紙の材料を流したときにできるものなんだよねぇ。
物によってどちらの目を使うか決めるわけだけど、本には縦目を天地にむけて使おうか」
「横目で使うと、どうなってしまうのですか?
あんまり変わらなさそうなのに…」
リリスは不思議に思い尋ねる。
「うーん、そうだねぇ。
紙は伸びたり縮んたりするものなんだよ。
縦目に使うほうが差が出にくいんだ。
横目で使われてるものもあるけど、湿気を吸った時とかに、しおしおによれちゃうかもねぇ」
「しおしおに…。
それはガタガタになって読みにくいことになりそうですね。
本ならば紙はしっかり揃えたいです」
リリスは納得して紙の目を揃える。
「四枚ずつをまとめて半分に折って、折丁おりちょうを作ろうか。
実はもう紙の目を揃えて裁断しておいたから、切らなくても大丈夫だよ。
そのセットを八セット作ってねぇ」
「わかりました」
リリスはメルヒに言われたように、折丁を作っていく。
紙の目が縦目なので折りやすかった。
紙を折る時は修復道具のひとつのヘラを使ってしっかりと折り目をつける。
ヘラを紙に滑らせる、すーっとした感覚が指先に伝わり気持ちがよかった。
「リリス、楽しそうだねぇ。
折り終わったら、重しをのせてプレスするよ」
「ヘラで折り目をつけるのが楽しいですね。
きれいに折り目がつきます」
リリスは紙をどんどん折り曲げて作っていく。
折丁を八セット作り終わると、メルヒが木板を持ってきて、折丁の上に乗せた。
重しをのせてプレスする。
「これでしっかり折り癖をつけるよ。
それが終わったら、折丁をしっかり揃えてプレス機を使うよ」
「あの木で造られた機械を使えるのですね」
リリスはきらきらとした星を宿した瞳でメルヒを見つめる。
その顔を見てメルヒはたじろいだ。
そんな変な表情してただろうか。
「はじめから、そんなにはりきると疲れてしまうよ…」
「面白いことだと疲れません!」
「そのようだねぇ…」
メルヒはリリスから視線を逸らした。
「そろそろかな…」
「いいんじゃない?」
リリスは重しで押していた折丁を重しの下から取り出す。
きれいに折り癖がついていて、パカパカ自然に開かなくなっていた。
「もう大丈夫そうだねぇ」
「次は、きれいに揃えてプレス機で挟むのですよね」
「背に当たる部分、折丁の折り目側がプレス機よりも、外にはみ出るように置いてねぇ。
目引きという作業でノコギリで切り込みをいれるから」
「本を作るのに、ノコギリが出てくるのにびっくりです」
メルヒから折丁を受け取り揃えていく。
部屋の中に紙を揃えるトントントンという音が響く。
本のようにきっちりとまっすぐにズレがないように揃えていく。
天地に小口が少しもズレないようにしなくてはならないので、気を使う作業だ。
せっかく揃えても、動かすとズレてしまう。
何度がやり直して揃えることができた。
メルヒに言われた通りに折丁を数センチはみ出した状態で、木板で挟み込む。
そのまま、プレス機に乗せた。
木でできたプレス機の上にある、ハンドルを回していく。
ギチギチと音を立てながら、挟み込む力が強くなっていった。
「これで挟めましたね。
なかなか苦労しました」
「背を固めてもいないから、ここは難しいところだよねぇ
まだまだ、本を作るには序盤だよ」
楽しみにしていたことだけど、本を作るのは大変そうだ。
器用さ以外のことも要求されている気がする。
「まだまだ、できあがるのは先ですね」
メルヒは広い方の作業机に移動する。
近寄ってみると本を作る材料がすでに用意されていた。
「こっちが本紙用の紙で、こっちが表紙の分の素材だよ。
本の構造や名称はちゃんと覚えている?」
「分かりやすいように分けて準備してくれたのですね。
ありがとうございます。
名称ですか…。
自信ないですが大体は覚えています」
リリスは机の上に置いてある見本のための本を手に取る。
「本の上下を表す時は、天と地。
開くところの面は小口。
表表紙に裏表紙、背にタイトルが書かれているのが背表紙ですよね。
表紙と裏表紙を開くと見返しがあります!
あとの中身は本紙です」
「うん、よく覚えているねぇ。
問題はなさそうだよ」
満足そうにメルヒは微笑んだ。
「では、本紙を組み立てる前に紙の流れ目について話そうか」
「紙の目?
紙に目があるのですか?」
不思議なことを言うのでリリスは首を傾げる。
「顔についてる目の事じゃないからねぇ」
可笑しそうにメルヒは笑う。
本紙用の紙を一枚手に取ると、折り目がつかないようにゆるく曲げる。
「紙は流れがあって、縦目と横目があるだ。
こうやって、ゆるく曲げると違いが分かるよ」
メルヒがリリスにも紙を一枚わたしてくれた。
メルヒの真似をしてゆるく曲げてみる。
「あっ…曲げやすい方と抵抗がある方があります」
「そう、それが縦目と横目だよ。
作る時に紙の材料を流したときにできるものなんだよねぇ。
物によってどちらの目を使うか決めるわけだけど、本には縦目を天地にむけて使おうか」
「横目で使うと、どうなってしまうのですか?
あんまり変わらなさそうなのに…」
リリスは不思議に思い尋ねる。
「うーん、そうだねぇ。
紙は伸びたり縮んたりするものなんだよ。
縦目に使うほうが差が出にくいんだ。
横目で使われてるものもあるけど、湿気を吸った時とかに、しおしおによれちゃうかもねぇ」
「しおしおに…。
それはガタガタになって読みにくいことになりそうですね。
本ならば紙はしっかり揃えたいです」
リリスは納得して紙の目を揃える。
「四枚ずつをまとめて半分に折って、折丁おりちょうを作ろうか。
実はもう紙の目を揃えて裁断しておいたから、切らなくても大丈夫だよ。
そのセットを八セット作ってねぇ」
「わかりました」
リリスはメルヒに言われたように、折丁を作っていく。
紙の目が縦目なので折りやすかった。
紙を折る時は修復道具のひとつのヘラを使ってしっかりと折り目をつける。
ヘラを紙に滑らせる、すーっとした感覚が指先に伝わり気持ちがよかった。
「リリス、楽しそうだねぇ。
折り終わったら、重しをのせてプレスするよ」
「ヘラで折り目をつけるのが楽しいですね。
きれいに折り目がつきます」
リリスは紙をどんどん折り曲げて作っていく。
折丁を八セット作り終わると、メルヒが木板を持ってきて、折丁の上に乗せた。
重しをのせてプレスする。
「これでしっかり折り癖をつけるよ。
それが終わったら、折丁をしっかり揃えてプレス機を使うよ」
「あの木で造られた機械を使えるのですね」
リリスはきらきらとした星を宿した瞳でメルヒを見つめる。
その顔を見てメルヒはたじろいだ。
そんな変な表情してただろうか。
「はじめから、そんなにはりきると疲れてしまうよ…」
「面白いことだと疲れません!」
「そのようだねぇ…」
メルヒはリリスから視線を逸らした。
「そろそろかな…」
「いいんじゃない?」
リリスは重しで押していた折丁を重しの下から取り出す。
きれいに折り癖がついていて、パカパカ自然に開かなくなっていた。
「もう大丈夫そうだねぇ」
「次は、きれいに揃えてプレス機で挟むのですよね」
「背に当たる部分、折丁の折り目側がプレス機よりも、外にはみ出るように置いてねぇ。
目引きという作業でノコギリで切り込みをいれるから」
「本を作るのに、ノコギリが出てくるのにびっくりです」
メルヒから折丁を受け取り揃えていく。
部屋の中に紙を揃えるトントントンという音が響く。
本のようにきっちりとまっすぐにズレがないように揃えていく。
天地に小口が少しもズレないようにしなくてはならないので、気を使う作業だ。
せっかく揃えても、動かすとズレてしまう。
何度がやり直して揃えることができた。
メルヒに言われた通りに折丁を数センチはみ出した状態で、木板で挟み込む。
そのまま、プレス機に乗せた。
木でできたプレス機の上にある、ハンドルを回していく。
ギチギチと音を立てながら、挟み込む力が強くなっていった。
「これで挟めましたね。
なかなか苦労しました」
「背を固めてもいないから、ここは難しいところだよねぇ
まだまだ、本を作るには序盤だよ」
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