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2章 リリスと闇の侯爵家
68 呪石
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「…ふぅ」
満足そうにレインはため息を吐く。
そしてまた唇をついばみはじめた。
レインの唇が、体を触る手が、ダミアンを撫で回していく。
甘くねっとりとした声が耳にまとわりついてくる。
ダミアンに触れる何もかもが穢らわしかった。
静かに声を殺してダミアンは終わるのを待っていたが我慢できずに、体を撫でる手を払いのけた。
「もう、いいだろう。
…さぁ、リリスについて知っていることを全て教えてもらおうか?
私を助けてくれるのだろう?」
ぐらりと視界が歪み、倒れそうになるのをダミアンは持ちこたえる。
ここで倒れたら何をされるか分からない。
「もう、急かしちゃって嫌ね…。
まだ、楽しんでいたいのに」
潤んだ瞳で残念そうに眉をよせ、口を尖らせる。
そんな表情をされてもダミアンは、何も感じない。
ダミアンだって、何も知らずに魔族に口付けを許したわけじゃない。
ダミアンのなかの魔力をこの女が喰らっていることくらい分かっていた。
ゾワゾワとした感覚が体を駆け巡る。
「もう、十分だろ…」
「まだまだ、足りないけれど。
満足できるなんてこともないから、まぁいいでしょう。
美味しかったわよ。
さてと口付けのお返しに、お姉さんが協力してあげるわ」
晴れやかな微笑みを顔に浮かべて、ダミアンに女の子とぶつかった日のことを詳しく話し始めた。
「あたしがぶつかった女の子の近くには、強い力を持つ魔術師がいたわ。
銀色の髪をもった美しい人よ。
赤いマントには高度な魔術で存在を隠す仕掛けがしてあったみたいね。
あたしはダークエルフだから、魔術には敏感に反応してしまうのよ、美味しそうな匂いにもね」
「銀色の髪を持つ魔術師か…。
リリスがいなくなったのは、魔術師か魔法使いが関係しているのではないかと考えていたが、金髪の少女ではないんだな?」
「金髪の少女?
そんな子は見かけなかったわ。
魔術師は銀髪の眼鏡をかけた背の高い男性よ」
「…男」
男性という言葉にダミアンは俯く。
美しい人と話していたから、てっきり女性だと思っていた。
リリスは男と一緒にいる?
そう考えただけで、腹の中に重たく苦いものが澱んでいく。
まだその少女がリリスと決まったわけではないが、特徴が一致する。
リリスかもしれない少女が男と一緒にいることが許せなかった。
そんな様子を見せるダミアンをレインは面白そうに見つめる。
「最愛の人が誰かに奪われるなんて耐えられないわよね。
どこか違う場所、見つからないように大切にしまっておきたいわよね。
あたしならそうするわ…」
レインの言葉にダミアンは虚空を見る。
その言葉がダミアンの心にすとんと普通のことのように落ちていく。
レインの言うようにダミアンは、リリスを見つけて誰にも邪魔されない場所に閉じ込めてしまいたいと日頃からは思っていた。
「そうだわ、いいものがあるのよ。
ダミアン様にはこれを貸してあげる」
レインはいいことを思いついたという風に手をうちあわせた。
レインは腰に下げている巾着袋に手を入れる。
じゃらじゃらと硬いものが入っている音が聞こえた。
「うーん、これかしらね」
その中からレインは赤と黒が斑になった石を取りだした。
その石をダミアンに差し出してきた。
「なんだこれは?」
ダークエルフが使う怪しい魔術道具だろうかとダミアンは警戒しながら石を見つめる。
「ブラッドストーンの呪石よ。
魔族が使う呪術のひとつね。
人が使うと多少精神を蝕まれるけれど、ダミアン様は大丈夫でしょう。
恋は人をおかしくするものだものね…。
それを使えば、きっと最愛の人をみつけられるわ」
妖しげな微笑みを浮かべてレインは石をダミアンの手のひらに静かに置いた。
ひんやりと冷たい石の感触が伝わってくる。
血のように赤い部分と黒い色が混ざりあった不思議な石だ。
見た目に相応しく、ブラッドストーンという名前らしい。
そこに金色で読めない文字が掘られている。
「あたしのこの呪石を、あなたに貸してあげるわ。
ブラッドストーンの呪石の効果は最愛の人を見つけること。
ダミアン様の薔薇姫ちゃんへの愛があれば、どんなに高度に隠された魔術も魔法も無効にしてくれるわ」
「…こんなものまで貸してくれるのか?
情報だけの対価しか渡してないと思ったが?
また何か要求する気だな」
ダミアンはレインを警戒し距離をとった。
「あらぁ、離れてしまうの?
さっきので楽しませてもらったから、何もしないわよ?
させてくれるのならいくらでも頂きたいけれど…」
「よるな」
抱き寄せようとするレインの手をダミアンは避ける。
これ以上、何かされると本当に倒れてしまいそうだ。
「そうね…。
ダミアン様が気にするのなら、もう一つなにか貰おうかしら」
レインは手を顎の下に当てて考えて、すぐに欲しいものを口にした。
「薔薇姫ちゃんが見つかったら身につけているものをあたしにちょうだい。
それがこの道具の対価としましょう」
「…リリスの持ち物が欲しいのか?」
怪訝そうにダミアンはレインを見つめる。
「一応、あたしは王子達の従者だから働いてますよという証拠が欲しいのよ。
分かるでしょう?」
「まぁ、持ち物くらいならいいだろう」
「その対価が得られるまで、ダミアン様には頑張ってもらわないといけないわ。
だから、あたしがそばにいて見守ってるわね。
助けが必要になったのなら、また声をかけてね」
ダミアンに向かってまたあの気持ちの悪い蕩けた顔をこちらに向けた。
「…協力はありがたいが、その顔は嫌いだ。
あんまり、ベタベタするなよ…」
ダミアンに魔族の女レインが協力者として加わった。
ダミアンに好意を寄せてくるのが迷惑でしかないが、これでリリスを見つけることが出来るならダミアンは良かった。
手に握られているブラッドストーンの呪石を見つめる。
早くリリスに会いたいとダミアンは心から願った。
満足そうにレインはため息を吐く。
そしてまた唇をついばみはじめた。
レインの唇が、体を触る手が、ダミアンを撫で回していく。
甘くねっとりとした声が耳にまとわりついてくる。
ダミアンに触れる何もかもが穢らわしかった。
静かに声を殺してダミアンは終わるのを待っていたが我慢できずに、体を撫でる手を払いのけた。
「もう、いいだろう。
…さぁ、リリスについて知っていることを全て教えてもらおうか?
私を助けてくれるのだろう?」
ぐらりと視界が歪み、倒れそうになるのをダミアンは持ちこたえる。
ここで倒れたら何をされるか分からない。
「もう、急かしちゃって嫌ね…。
まだ、楽しんでいたいのに」
潤んだ瞳で残念そうに眉をよせ、口を尖らせる。
そんな表情をされてもダミアンは、何も感じない。
ダミアンだって、何も知らずに魔族に口付けを許したわけじゃない。
ダミアンのなかの魔力をこの女が喰らっていることくらい分かっていた。
ゾワゾワとした感覚が体を駆け巡る。
「もう、十分だろ…」
「まだまだ、足りないけれど。
満足できるなんてこともないから、まぁいいでしょう。
美味しかったわよ。
さてと口付けのお返しに、お姉さんが協力してあげるわ」
晴れやかな微笑みを顔に浮かべて、ダミアンに女の子とぶつかった日のことを詳しく話し始めた。
「あたしがぶつかった女の子の近くには、強い力を持つ魔術師がいたわ。
銀色の髪をもった美しい人よ。
赤いマントには高度な魔術で存在を隠す仕掛けがしてあったみたいね。
あたしはダークエルフだから、魔術には敏感に反応してしまうのよ、美味しそうな匂いにもね」
「銀色の髪を持つ魔術師か…。
リリスがいなくなったのは、魔術師か魔法使いが関係しているのではないかと考えていたが、金髪の少女ではないんだな?」
「金髪の少女?
そんな子は見かけなかったわ。
魔術師は銀髪の眼鏡をかけた背の高い男性よ」
「…男」
男性という言葉にダミアンは俯く。
美しい人と話していたから、てっきり女性だと思っていた。
リリスは男と一緒にいる?
そう考えただけで、腹の中に重たく苦いものが澱んでいく。
まだその少女がリリスと決まったわけではないが、特徴が一致する。
リリスかもしれない少女が男と一緒にいることが許せなかった。
そんな様子を見せるダミアンをレインは面白そうに見つめる。
「最愛の人が誰かに奪われるなんて耐えられないわよね。
どこか違う場所、見つからないように大切にしまっておきたいわよね。
あたしならそうするわ…」
レインの言葉にダミアンは虚空を見る。
その言葉がダミアンの心にすとんと普通のことのように落ちていく。
レインの言うようにダミアンは、リリスを見つけて誰にも邪魔されない場所に閉じ込めてしまいたいと日頃からは思っていた。
「そうだわ、いいものがあるのよ。
ダミアン様にはこれを貸してあげる」
レインはいいことを思いついたという風に手をうちあわせた。
レインは腰に下げている巾着袋に手を入れる。
じゃらじゃらと硬いものが入っている音が聞こえた。
「うーん、これかしらね」
その中からレインは赤と黒が斑になった石を取りだした。
その石をダミアンに差し出してきた。
「なんだこれは?」
ダークエルフが使う怪しい魔術道具だろうかとダミアンは警戒しながら石を見つめる。
「ブラッドストーンの呪石よ。
魔族が使う呪術のひとつね。
人が使うと多少精神を蝕まれるけれど、ダミアン様は大丈夫でしょう。
恋は人をおかしくするものだものね…。
それを使えば、きっと最愛の人をみつけられるわ」
妖しげな微笑みを浮かべてレインは石をダミアンの手のひらに静かに置いた。
ひんやりと冷たい石の感触が伝わってくる。
血のように赤い部分と黒い色が混ざりあった不思議な石だ。
見た目に相応しく、ブラッドストーンという名前らしい。
そこに金色で読めない文字が掘られている。
「あたしのこの呪石を、あなたに貸してあげるわ。
ブラッドストーンの呪石の効果は最愛の人を見つけること。
ダミアン様の薔薇姫ちゃんへの愛があれば、どんなに高度に隠された魔術も魔法も無効にしてくれるわ」
「…こんなものまで貸してくれるのか?
情報だけの対価しか渡してないと思ったが?
また何か要求する気だな」
ダミアンはレインを警戒し距離をとった。
「あらぁ、離れてしまうの?
さっきので楽しませてもらったから、何もしないわよ?
させてくれるのならいくらでも頂きたいけれど…」
「よるな」
抱き寄せようとするレインの手をダミアンは避ける。
これ以上、何かされると本当に倒れてしまいそうだ。
「そうね…。
ダミアン様が気にするのなら、もう一つなにか貰おうかしら」
レインは手を顎の下に当てて考えて、すぐに欲しいものを口にした。
「薔薇姫ちゃんが見つかったら身につけているものをあたしにちょうだい。
それがこの道具の対価としましょう」
「…リリスの持ち物が欲しいのか?」
怪訝そうにダミアンはレインを見つめる。
「一応、あたしは王子達の従者だから働いてますよという証拠が欲しいのよ。
分かるでしょう?」
「まぁ、持ち物くらいならいいだろう」
「その対価が得られるまで、ダミアン様には頑張ってもらわないといけないわ。
だから、あたしがそばにいて見守ってるわね。
助けが必要になったのなら、また声をかけてね」
ダミアンに向かってまたあの気持ちの悪い蕩けた顔をこちらに向けた。
「…協力はありがたいが、その顔は嫌いだ。
あんまり、ベタベタするなよ…」
ダミアンに魔族の女レインが協力者として加わった。
ダミアンに好意を寄せてくるのが迷惑でしかないが、これでリリスを見つけることが出来るならダミアンは良かった。
手に握られているブラッドストーンの呪石を見つめる。
早くリリスに会いたいとダミアンは心から願った。
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