64 / 111
2章 リリスと闇の侯爵家
64 ダミアンの宝物その四
しおりを挟む
「…恩恵?」
ぽつりとダミアンの口から言葉がこぼれる。
さきほど見た恐ろしさは幻影だったのか、目の前には爽やかに微笑みを浮かべるミルキがいた。
恐ろしかったはずなのにとダミアンは目をこする。
母上のドレスを強く握っていたが、そっと手を離した。
「リリス様を大切に育ててくださる、オプスキュリテ侯爵家の皆様には魔族から恩恵ギフトが送られます。
一つは供給する無尽蔵の魔力。
こちらは今まで通り継続されます。
存分に強力な魔法をお使いください。
二つ目はリリス様をこの世に産み落としてくださった、侯爵夫妻へです」
その言葉を聞いて二人は顔を見合わせて微笑みを浮かべる。
リリスが瞳を開けた時に見たような、ねっとりとした微笑みだ。
さっきまで魔族のことが怖かったのに、ダミアンは両親のことが怖くなる。
「望みがあるなら、魔族が叶えましょう。
リリス様に対する契約の対価です」
「では、ワシには薔薇姫が生活に困らぬように枯れぬ富が欲しい」
「妾は老けることが恐ろしい。
このままの老いることの無い、不老の力が欲しい」
「かしこまりました。
その願い魔族が聞き届けましょう」
男はそう言うと、使用人の一人に声をかける。
「私のトランクをこちらに持ってきてもらって大丈夫ですか?」
使用人がミルキの持ち物と思われるトランクを運んでくる。
そのトランクを受け取るとソファの上に置き中を開いた。
トランクの中には色とりどりの液剤が入った小瓶が並んでいる。
ひとつひとつタグがつけられて丁寧に規則正しく並べられていた。
「財力と不老ね…」
そう呟きながら、トランクに入っている小瓶を取り出す。
コトンと選んだ小瓶を机の上に置いた。
黄金色の液剤が入ったものと紫色の液剤が入ったものだ。
「お二人とも手をだしていただいても、良いですか?」
ミルキのその言葉に疑うこともなく両親は手を差し出す。
ダミアンはなにか怪しいことをするのだと思い、そわそわした気持ちになっていた。
父上には黄金色の雫が母上には紫色の雫がかかる。
手に当たった瞬間、キラキラと光り輝き全身にその輝きが纏った。
「これで、財力と不老の力を得ることができますよ。
この液剤は我国の研究者が作り出した人の願いを叶えるために作られたもの。
リリス様を産み落とす、オプスキュリテ侯爵家のためだけに作られたものです」
「これだけで、望みが叶うのか?」
「不思議なこと」
両親にも自覚がわかないらしく、不思議な顔をしていた。
「次に私が、この屋敷に来る際は効果が現れていると思いますよ。
問題があると感じたのなら、その機会にお申し付けください」
それに両親は頷いた。
肯定を受け取りミルキは微笑んだ。
「さて、私の用事は大体終わりました。
リリス様の確認と恩恵の授与は完了しましたね。
あとは注意事項を伝えるくらいでしょうか。
薔薇姫リリス様に危険がないよう大切に育ってください。
魔族が迎えに来るその日まで。
もしもの事があっては、こちらとしても問題となりますので」
ミルキは帰る支度を始める。
そこで手を止めて父上の方を見た。
「そうです、大切なことを言い忘れてました。
私は、代々の薔薇姫様にお使いしてきました。
今代もその役目を仰せつかっております。
国へ一旦帰りますが、次に会う時にはリリス様専属の使用人としてこちらで働かせてもらいます」
「分かった、そのように手配しておく。
こちらとしても魔族の方がリリスを見ててくれると安心する。
よろしく頼む」
「こちらこそ」
そう告げてミルキという魔族の男は屋敷から出ていった。
ダミアンは聞いた話を頭の中で整理しようとしたが、四歳では何も分からなかった。
ただ魔族は怖くて、リリスはこの家の宝物のような存在であるとだけ理解した。
ぽつりとダミアンの口から言葉がこぼれる。
さきほど見た恐ろしさは幻影だったのか、目の前には爽やかに微笑みを浮かべるミルキがいた。
恐ろしかったはずなのにとダミアンは目をこする。
母上のドレスを強く握っていたが、そっと手を離した。
「リリス様を大切に育ててくださる、オプスキュリテ侯爵家の皆様には魔族から恩恵ギフトが送られます。
一つは供給する無尽蔵の魔力。
こちらは今まで通り継続されます。
存分に強力な魔法をお使いください。
二つ目はリリス様をこの世に産み落としてくださった、侯爵夫妻へです」
その言葉を聞いて二人は顔を見合わせて微笑みを浮かべる。
リリスが瞳を開けた時に見たような、ねっとりとした微笑みだ。
さっきまで魔族のことが怖かったのに、ダミアンは両親のことが怖くなる。
「望みがあるなら、魔族が叶えましょう。
リリス様に対する契約の対価です」
「では、ワシには薔薇姫が生活に困らぬように枯れぬ富が欲しい」
「妾は老けることが恐ろしい。
このままの老いることの無い、不老の力が欲しい」
「かしこまりました。
その願い魔族が聞き届けましょう」
男はそう言うと、使用人の一人に声をかける。
「私のトランクをこちらに持ってきてもらって大丈夫ですか?」
使用人がミルキの持ち物と思われるトランクを運んでくる。
そのトランクを受け取るとソファの上に置き中を開いた。
トランクの中には色とりどりの液剤が入った小瓶が並んでいる。
ひとつひとつタグがつけられて丁寧に規則正しく並べられていた。
「財力と不老ね…」
そう呟きながら、トランクに入っている小瓶を取り出す。
コトンと選んだ小瓶を机の上に置いた。
黄金色の液剤が入ったものと紫色の液剤が入ったものだ。
「お二人とも手をだしていただいても、良いですか?」
ミルキのその言葉に疑うこともなく両親は手を差し出す。
ダミアンはなにか怪しいことをするのだと思い、そわそわした気持ちになっていた。
父上には黄金色の雫が母上には紫色の雫がかかる。
手に当たった瞬間、キラキラと光り輝き全身にその輝きが纏った。
「これで、財力と不老の力を得ることができますよ。
この液剤は我国の研究者が作り出した人の願いを叶えるために作られたもの。
リリス様を産み落とす、オプスキュリテ侯爵家のためだけに作られたものです」
「これだけで、望みが叶うのか?」
「不思議なこと」
両親にも自覚がわかないらしく、不思議な顔をしていた。
「次に私が、この屋敷に来る際は効果が現れていると思いますよ。
問題があると感じたのなら、その機会にお申し付けください」
それに両親は頷いた。
肯定を受け取りミルキは微笑んだ。
「さて、私の用事は大体終わりました。
リリス様の確認と恩恵の授与は完了しましたね。
あとは注意事項を伝えるくらいでしょうか。
薔薇姫リリス様に危険がないよう大切に育ってください。
魔族が迎えに来るその日まで。
もしもの事があっては、こちらとしても問題となりますので」
ミルキは帰る支度を始める。
そこで手を止めて父上の方を見た。
「そうです、大切なことを言い忘れてました。
私は、代々の薔薇姫様にお使いしてきました。
今代もその役目を仰せつかっております。
国へ一旦帰りますが、次に会う時にはリリス様専属の使用人としてこちらで働かせてもらいます」
「分かった、そのように手配しておく。
こちらとしても魔族の方がリリスを見ててくれると安心する。
よろしく頼む」
「こちらこそ」
そう告げてミルキという魔族の男は屋敷から出ていった。
ダミアンは聞いた話を頭の中で整理しようとしたが、四歳では何も分からなかった。
ただ魔族は怖くて、リリスはこの家の宝物のような存在であるとだけ理解した。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説


男装騎士の元カレは隣国の王太子でした
宮野 智羽
恋愛
長らく空席だった王国騎士団の団長の座に就いた若き剣士_サイラス・アフガルトは就任後初のパーティーでイゴール陛下と挨拶回りをしていた。
勿論、この場に彼女を女性と知る者はいない…はずだった。
「バレッサ?」
捨てたはずの名前を呼んだのはよりによって隣国の王太子であるダレス様。
あれ、待って。
私の唯一の元カレと目の前の隣国の王太子…物凄く似ている気が…
そしてイゴール陛下と城に仕える女医のカリン先生は両片思いのくせに身分差を理由にお互い踏み切ってくれなくて物凄くじれったい。
「僕の恋愛よりも自分たちを優先してください!!見ているこっちの身になってくださいよ!!!」
煌びやかな世界で繰り広げられる身分差の恋愛をどうぞお楽しみください。

お飾り妻生活を満喫していたのに王子様に溺愛されちゃった!?
AK
恋愛
「君は書類上の妻でいてくれればいい」
「分かりました。旦那様」
伯爵令嬢ルイナ・ハーキュリーは、何も期待されていなかった。
容姿は悪くないけれど、何をやらせても他の姉妹に劣り、突出した才能もない。
両親はいつも私の結婚相手を探すのに困っていた。
だから受け入れた。
アーリー・ハルベルト侯爵との政略結婚――そしてお飾り妻として暮らすことも。
しかし――
「大好きな魔法を好きなだけ勉強できるなんて最高の生活ね!」
ルイナはその現状に大変満足していた。
ルイナには昔から魔法の才能があったが、魔法なんて『平民が扱う野蛮な術』として触れることを許されていなかった。
しかしお飾り妻になり、別荘で隔離生活を送っている今。
周りの目を一切気にする必要がなく、メイドたちが周りの世話を何でもしてくれる。
そんな最高のお飾り生活を満喫していた。
しかしある日、大怪我を負って倒れていた男を魔法で助けてから不穏な空気が漂い始める。
どうやらその男は王子だったらしく、私のことを妻に娶りたいなどと言い出して――
私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました
山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。
※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。
コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。
ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。
トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。
クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。
シモン・ノアイユ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。
ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。
シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。
〈あらすじ〉
コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。
ジレジレ、すれ違いラブストーリー

王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます

妹が約束を破ったので、もう借金の肩代わりはやめます
なかの豹吏
恋愛
「わたしも好きだけど……いいよ、姉さんに譲ってあげる」
双子の妹のステラリアはそう言った。
幼なじみのリオネル、わたしはずっと好きだった。 妹もそうだと思ってたから、この時は本当に嬉しかった。
なのに、王子と婚約したステラリアは、王子妃教育に耐えきれずに家に帰ってきた。 そして、
「やっぱり女は初恋を追うものよね、姉さんはこんな身体だし、わたし、リオネルの妻になるわっ!」
なんて、身勝手な事を言ってきたのだった。
※この作品は他サイトにも掲載されています。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

婚約者は他の女の子と遊びたいようなので、私は私の道を生きます!
皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけたらどうだ。正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」
頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。
そして、チラチラと周囲や他の女子生徒を見る視線で察する。彼は他に想い人が居る、または作るつもりで、距離を取りたいのだと。邪魔になっているのだ、と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる