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2章 リリスと闇の侯爵家
63 ダミアンの宝物その三
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部屋に入ると空間が柔らかな光で満たされていた。
窓から差し込む眩しい光を薔薇の絵図を描いたレースのカーテンが吸収している。
明るく過ごしやすい部屋の中、ベットで赤子がすやすやと寝息をたてている。
それを大人達が囲って顔を見ていた。ダミアンもそれに混ざっている。
「この子が薔薇姫リリスよ」
ミルキにその姿を見せる。
「…リリス様、またお会いできましたね」
ダミアンはこの男が何かを悪さをしないように、じっと観察していた。
リリスに話しかけるその表情は、懐かしいような悲しいような感情が混ざっていた。
妹であるリリスとこの男ミルキが会うのは初めてのはずなのにとダミアンは不思議に思う。
ミルキが話しかけたからか、眠っていたリリスの瞼がそっと開いた。
血のように赤い瞳がミルキを見つめかえす。
目覚めの機嫌が良いようで、キャッキャと楽しそうに足と手を動かしている。
「…赤い瞳も確認いたしました。
今代も美しい瞳をお持ちですね。
リリス様、健やかにお過ごしください」
ミルキは顔に安心したような、穏やかな表情を浮かべた。
「では、オプスキュリテ侯爵。
リリス様の様子も確認できましたので、今後についてお話いたしましょう」
「よろしく頼む」
両親とミルキはリリスの部屋にあるソファに向かい合うように座った。
使用人たちが、紅茶をいれて机に置いていく。
焼き菓子の乗ったお皿も用意された。
ダミアンはお菓子をすぐにでも食べたかったが、こういう場合は話がすんでからでないとダメだと教えられていたので、我慢して座っていた。
向かいに座るミルキが口を開く。
「薔薇姫リリス様が魔族にとって特別な存在であることは今も伝わっておりますよね?」
「ええ、もちろんです。
オプスキュリテ侯爵家の限られた者達に脈々と伝わっております。
黒髪に赤い瞳の女児は、薔薇姫と呼びリリスの名ずけられる。
そして薔薇姫は魔族の王族のもとへと嫁ぐことが決められている。
そして、それは我が一族の繁栄をもたらすことであると言われております」
その説明をうけてミルキは安心した微笑みを返した。
「しっかりと受け継がれているようで、安心しました。
なにぶん周期が何百年単位ですので、その間に決まり事が反故になっていては、困ってしまうところでしたから」
「忘れてしまうことなど、ありませんよ。
遠く離れた魔族の皆様との交流で、我が一族の力は受け継がれているのですから。
こうして魔法王国ルーナで侯爵として名を残しているのも、全て魔族の方から与えられた恩恵があってこそ。
先々代、先代と経て伝わっております」
「恩恵ギフトのことも伝わっておりますね。
そちらについては、後ほどお話しましょう」
ミルキはお茶の入ったカップに口をつける。
一口飲んで喉を潤すとまた話を続けた。
「まずはリリス様についてです。
伝わっております通り、リリス様には魔王国アビスの王太子である、リオン殿下とレウ殿下の婚約者になっていただきます」
「…二人も婚約者が?
リリスは生まれたばかりで一人なのだが?」
困惑した表情で父上はミルキを見ている。
生まれたばかりなのに妹はもう婚約者が二人も決まるみたいだった。
ダミアンにはまだ難しくてよく分からないが、王子様と結婚できるなんて妹は幸せなのかもしれないとリリスの方を眺める。
ダミアンと同じくらいの女の子はみんな素敵な王子様が迎えに来るお姫様になりたいと言っていたのをよく聞いていた。
「不思議に思うのは分かりますが、リオン殿下とレウ殿下は双子でして、どちらか一人という訳にはいかないのです。
双子が生まれた際は、我国では平等に条件を分け合わなくてはならない決まりとなっております。
というのも魔族の双子はとても強大な力を持っていて互いに闘いなどされますと、国が荒れてしまいます。
とくに王族ともなりますとより強い力を発現させることでしょう」
「…そんなに危険な双子のところへ、あの子は行くのか?」
「…いいえ、危険などありません。
そうならないように、双子に与えられるものは平等になっております。
魔族の双子は仲が良いことが多いです」
それを聞いて、両親は少しだけほっとした顔をした。
「じゃあ、普通に結婚して幸せになれるという事か…。
薔薇姫とは魔族への生贄であるとも書物には書かれていたけれど、幸せになれるのならば安心よ。
魔族のもとへ行ってしまっても、それならば罪悪感はないのう」
母上は寂しそうに微笑みを浮かべた。
罪悪感を感じるなんて、何故なのだろう。
それに魔族への生贄とは?
妹は魔族の王子様と結婚できるのにとダミアンは不思議に思う。
「まぁ、嫌だとか言われても困るのですけどね。
この件に関しては拒否権はありませんから」
向かいに座るミルキの表情の底に暗いものが混じる。
最初にダミアンが目を合わせた時のようなゾクリとした感覚が肌を撫でた、こわくなって母上のドレスを手で握る。
気づいた母上が、肩に手を置き優しく大丈夫よと撫でてくれた。
「リリス様が魔族の王族への嫁入りすることは運命さだめられたことです。
約束を違えること、魔族は決して許しませんよ」
怪しく微笑む口元から、白く鋭く揃った歯がのぞく。
そこでダミアンはこのミルキという男は自分達とは全く違う種族であると気づいた。
これが魔族というものだと、粟立つ肌が伝えてくる。
その視線が心に恐怖を植え付ける。
人のフリをして笑っているなんて、なんておぞましいのだろう。
「では、次は恩恵についてお話しましょうか?」
切り替わるように、男の雰囲気が一変する。
何事も無かったかのように、ミルキは微笑みを浮かべた。
窓から差し込む眩しい光を薔薇の絵図を描いたレースのカーテンが吸収している。
明るく過ごしやすい部屋の中、ベットで赤子がすやすやと寝息をたてている。
それを大人達が囲って顔を見ていた。ダミアンもそれに混ざっている。
「この子が薔薇姫リリスよ」
ミルキにその姿を見せる。
「…リリス様、またお会いできましたね」
ダミアンはこの男が何かを悪さをしないように、じっと観察していた。
リリスに話しかけるその表情は、懐かしいような悲しいような感情が混ざっていた。
妹であるリリスとこの男ミルキが会うのは初めてのはずなのにとダミアンは不思議に思う。
ミルキが話しかけたからか、眠っていたリリスの瞼がそっと開いた。
血のように赤い瞳がミルキを見つめかえす。
目覚めの機嫌が良いようで、キャッキャと楽しそうに足と手を動かしている。
「…赤い瞳も確認いたしました。
今代も美しい瞳をお持ちですね。
リリス様、健やかにお過ごしください」
ミルキは顔に安心したような、穏やかな表情を浮かべた。
「では、オプスキュリテ侯爵。
リリス様の様子も確認できましたので、今後についてお話いたしましょう」
「よろしく頼む」
両親とミルキはリリスの部屋にあるソファに向かい合うように座った。
使用人たちが、紅茶をいれて机に置いていく。
焼き菓子の乗ったお皿も用意された。
ダミアンはお菓子をすぐにでも食べたかったが、こういう場合は話がすんでからでないとダメだと教えられていたので、我慢して座っていた。
向かいに座るミルキが口を開く。
「薔薇姫リリス様が魔族にとって特別な存在であることは今も伝わっておりますよね?」
「ええ、もちろんです。
オプスキュリテ侯爵家の限られた者達に脈々と伝わっております。
黒髪に赤い瞳の女児は、薔薇姫と呼びリリスの名ずけられる。
そして薔薇姫は魔族の王族のもとへと嫁ぐことが決められている。
そして、それは我が一族の繁栄をもたらすことであると言われております」
その説明をうけてミルキは安心した微笑みを返した。
「しっかりと受け継がれているようで、安心しました。
なにぶん周期が何百年単位ですので、その間に決まり事が反故になっていては、困ってしまうところでしたから」
「忘れてしまうことなど、ありませんよ。
遠く離れた魔族の皆様との交流で、我が一族の力は受け継がれているのですから。
こうして魔法王国ルーナで侯爵として名を残しているのも、全て魔族の方から与えられた恩恵があってこそ。
先々代、先代と経て伝わっております」
「恩恵ギフトのことも伝わっておりますね。
そちらについては、後ほどお話しましょう」
ミルキはお茶の入ったカップに口をつける。
一口飲んで喉を潤すとまた話を続けた。
「まずはリリス様についてです。
伝わっております通り、リリス様には魔王国アビスの王太子である、リオン殿下とレウ殿下の婚約者になっていただきます」
「…二人も婚約者が?
リリスは生まれたばかりで一人なのだが?」
困惑した表情で父上はミルキを見ている。
生まれたばかりなのに妹はもう婚約者が二人も決まるみたいだった。
ダミアンにはまだ難しくてよく分からないが、王子様と結婚できるなんて妹は幸せなのかもしれないとリリスの方を眺める。
ダミアンと同じくらいの女の子はみんな素敵な王子様が迎えに来るお姫様になりたいと言っていたのをよく聞いていた。
「不思議に思うのは分かりますが、リオン殿下とレウ殿下は双子でして、どちらか一人という訳にはいかないのです。
双子が生まれた際は、我国では平等に条件を分け合わなくてはならない決まりとなっております。
というのも魔族の双子はとても強大な力を持っていて互いに闘いなどされますと、国が荒れてしまいます。
とくに王族ともなりますとより強い力を発現させることでしょう」
「…そんなに危険な双子のところへ、あの子は行くのか?」
「…いいえ、危険などありません。
そうならないように、双子に与えられるものは平等になっております。
魔族の双子は仲が良いことが多いです」
それを聞いて、両親は少しだけほっとした顔をした。
「じゃあ、普通に結婚して幸せになれるという事か…。
薔薇姫とは魔族への生贄であるとも書物には書かれていたけれど、幸せになれるのならば安心よ。
魔族のもとへ行ってしまっても、それならば罪悪感はないのう」
母上は寂しそうに微笑みを浮かべた。
罪悪感を感じるなんて、何故なのだろう。
それに魔族への生贄とは?
妹は魔族の王子様と結婚できるのにとダミアンは不思議に思う。
「まぁ、嫌だとか言われても困るのですけどね。
この件に関しては拒否権はありませんから」
向かいに座るミルキの表情の底に暗いものが混じる。
最初にダミアンが目を合わせた時のようなゾクリとした感覚が肌を撫でた、こわくなって母上のドレスを手で握る。
気づいた母上が、肩に手を置き優しく大丈夫よと撫でてくれた。
「リリス様が魔族の王族への嫁入りすることは運命さだめられたことです。
約束を違えること、魔族は決して許しませんよ」
怪しく微笑む口元から、白く鋭く揃った歯がのぞく。
そこでダミアンはこのミルキという男は自分達とは全く違う種族であると気づいた。
これが魔族というものだと、粟立つ肌が伝えてくる。
その視線が心に恐怖を植え付ける。
人のフリをして笑っているなんて、なんておぞましいのだろう。
「では、次は恩恵についてお話しましょうか?」
切り替わるように、男の雰囲気が一変する。
何事も無かったかのように、ミルキは微笑みを浮かべた。
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