グリモワールの修復師

アオキメル

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2章 リリスと闇の侯爵家

56 体調

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「おはよう」

「おはようございます…」

 リリスが寝ているベットにメルヒがゆっくりと近づいてきた。
 白衣が歩調に合わせて揺れている。
 リリスはあわてて、あんまり毛布をかぶり直した。
 メルヒの顔を見るのが恥ずかしくて目を逸らしてしまう。
 変なことを考えてしまったせいだ。

「「「主様だ…」」」

 ぴょこんとカラス達がメルヒの頭や肩に飛び乗る。
 まだ眠たいのか、メルヒの上でうとうとと眠りはじめた。

「起こしてしまったかな?
 具合はどう?」

 メルヒは心配そうにリリスを覗き込む。

「起きてましたから、大丈夫です。
 今のところ元気ですよ。
 だるさもないし、変な眠気もありません」

 紫色の瞳と目が合う。
 意識してしまったせいで、顔が熱くなってきた。
 あまり見ないでほしい。

「顔が赤い気がするけれど、今度は熱でもでてきた?
 血色が戻ったのはいいことだけどねぇ」

 メルヒは安心したようで、微笑みを浮かべる。

「このまま起きなかったら、どうしようかと思った…」

 手が額にふれようとしたので、あわててリリスは背を向ける。
 そんなことされたら、より熱があがりそうな気がした。

「熱とかじゃないです…」

「そう?」

 触れようとした手が空振り、そのままポケットに手はしまわれた。
 怪しむようにメルヒはリリスを見つめる。

「元気ならいいけどねぇ。
 しかし、この反応…。
 もしかして、リリス。
 ここに寝かされてすぐのこと、覚えていたりする?」

 それにリリスは、不思議に思いメルヒに向き直る。
 目を逸らしたメルヒの頬が少しだけ赤い気がした。

「…なんのことです?」

 本当になんのことか分からなかったので、メルヒに聞き返す。

「そう、覚えてないならいいよ。
 今日すっきり目覚めてるリリスがいるということで、治療の成果は出たみたいだからねぇ」

 安堵と少しの寂しさを含んだ視線を受ける。

「…手当をしてくれたのですね。
 ご迷惑ばかりおかけして、すいません」

「いいんだよ。
 リリスは気にしなくても。
 元をたどれば、僕が悪いからねぇ。
 じゃあ、倒れる前に何があったか覚えてる?」

「それは、分かります。
 おぼろげですが…」

 リリスは先程、思い出したことを頭に浮かべる。

「狼の魔族に森の中で襲われたとカラス達から、僕は聞いているよ」

「…はい、森の中で草花を集めていたら、急にグレイが現れて。
 エメラルドが来てくれなかったらと思うとゾッとします。
 きっとあのまま、何処かへ連れていかれていたことでしょう」

 その言葉にメルヒは頭の上に乗っているエメラルドを優しく撫でる。

「リリスも君に感謝してるよ…」

「…カァ」

 心地よさそうにエメラルドは一声鳴いた。
 リリスもそれに言葉を添える。

「ありがとう…」

 エメラルドは、また夢の中に旅に出てしまったようで、すやすやと寝息をたてている。

「カラス達って、ずっと起きて私の傍にいてくれたのですか?」

 こんなに眠そうにしているカラス達をあんまり見ないので、心配になってきてしまった。

「そうだねぇ。
 ずっと起きてリリスの傍にいたと思うよ。
 魔族に気づかなかったって、みんな悔しそうにしてた。
 元気になるまでそばで見てるって聞かなくてねぇ…」

「心配かけてしまいましたね…」

 カラス達にはあとでたくさん、ありがとうを言おう。

「主様、どきどき」

「ボク達空気読んだ…」

「…ときめき」

 眠っているカラス達の口から言葉が流れる。
 一体、どんな夢を見ているのかしら。
 それをメルヒは渋い顔で聞いていた
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