グリモワールの修復師

アオキメル

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2章 リリスと闇の侯爵家

49 森の中でその一

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カラス達と共にリリスは庭へと向かう。
 寒くないように、赤いマントを羽織った。
 リリスは白いエプロンをつけて、手には籠を持っている。
 玄関扉を開けて外にでた、青い空に太陽の光が柔らかく辺りを照らしている。
 以前のような生命の危機を感じるような冷え込みは和らいでいた。
 しかしまだ肌寒さを感じる。

「リリス、こっちですわ」

「主様が欲しい植物はあっちの森で採れるよ」

「…足元に気を付けて」

「みんな、ありがとう」

 カラス達が元気にリリスをひっぱって案内してくれる。
 雪が無くなった屋敷の庭は、歩きやすく入りずらかった場所も歩けるようになっていた。
 いつも部屋の窓から眺める見覚えのある場所を通ると、いつの間にか花壇が出来ていた。
 花壇には、様々な植物が植えられている。
 まだ花は無く葉っぱだけだが、もう少し暖かくなれば綺麗な花を見ることが出来そうだ。
 丁寧に世話をされているように感じた。
 ここも妖精達が手入れをしてくれてるのかしら。
 カラス達が外に出て庭仕事をしているのを見たことが無い。

「この庭も妖精が?」

「そうですわ、屋敷の庭も妖精達が整えてくれます」

「畑もあるよ!」

「…薔薇が綺麗に咲く場所も」

 こんなに働き者の妖精達が屋敷に住んでいるというのに、私は未だ妖精というものに出会えていなかった。
 嫌われているのかしら?
 何かした覚えはないけれどと寂しい気持ちになる。
 下を見ると、足元に草冠のように編み込まれた植物があった。

「これは何かしら?」

「フェアリーリングですわ」

「リリス、フェアリーリングに気を付けてね」

「…危険」

「この植物になにかあるの?」

 私は触らないようにフェアリーリングというものを眺める。

「ピクシーという妖精達が月夜に踊った痕跡ですわ。
 輪っかの中に入ってしまうと、別のところに飛んでしまうのですわ」

「それは困ったことになるわね…。
 足元に気を付けて歩くわ」

 こういう痕跡を見つけると、妖精達が住んでいる気配を感じる。
 しかし、辺りを見てもそれらしい者は見当たらなかった。
 お友達になりたいのだけど、まだ難しそうだ。

「この辺りでもこのリストに載ってる植物採れるのかしら?」

 妖精を探しながら植物も採ろうと思いカラス達に聞いてみる。

「ここは妖精達が庭を綺麗にしてくれるから」

「主様が求める植物は森の中でしか採れないよ」

「…今日はフェアリーリングがあるから、散策には向かない」

「ここでは、頼まれたものは採れないのね…。
 危ないのなら仕方ないわ、森に向かいましょうか」

 カラス達と共に屋敷の敷地内にある森へ近づく。
 この辺りで植物は採れるみたいだ。
 カラス達に植物のリストを見せる。

「採るものけっこうありますわね」

「手分けして探そう」

「そうね、それがいいと思いますわ」

「リリスはこの辺りで探してもらって、ボク達はそれぞれ別れて探してみよう」

 ルビーとサファイアの言葉にエメラルドは静かに頷いた。
 慣れているカラス達に任せて、探すところを相談する。
 リリスは森の入口付近で植物を探すことになった。

「少し経ったら、またここに集合しますわ」

 カラス達とそれぞれ別れる。

「オオバコ、赤詰草、白詰草、トキワツユクサ、鼓草」

 私はリストを眺め唱えながら、森の小道を歩き始めた。
 振り返れば屋敷が見えるので安心だ。
 森は静かで、葉が揺れる音と鳥の鳴き声が聞こえる。
 今日は少し暖かいので気持ちが良かった。

「うーん、どんなところにある植物なのかしら」

 下を見ながら植物を求めて夢中で歩いていると、木がない場所に出た。
 草の絨毯に黄色い花が散りばめられた場所だ。
 見あげれば、緑の葉で丸くトリミングされた空があった。
 周囲を取り巻く木々の根元には野薔薇が蕾をつけている。

「素敵な場所。
 もうすこし暖かかったら、ここでピクニックというものをしてみたい…」

 綺麗なところだったので、魅入ってしまう。
 振り返っても屋敷が見えなくなってしまったので心配だが、この黄色い花はリストに載っていた気がする。
 群生しているので瓶が満たされるくらいは採れるだろう。

「たくさんの黄色い花。
 これが鼓草ね。
 このお花を詰めばよいのよね?
 葉っぱと茎も必要って書いてある」

 誰も居ないことは分かっているが、感情のまま言葉を紡ぐ。

「あら、白詰草と赤詰草もあるのね」

 この場所はどうやら、たくさん草花があるようだった。
 太陽の光がこんなに当たる場所だものね。
 リリスは丁寧に籠の中に草花を入れていく。

「外って、楽しい…」

 その光景を眺める影があった。
 影は少しずつリリスに近づく。
 草花を詰むことに、夢中になっているリリスは、見られているということに少しも気づかない。
 カサカサという足音はリリスの背後に迫っていた。

「…リリス」

 微かな言葉は、風に遊ばれた木の葉のざわめきで掻き消えて、リリスには届かない。
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