グリモワールの修復師

アオキメル

文字の大きさ
上 下
49 / 111
2章 リリスと闇の侯爵家

49 森の中でその一

しおりを挟む
カラス達と共にリリスは庭へと向かう。
 寒くないように、赤いマントを羽織った。
 リリスは白いエプロンをつけて、手には籠を持っている。
 玄関扉を開けて外にでた、青い空に太陽の光が柔らかく辺りを照らしている。
 以前のような生命の危機を感じるような冷え込みは和らいでいた。
 しかしまだ肌寒さを感じる。

「リリス、こっちですわ」

「主様が欲しい植物はあっちの森で採れるよ」

「…足元に気を付けて」

「みんな、ありがとう」

 カラス達が元気にリリスをひっぱって案内してくれる。
 雪が無くなった屋敷の庭は、歩きやすく入りずらかった場所も歩けるようになっていた。
 いつも部屋の窓から眺める見覚えのある場所を通ると、いつの間にか花壇が出来ていた。
 花壇には、様々な植物が植えられている。
 まだ花は無く葉っぱだけだが、もう少し暖かくなれば綺麗な花を見ることが出来そうだ。
 丁寧に世話をされているように感じた。
 ここも妖精達が手入れをしてくれてるのかしら。
 カラス達が外に出て庭仕事をしているのを見たことが無い。

「この庭も妖精が?」

「そうですわ、屋敷の庭も妖精達が整えてくれます」

「畑もあるよ!」

「…薔薇が綺麗に咲く場所も」

 こんなに働き者の妖精達が屋敷に住んでいるというのに、私は未だ妖精というものに出会えていなかった。
 嫌われているのかしら?
 何かした覚えはないけれどと寂しい気持ちになる。
 下を見ると、足元に草冠のように編み込まれた植物があった。

「これは何かしら?」

「フェアリーリングですわ」

「リリス、フェアリーリングに気を付けてね」

「…危険」

「この植物になにかあるの?」

 私は触らないようにフェアリーリングというものを眺める。

「ピクシーという妖精達が月夜に踊った痕跡ですわ。
 輪っかの中に入ってしまうと、別のところに飛んでしまうのですわ」

「それは困ったことになるわね…。
 足元に気を付けて歩くわ」

 こういう痕跡を見つけると、妖精達が住んでいる気配を感じる。
 しかし、辺りを見てもそれらしい者は見当たらなかった。
 お友達になりたいのだけど、まだ難しそうだ。

「この辺りでもこのリストに載ってる植物採れるのかしら?」

 妖精を探しながら植物も採ろうと思いカラス達に聞いてみる。

「ここは妖精達が庭を綺麗にしてくれるから」

「主様が求める植物は森の中でしか採れないよ」

「…今日はフェアリーリングがあるから、散策には向かない」

「ここでは、頼まれたものは採れないのね…。
 危ないのなら仕方ないわ、森に向かいましょうか」

 カラス達と共に屋敷の敷地内にある森へ近づく。
 この辺りで植物は採れるみたいだ。
 カラス達に植物のリストを見せる。

「採るものけっこうありますわね」

「手分けして探そう」

「そうね、それがいいと思いますわ」

「リリスはこの辺りで探してもらって、ボク達はそれぞれ別れて探してみよう」

 ルビーとサファイアの言葉にエメラルドは静かに頷いた。
 慣れているカラス達に任せて、探すところを相談する。
 リリスは森の入口付近で植物を探すことになった。

「少し経ったら、またここに集合しますわ」

 カラス達とそれぞれ別れる。

「オオバコ、赤詰草、白詰草、トキワツユクサ、鼓草」

 私はリストを眺め唱えながら、森の小道を歩き始めた。
 振り返れば屋敷が見えるので安心だ。
 森は静かで、葉が揺れる音と鳥の鳴き声が聞こえる。
 今日は少し暖かいので気持ちが良かった。

「うーん、どんなところにある植物なのかしら」

 下を見ながら植物を求めて夢中で歩いていると、木がない場所に出た。
 草の絨毯に黄色い花が散りばめられた場所だ。
 見あげれば、緑の葉で丸くトリミングされた空があった。
 周囲を取り巻く木々の根元には野薔薇が蕾をつけている。

「素敵な場所。
 もうすこし暖かかったら、ここでピクニックというものをしてみたい…」

 綺麗なところだったので、魅入ってしまう。
 振り返っても屋敷が見えなくなってしまったので心配だが、この黄色い花はリストに載っていた気がする。
 群生しているので瓶が満たされるくらいは採れるだろう。

「たくさんの黄色い花。
 これが鼓草ね。
 このお花を詰めばよいのよね?
 葉っぱと茎も必要って書いてある」

 誰も居ないことは分かっているが、感情のまま言葉を紡ぐ。

「あら、白詰草と赤詰草もあるのね」

 この場所はどうやら、たくさん草花があるようだった。
 太陽の光がこんなに当たる場所だものね。
 リリスは丁寧に籠の中に草花を入れていく。

「外って、楽しい…」

 その光景を眺める影があった。
 影は少しずつリリスに近づく。
 草花を詰むことに、夢中になっているリリスは、見られているということに少しも気づかない。
 カサカサという足音はリリスの背後に迫っていた。

「…リリス」

 微かな言葉は、風に遊ばれた木の葉のざわめきで掻き消えて、リリスには届かない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

処理中です...