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2章 リリスと闇の侯爵家
44 一族会議
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薔薇姫リリスの行方が分からなくなってから一ヶ月が過ぎていた。
なおも行方は掴めない。
兄であるダミアンが探してると聞けば、すぐにでもこっそり出てきてくれると思ったのだが。
なかなかそうもいかないようだ。
「薔薇姫を早く見つけなければ…」
この家の長である私の父が隣でこの一ヶ月繰り返し同じことを呟く。
もう聞き飽きた言葉だ。
父の向こうを観れば、派手なドレスと装飾を身に付けた若い美女が深刻そうに父を見ている。
「妾は悲しい…」
この女は私の母親だ。
見た目は若く見えるが、四人の子を産んでいる。
本来なら父親と同じくらいに老けていはずだか、薔薇姫リリスの産みの親ということで、この両親はすでに魔族から恩恵を与えられていた。
母親は不老の力を父親は薔薇姫が生活に困らぬよう富が与えられている。
オプスキュリテ家は黒い髪に赤い瞳を持つ薔薇姫を代々魔族の王族の元へ嫁入りさせることで力を得ている一族だ。
本来は精霊や妖精に祝福されることで魔法を使うことができるが、この一族は長い間、魔族と関係を持つ事でその手の生き物に嫌われている。
私も生まれて一度もその手の生き物に出会ったことが無い。
この地は魔族が踏み入れる土地として清廉な生き物からは忌避されているのだろう。
薔薇姫を差し出すという契約で我々一族は祝福よりも強大な魔力を得ている。
その恩恵が、当代によって失われようとしているのだ。
焦らないはずがない。
緊急措置として、限られた者にだけ語られていた薔薇姫の存在は幼い者を除き、一族全てに語られた。
薔薇姫が逃げ出したことなど、今までなかったものだから、それはもう父も母も酷い有様だった。
魔族の王子自ら薔薇姫を迎えにきていたことも影響しているだろう。
今は一族総出で集まり円卓を囲い薔薇姫捜索の会議が行われていた。
気づかなかったが、どうやらエリカもいるようだ。
十七ならば年齢的に大人と判断されたわけか、私はエリカが向けてくる視線の不快感で眉を寄せた。
社交シーズンや当主主催のパーティでもめったに見ることの無い親戚まで揃っている。
私はその光景がなんとも可笑しくて、深刻なこの場で笑いだしそうだった。
今まで何も知らずにのうのうと恩恵だけ受け取って生きてきた連中に何が出来ると言うのだろう。
おまえ達はリリスの存在も知らなかったのに。
「近隣の村や街などには、令嬢が誘拐されたとして既に伝わっております。
見つけた者には報奨金もつけているので、情報は集まるのですが状況は芳しくありません」
「似た特徴の少女たちが、連れてこられておりますが、いずれも偽物でした。
金に目が眩んだ者達が特徴を真似て記憶喪失のふりまでさせて、送り込んで来ることもありました」
「なんと愚かな。
そのような詐欺を行う者は罪人として、裁きを与えよ」
「かしこまりました、オプスキュリテ侯爵」
親戚の男たちが進捗を次々と報告していくが、気になることは何もなかった。
誰一人としてリリスに近づけた者はいないようだ。
その事にまたしても笑ってしまいそうだった。
リリスのことをこの中で一番知っているのは私なのだから。
そう簡単に見つけてもらっては困る。
リリスを捕まえるのは私なのだから。
哀れで愚かな者と思いながら親戚を眺めていると父が立ち上がり命を告げていた。
「それぞれ街へ出向き、薔薇姫を捜索するように!
ダミアン、お前も頼んだぞ」
「もちろんです、父上」
私は聞き分けの良い者の笑みを浮かべる。
その声に会議は解散した。
父上に言われずとも、リリスは私が捕まえて私だけの物にする予定だ。
そんなダミアンの姿をよく似た色彩を持つ少女エリカは熱心に見つめた。
「お兄様…」
静かに口にされた言葉は彼には届かないが、少女の胸には固い決意として刻まれた。
なおも行方は掴めない。
兄であるダミアンが探してると聞けば、すぐにでもこっそり出てきてくれると思ったのだが。
なかなかそうもいかないようだ。
「薔薇姫を早く見つけなければ…」
この家の長である私の父が隣でこの一ヶ月繰り返し同じことを呟く。
もう聞き飽きた言葉だ。
父の向こうを観れば、派手なドレスと装飾を身に付けた若い美女が深刻そうに父を見ている。
「妾は悲しい…」
この女は私の母親だ。
見た目は若く見えるが、四人の子を産んでいる。
本来なら父親と同じくらいに老けていはずだか、薔薇姫リリスの産みの親ということで、この両親はすでに魔族から恩恵を与えられていた。
母親は不老の力を父親は薔薇姫が生活に困らぬよう富が与えられている。
オプスキュリテ家は黒い髪に赤い瞳を持つ薔薇姫を代々魔族の王族の元へ嫁入りさせることで力を得ている一族だ。
本来は精霊や妖精に祝福されることで魔法を使うことができるが、この一族は長い間、魔族と関係を持つ事でその手の生き物に嫌われている。
私も生まれて一度もその手の生き物に出会ったことが無い。
この地は魔族が踏み入れる土地として清廉な生き物からは忌避されているのだろう。
薔薇姫を差し出すという契約で我々一族は祝福よりも強大な魔力を得ている。
その恩恵が、当代によって失われようとしているのだ。
焦らないはずがない。
緊急措置として、限られた者にだけ語られていた薔薇姫の存在は幼い者を除き、一族全てに語られた。
薔薇姫が逃げ出したことなど、今までなかったものだから、それはもう父も母も酷い有様だった。
魔族の王子自ら薔薇姫を迎えにきていたことも影響しているだろう。
今は一族総出で集まり円卓を囲い薔薇姫捜索の会議が行われていた。
気づかなかったが、どうやらエリカもいるようだ。
十七ならば年齢的に大人と判断されたわけか、私はエリカが向けてくる視線の不快感で眉を寄せた。
社交シーズンや当主主催のパーティでもめったに見ることの無い親戚まで揃っている。
私はその光景がなんとも可笑しくて、深刻なこの場で笑いだしそうだった。
今まで何も知らずにのうのうと恩恵だけ受け取って生きてきた連中に何が出来ると言うのだろう。
おまえ達はリリスの存在も知らなかったのに。
「近隣の村や街などには、令嬢が誘拐されたとして既に伝わっております。
見つけた者には報奨金もつけているので、情報は集まるのですが状況は芳しくありません」
「似た特徴の少女たちが、連れてこられておりますが、いずれも偽物でした。
金に目が眩んだ者達が特徴を真似て記憶喪失のふりまでさせて、送り込んで来ることもありました」
「なんと愚かな。
そのような詐欺を行う者は罪人として、裁きを与えよ」
「かしこまりました、オプスキュリテ侯爵」
親戚の男たちが進捗を次々と報告していくが、気になることは何もなかった。
誰一人としてリリスに近づけた者はいないようだ。
その事にまたしても笑ってしまいそうだった。
リリスのことをこの中で一番知っているのは私なのだから。
そう簡単に見つけてもらっては困る。
リリスを捕まえるのは私なのだから。
哀れで愚かな者と思いながら親戚を眺めていると父が立ち上がり命を告げていた。
「それぞれ街へ出向き、薔薇姫を捜索するように!
ダミアン、お前も頼んだぞ」
「もちろんです、父上」
私は聞き分けの良い者の笑みを浮かべる。
その声に会議は解散した。
父上に言われずとも、リリスは私が捕まえて私だけの物にする予定だ。
そんなダミアンの姿をよく似た色彩を持つ少女エリカは熱心に見つめた。
「お兄様…」
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