グリモワールの修復師

アオキメル

文字の大きさ
上 下
43 / 111
2章 リリスと闇の侯爵家

43 魔族の女

しおりを挟む
ルーナ王国の隣国に接した辺境の地に、オプスキュリテ侯爵家の屋敷がある。
女はそこを目指すため、深く生い茂る杉の森を歩いていた。
杉は粉砂糖をふりかけたように白い化粧をしている。
褐色の肌に赤紫の瞳、艶やかな白ぽい灰色の髪からは先のとがった耳がでている。

「なんで、あたしがこんなとこに来なきゃならないかしらぁ、さむっ!」

寒さにぼやきながらも女は歩く。
女の服は薄く紫色のドレスだ。
豊満な胸が服におさまらず揺れている。

「殿下達がすぐに帰ってくれば、様子を見てこいなんて言われなかったのに…」

不満そうにしながらも、歩みは早く進んでいく。
森を抜けた先に、オプスキュリテ家の屋敷と薄く揺らめく塔が見えた。
視覚を狂わす術式を感じたが、この家の者が造った術式など、古くから親交のある魔族には無いも同然だ。

「まったく、花嫁を迎えに行くだけで、どんだけ時間かかってるのかしら?
せっかくだし、あたしもここで遊ぶのもいいわぁね」

赤紫色瞳が怪しく細まる。
腰に巻いている、巾着袋にそっとふれた。
じゃらじゃらと複数の硬い何かがぶつかる音が、静かな空気を震わせる。

怪しげな微笑みを浮かべながら、門番に身分を告げ、女はオプスキュリテ家の正門をくぐった…。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

朝がくる。

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

今更、好きといわれても……

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:937pt お気に入り:4,042

殿下、私たちはもう終わったんですよ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:404pt お気に入り:6,776

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

BL / 完結 24h.ポイント:1,308pt お気に入り:6,637

黒鯉

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...