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1章 リリスのグリモワールの修復師
42 グリモワールの修復師
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「ステラ!
リリスをこの屋敷で保護すると決めていたのなら事前に連絡すべきだと思うよ。
リリスは夜中にここに辿り着き、力尽きて雪の中を埋まっていたのだからねぇ。
カラスたちが気づかなかったらどうなっていたことか!」
「カラスちゃん達が優秀なの分かってて、一人で行かせたのよ!
私も手が離せなかったの!
準備はしていたけど、あの執事にいきなり連れ出せってお願いされたのよ。
途中で熊みたいな人さらいに襲われたりもしたわ。
結果、リリスは無事で問題なかったでしょう!」
フルールとメルヒが私の事で言い合っている。
なんだか気まずい。
それでも、親しげな口論を見ていると兄弟なんだなと思えてきた。
周りにはその光景を何度も見てきたのか、三つ子たちもきゃっきゃと笑いながら見守っている。
「ステラが来るといつも面白いのですわ」
「主様がいつもよりよく喋るー」
「…面白い」
私は二人をどうしようかと、ひやひやしているのに三つ子のカラスは笑うばかりだ。
「問題大ありだよ!
まさか、女の子が猛吹雪のなか夜中にくると思わないからねぇ。
おかげで、工房に置きっぱなしにしていた封印の魔術書の中身がリリスを操って、逃げ出して花嫁の印を刻んで出ていったよ」
「それ、自分のミスじゃない!
なんで、そんなもの工房に置きっぱなしにしてるのよ。
書庫で厳重に保管すべきものでしょう!
完全に人災じゃない。
ちゃんとその魔物捕まえたんでしょうね?」
呆れたようにフルールはメルヒを見る。
「封印の魔術書に封印されていたものは魔物ではなく魔族だったよ!
おかげで、何も出来なかったし花嫁の印も解除できてない」
「はぁー、なにそれ!
ここが安全だと思って連れてきたのに。
嘘でしょう!?
楽しそうにしてるから穏やかに過ごしてるものと思ってたわ。
ねぇ、ちょっとリリスその印見せてちょうだい」
フルールが心配そうにこちらに駆け寄ってきた。
しかし、こんな大勢のところで見せられるような場所ではないので私は後ずさる。
男の子だと思うと少し意識してしまう。
「今はなんともないわ、安心して。
印もあれから浮かんでこないし…。
きっと大丈夫よ」
「そうなの?
でも油断は禁物よ。
心配だから、あとでちゃんと私にも見せてね。
魔族から逃げ出してきたのに、魔族に花嫁の印刻まれてるなんて…。
なんということなのかしら」
唖然としながら、上から下まで眺める。
それは私もおかしいとは思っているのよ。
「メルヒにも同じこと言われたわ」
力なく私は答える。
「ここは私の出番ね!
その花嫁の刻印消してあ・げ・る」
「ステラ、僕でも解けなかった刻印だよ…。
難しいと思うけどねぇ」
「私なら出来るかもしれないわ!」
「そうだねぇ、僕とステラの二人ならどうにか出来るかもしれない」
「それだわ!」
メルヒとフルールが私に手を差し伸べてくれる。
右にメルヒ、左にフルール。
周りには三つ子のカラスたちも寄ってきてくれて、足元には猫ドラゴンのココがいる。
ここは楽園かしら?
一人ぼっちでいた塔の中とはまるっきり別世界。
私は二人の手を取った。
「みんな、ありがとう」
暖かい気持ちが溢れてくる。
この場所なら、私は幸せになれる気がする。
「あら、リリス。
良い顔になったわね。
私嬉しいわ。
その笑顔がみたかったのよ」
「そうかい?
リリスはいつでもここに来て楽しそうにしていたよ」
「ふふ、変なことになったみたいだけど、ここに来て良かったみたいね!」
「にゃ!」
ココも短くフルールに同意するように鳴いた。
私はこんなにも優しい人達に囲まれている。
そう思うと安心できた。
「あのね。
私、気づいたの。
ここに来てやりたいことがわかったのよ。
目指したいって思えるものを見つけたの」
「「やりたいこと?」」
メルヒとフルールの声がかぶる。
三つ子もココも静かに私の言葉を待っている。
「私、メルヒみたいな”グリモワールの修復師”になりたいわ」
ここに来た時は、置いてもらうのが申し訳なくて何か働かなきゃって思っていたけど。
メルヒの本を修復する姿とアメリアの嬉しそうな姿を見て、思い出すらも蘇らせることが出来る技術に憧れた。
「リリスったらメルヒの弟子になりたくなったの?」
「僕の弟子ねぇ。
そもそも助手として雇おうとしていたのだけどねぇ」
「あら、そうなの?
いつも一人で修復してたメルヒが誰かと一緒にやるなんて、それはもう弟子みたいなものじゃないの。
『僕の神聖な工房』とか言って、人をなかなかいれないしね。
これで私も安心できそう。
メルヒお兄ちゃん、一人だと工房にこもりっきりになるのだもの。
リリスがいれば、時間も気にするわよね。
リリスもメルヒお兄ちゃんのことよろしくね」
嬉しそうにフルールは言う。
メルヒを見つめる瞳は労るような心配そうな色をしていた。
「グリモワールの修復師を名乗っているのはメルヒしか居ないのだから、リリスは唯一の弟子になるわ。
リリスがここにいるのなら、私はたくさん遊びに来るわね」
にっこりといつもの花のような笑顔が私に向けられる。
私は、メルヒしかこの職業の人がいないことに驚いたが、なりたいものであることには変わらなかった。
心の中で灯った炎はそう簡単には揺るがない。
「これから修復についてたくさん勉強するわ!
これからもよろしくお願いします、お師匠様」
私は師匠となるメルヒに深く頭を下げる。
そんな私にメルヒは困ったように後頭部をかきながらぼやく。
「師匠とか呼ばれたくないな…」
「じゃあ、先生ですね!」
頭にポフッと手が置かれる。
「メルヒでいいからねぇ」
若干鬱陶しそうにこちらを見る瞳はとても優しげだった。
こういう風にメルヒに見られたのは初めてだ。
自然と口角があがってしまう。
自然と話せる関係でありたい。
何も持たない束縛された日々からフルールが私を外の世界へ連れ出してくれた。
それは私の心に立ち込める黒い霧を風で吹き飛ばすような春風だった。
私の境遇とは無関係なメルヒ。
私を助ける義理もないはずの彼だか優しく居場所を与えてくれた。
その優しさにささえられた。
今ここに、私を見捨てまいとしてくれる人がいるなら私はここで頑張れる。
穏やかな日々がいつまで続くか分からないけれど、今しばらくはこんな晴れやかな日々を過ごせればいいと思う。
一人前のグリモワールの修復師を目指して…
リリスをこの屋敷で保護すると決めていたのなら事前に連絡すべきだと思うよ。
リリスは夜中にここに辿り着き、力尽きて雪の中を埋まっていたのだからねぇ。
カラスたちが気づかなかったらどうなっていたことか!」
「カラスちゃん達が優秀なの分かってて、一人で行かせたのよ!
私も手が離せなかったの!
準備はしていたけど、あの執事にいきなり連れ出せってお願いされたのよ。
途中で熊みたいな人さらいに襲われたりもしたわ。
結果、リリスは無事で問題なかったでしょう!」
フルールとメルヒが私の事で言い合っている。
なんだか気まずい。
それでも、親しげな口論を見ていると兄弟なんだなと思えてきた。
周りにはその光景を何度も見てきたのか、三つ子たちもきゃっきゃと笑いながら見守っている。
「ステラが来るといつも面白いのですわ」
「主様がいつもよりよく喋るー」
「…面白い」
私は二人をどうしようかと、ひやひやしているのに三つ子のカラスは笑うばかりだ。
「問題大ありだよ!
まさか、女の子が猛吹雪のなか夜中にくると思わないからねぇ。
おかげで、工房に置きっぱなしにしていた封印の魔術書の中身がリリスを操って、逃げ出して花嫁の印を刻んで出ていったよ」
「それ、自分のミスじゃない!
なんで、そんなもの工房に置きっぱなしにしてるのよ。
書庫で厳重に保管すべきものでしょう!
完全に人災じゃない。
ちゃんとその魔物捕まえたんでしょうね?」
呆れたようにフルールはメルヒを見る。
「封印の魔術書に封印されていたものは魔物ではなく魔族だったよ!
おかげで、何も出来なかったし花嫁の印も解除できてない」
「はぁー、なにそれ!
ここが安全だと思って連れてきたのに。
嘘でしょう!?
楽しそうにしてるから穏やかに過ごしてるものと思ってたわ。
ねぇ、ちょっとリリスその印見せてちょうだい」
フルールが心配そうにこちらに駆け寄ってきた。
しかし、こんな大勢のところで見せられるような場所ではないので私は後ずさる。
男の子だと思うと少し意識してしまう。
「今はなんともないわ、安心して。
印もあれから浮かんでこないし…。
きっと大丈夫よ」
「そうなの?
でも油断は禁物よ。
心配だから、あとでちゃんと私にも見せてね。
魔族から逃げ出してきたのに、魔族に花嫁の印刻まれてるなんて…。
なんということなのかしら」
唖然としながら、上から下まで眺める。
それは私もおかしいとは思っているのよ。
「メルヒにも同じこと言われたわ」
力なく私は答える。
「ここは私の出番ね!
その花嫁の刻印消してあ・げ・る」
「ステラ、僕でも解けなかった刻印だよ…。
難しいと思うけどねぇ」
「私なら出来るかもしれないわ!」
「そうだねぇ、僕とステラの二人ならどうにか出来るかもしれない」
「それだわ!」
メルヒとフルールが私に手を差し伸べてくれる。
右にメルヒ、左にフルール。
周りには三つ子のカラスたちも寄ってきてくれて、足元には猫ドラゴンのココがいる。
ここは楽園かしら?
一人ぼっちでいた塔の中とはまるっきり別世界。
私は二人の手を取った。
「みんな、ありがとう」
暖かい気持ちが溢れてくる。
この場所なら、私は幸せになれる気がする。
「あら、リリス。
良い顔になったわね。
私嬉しいわ。
その笑顔がみたかったのよ」
「そうかい?
リリスはいつでもここに来て楽しそうにしていたよ」
「ふふ、変なことになったみたいだけど、ここに来て良かったみたいね!」
「にゃ!」
ココも短くフルールに同意するように鳴いた。
私はこんなにも優しい人達に囲まれている。
そう思うと安心できた。
「あのね。
私、気づいたの。
ここに来てやりたいことがわかったのよ。
目指したいって思えるものを見つけたの」
「「やりたいこと?」」
メルヒとフルールの声がかぶる。
三つ子もココも静かに私の言葉を待っている。
「私、メルヒみたいな”グリモワールの修復師”になりたいわ」
ここに来た時は、置いてもらうのが申し訳なくて何か働かなきゃって思っていたけど。
メルヒの本を修復する姿とアメリアの嬉しそうな姿を見て、思い出すらも蘇らせることが出来る技術に憧れた。
「リリスったらメルヒの弟子になりたくなったの?」
「僕の弟子ねぇ。
そもそも助手として雇おうとしていたのだけどねぇ」
「あら、そうなの?
いつも一人で修復してたメルヒが誰かと一緒にやるなんて、それはもう弟子みたいなものじゃないの。
『僕の神聖な工房』とか言って、人をなかなかいれないしね。
これで私も安心できそう。
メルヒお兄ちゃん、一人だと工房にこもりっきりになるのだもの。
リリスがいれば、時間も気にするわよね。
リリスもメルヒお兄ちゃんのことよろしくね」
嬉しそうにフルールは言う。
メルヒを見つめる瞳は労るような心配そうな色をしていた。
「グリモワールの修復師を名乗っているのはメルヒしか居ないのだから、リリスは唯一の弟子になるわ。
リリスがここにいるのなら、私はたくさん遊びに来るわね」
にっこりといつもの花のような笑顔が私に向けられる。
私は、メルヒしかこの職業の人がいないことに驚いたが、なりたいものであることには変わらなかった。
心の中で灯った炎はそう簡単には揺るがない。
「これから修復についてたくさん勉強するわ!
これからもよろしくお願いします、お師匠様」
私は師匠となるメルヒに深く頭を下げる。
そんな私にメルヒは困ったように後頭部をかきながらぼやく。
「師匠とか呼ばれたくないな…」
「じゃあ、先生ですね!」
頭にポフッと手が置かれる。
「メルヒでいいからねぇ」
若干鬱陶しそうにこちらを見る瞳はとても優しげだった。
こういう風にメルヒに見られたのは初めてだ。
自然と口角があがってしまう。
自然と話せる関係でありたい。
何も持たない束縛された日々からフルールが私を外の世界へ連れ出してくれた。
それは私の心に立ち込める黒い霧を風で吹き飛ばすような春風だった。
私の境遇とは無関係なメルヒ。
私を助ける義理もないはずの彼だか優しく居場所を与えてくれた。
その優しさにささえられた。
今ここに、私を見捨てまいとしてくれる人がいるなら私はここで頑張れる。
穏やかな日々がいつまで続くか分からないけれど、今しばらくはこんな晴れやかな日々を過ごせればいいと思う。
一人前のグリモワールの修復師を目指して…
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