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1章 リリスのグリモワールの修復師
31 夜空の下
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空を見ると夕刻になっていた。
長いこと店にいたようだ。
私は外に出たのでフードを深くかぶる。
「リリス、疲れてない?」
「そうですね、少し」
「もう一件、素材を買いに行きたかったけど。
そっちはまた今度にしようかな」
メルヒも少し疲れているみたいだった。
「最後にそこの高台にある公園に寄ってから帰ろうか、椅子があるからそこで休憩しよう」
メルヒが言う公園は少し階段を登ったところにある公園だ。
そこからだとこのフォルセの街が綺麗に眺められそうだった。
「そうですね。
景色も見れてよさそうです」
「冬は夜景が綺麗らしいから、一緒に見てから帰ろう」
「それは楽しみです」
メルヒと一緒に公園へ至る階段をのぼる。
のぼっているうちに日がゆっくりと沈んでいった。
気温も下がっていってるようで寒い。
吐息も白くなっている。
到着する頃には辺りは暗くなっていた。
街路樹につけられていた星の飾りに順番に光が灯る。
「あっ…」
柔らかい星の光がゆっくりと点滅し瞬いていた。
「このお星様は夜になるとこうなるのですね。
きれい…」
見たことの無い綺麗な景色にうっとりする。
「まだ、ただの街頭なのにそんなに喜ぶの?
他の街にもあるよ、この星灯は…。
ほら、遠くに行かないでそこのベンチに座って」
星の光にはしゃいでしまったからか、メルヒと離れてしまっていたようだ。
後ろから声が聞こえて振り返る。
「そうなんですか?
こんなに素敵な街頭が他の街にもあるのですね」
「…違う街も今度見に行こうか」
メルヒは一瞬困ったように眉を寄せてから、こちらを見て微笑んだ。
メルヒのいる場所まで、私は近づいていく。
二人で一緒に公園にあるベンチに座った。
そこでの景色に私はまた驚く。
「綺麗…」
ポツリと唇からため息がもれる。
ミルキが小さな頃にくれた万華鏡と呼ばれる玩具の世界が眼下に広がっていた。
けれどこの世界は万華鏡のように小さなものじゃない。
どこまでも広がる光が果ての闇まで照らしているようだった。
たくさんの光が集まるとこんなにも美しいものになるのね。
「万華鏡みたい」
私が知っている光とは、静かな夜の中から見える屋敷の灯りだけだった。
その灯りに手を伸ばし自分はそこへ行けないことを嘆いていた。
私の知り得る世界とはなんと小さなものだろうか。
幾千の光を瞳に写しその事に震えた。
フードを深く被り下を向く。
苦い味が口の中に広がった。
この感情は一体なんだというのだろう。
心の中でごとりと何かが落ちた嫌な感触がした。
手を心臓に当てて自分を落ち着かせる。
「ケホッ」
私はむせて咳込んだ。
視界に知らない景色が夜景に重なりながら浮かぶ。
淡く光る紫の花が視界いっぱいに広がり
ふわりと風にのって揺れている。
そこに黒髪の男が現れ、私の手を取り跪き手の甲にそっと口付けをした。
「リリス?
大丈夫かい?」
「…あっ」
「さっきから名前呼んでるんだけど…」
ぼんやりしている私にメルヒは話しかけていた。
さっきの景色はいったい何かしら。
夢から覚めたみたいに眼下には元の景色が広がっている。
「寒いし、体調悪くなっちゃった?」
心配そうに背中をさすってくれる。
「いえ、大丈夫です。
見たことないくらい綺麗な景色だったから、びっくりしちゃったみたいで」
「そうなの?」
キョトンとした表情でメルヒはこちらを見る。
「この場所、気に入ってくれたんだねぇ」
ふわりのメルヒが微笑んだ。
「でも、もう寒いから早めにここでの用事を済ませて帰ろうかな」
そう言ってメルヒは服のポケットに手を入れて何かを探している。
「用事ですか?」
まだ何かあったのだろうか、私は首をかしげる。
「リリス。
目を閉じてから手を出して」
そう言われたので私は目を閉じた。
何をするつもりだろうか。
おそるおそる両手をだす。
手に冷たい何かが乗せられた感触がした。
「目を開けていいよ」
メルヒの言葉に目を開けるとブローチが私の手に乗せられていた。
「これは…」
ブローチを手に持ち顔に近づける。
パールのような光沢のある乳白色の三日月にメルヒの持つ瞳とよく似たアメジストが埋め込まれたデザインのブローチだった。
「リリスにプレゼント。
せっかくお出かけしたから、何かと思ってねぇ
道具屋で席を外した時に選んできたんだ。
一緒に見ようと思ったけど時間なさそうだったからねぇ」
「いいんですか?こんなに素敵なブローチ。
修復道具も買ってもらったのに…」
私はこのブローチがすごく気に入ったが申し訳なくなる。
「いいだよ、僕があげたかったんだから」
ブローチとメルヒの顔を並べて眺める。
「同じ色ですね」
私の言葉にメルヒが後ろを向いてしまった。
あんまり言わない方が良かったのかもしれない。
「その色には理由があるんだよ。
このブローチは屋敷への鍵としても使えるから無くさないようにねぇ」
「鍵ですか?」
思えば、屋敷にある扉にはメルヒの瞳とよく似た色のアメジストがつけられていた。
同じものと言うことだろうか。
「屋敷の扉と同じ石…」
「そうだよ、よく覚えてるねぇ。
そのアメジストは僕の魔力を込めた鍵になってるんだ。
だから同じ色なんだよ」
そう言って、後ろを向いていたメルヒがこちらに近ずき私のフードを取る。
だんだん顔が近づいてきて耳元でこう囁いた。
「他意もあるかもしれないけどねぇ」
私の手からブローチを手に取りマントにつけてくれる。
「わぁ、ありがとうございます」
言われた言葉に遅れて顔が熱くなってくる。
つけてくれたブローチを手で包み込んでじんわりと嬉しさを噛みしめた。
塔を出てから楽しくて嬉しいことばかりで少し怖くなってきた。
長いこと店にいたようだ。
私は外に出たのでフードを深くかぶる。
「リリス、疲れてない?」
「そうですね、少し」
「もう一件、素材を買いに行きたかったけど。
そっちはまた今度にしようかな」
メルヒも少し疲れているみたいだった。
「最後にそこの高台にある公園に寄ってから帰ろうか、椅子があるからそこで休憩しよう」
メルヒが言う公園は少し階段を登ったところにある公園だ。
そこからだとこのフォルセの街が綺麗に眺められそうだった。
「そうですね。
景色も見れてよさそうです」
「冬は夜景が綺麗らしいから、一緒に見てから帰ろう」
「それは楽しみです」
メルヒと一緒に公園へ至る階段をのぼる。
のぼっているうちに日がゆっくりと沈んでいった。
気温も下がっていってるようで寒い。
吐息も白くなっている。
到着する頃には辺りは暗くなっていた。
街路樹につけられていた星の飾りに順番に光が灯る。
「あっ…」
柔らかい星の光がゆっくりと点滅し瞬いていた。
「このお星様は夜になるとこうなるのですね。
きれい…」
見たことの無い綺麗な景色にうっとりする。
「まだ、ただの街頭なのにそんなに喜ぶの?
他の街にもあるよ、この星灯は…。
ほら、遠くに行かないでそこのベンチに座って」
星の光にはしゃいでしまったからか、メルヒと離れてしまっていたようだ。
後ろから声が聞こえて振り返る。
「そうなんですか?
こんなに素敵な街頭が他の街にもあるのですね」
「…違う街も今度見に行こうか」
メルヒは一瞬困ったように眉を寄せてから、こちらを見て微笑んだ。
メルヒのいる場所まで、私は近づいていく。
二人で一緒に公園にあるベンチに座った。
そこでの景色に私はまた驚く。
「綺麗…」
ポツリと唇からため息がもれる。
ミルキが小さな頃にくれた万華鏡と呼ばれる玩具の世界が眼下に広がっていた。
けれどこの世界は万華鏡のように小さなものじゃない。
どこまでも広がる光が果ての闇まで照らしているようだった。
たくさんの光が集まるとこんなにも美しいものになるのね。
「万華鏡みたい」
私が知っている光とは、静かな夜の中から見える屋敷の灯りだけだった。
その灯りに手を伸ばし自分はそこへ行けないことを嘆いていた。
私の知り得る世界とはなんと小さなものだろうか。
幾千の光を瞳に写しその事に震えた。
フードを深く被り下を向く。
苦い味が口の中に広がった。
この感情は一体なんだというのだろう。
心の中でごとりと何かが落ちた嫌な感触がした。
手を心臓に当てて自分を落ち着かせる。
「ケホッ」
私はむせて咳込んだ。
視界に知らない景色が夜景に重なりながら浮かぶ。
淡く光る紫の花が視界いっぱいに広がり
ふわりと風にのって揺れている。
そこに黒髪の男が現れ、私の手を取り跪き手の甲にそっと口付けをした。
「リリス?
大丈夫かい?」
「…あっ」
「さっきから名前呼んでるんだけど…」
ぼんやりしている私にメルヒは話しかけていた。
さっきの景色はいったい何かしら。
夢から覚めたみたいに眼下には元の景色が広がっている。
「寒いし、体調悪くなっちゃった?」
心配そうに背中をさすってくれる。
「いえ、大丈夫です。
見たことないくらい綺麗な景色だったから、びっくりしちゃったみたいで」
「そうなの?」
キョトンとした表情でメルヒはこちらを見る。
「この場所、気に入ってくれたんだねぇ」
ふわりのメルヒが微笑んだ。
「でも、もう寒いから早めにここでの用事を済ませて帰ろうかな」
そう言ってメルヒは服のポケットに手を入れて何かを探している。
「用事ですか?」
まだ何かあったのだろうか、私は首をかしげる。
「リリス。
目を閉じてから手を出して」
そう言われたので私は目を閉じた。
何をするつもりだろうか。
おそるおそる両手をだす。
手に冷たい何かが乗せられた感触がした。
「目を開けていいよ」
メルヒの言葉に目を開けるとブローチが私の手に乗せられていた。
「これは…」
ブローチを手に持ち顔に近づける。
パールのような光沢のある乳白色の三日月にメルヒの持つ瞳とよく似たアメジストが埋め込まれたデザインのブローチだった。
「リリスにプレゼント。
せっかくお出かけしたから、何かと思ってねぇ
道具屋で席を外した時に選んできたんだ。
一緒に見ようと思ったけど時間なさそうだったからねぇ」
「いいんですか?こんなに素敵なブローチ。
修復道具も買ってもらったのに…」
私はこのブローチがすごく気に入ったが申し訳なくなる。
「いいだよ、僕があげたかったんだから」
ブローチとメルヒの顔を並べて眺める。
「同じ色ですね」
私の言葉にメルヒが後ろを向いてしまった。
あんまり言わない方が良かったのかもしれない。
「その色には理由があるんだよ。
このブローチは屋敷への鍵としても使えるから無くさないようにねぇ」
「鍵ですか?」
思えば、屋敷にある扉にはメルヒの瞳とよく似た色のアメジストがつけられていた。
同じものと言うことだろうか。
「屋敷の扉と同じ石…」
「そうだよ、よく覚えてるねぇ。
そのアメジストは僕の魔力を込めた鍵になってるんだ。
だから同じ色なんだよ」
そう言って、後ろを向いていたメルヒがこちらに近ずき私のフードを取る。
だんだん顔が近づいてきて耳元でこう囁いた。
「他意もあるかもしれないけどねぇ」
私の手からブローチを手に取りマントにつけてくれる。
「わぁ、ありがとうございます」
言われた言葉に遅れて顔が熱くなってくる。
つけてくれたブローチを手で包み込んでじんわりと嬉しさを噛みしめた。
塔を出てから楽しくて嬉しいことばかりで少し怖くなってきた。
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