グリモワールの修復師

アオキメル

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1章 リリスのグリモワールの修復師

24 工房の中で

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  メルヒが魔術書グリモワールを直す作業を見学するのはとても楽しかった。
 テキパキとした作業の中でもルールがあるようで丁寧に物を直している。
 ふと、視界に黄金の蝶が通り過ぎる。

「あっ」

 工房の中を蝶はふわふわと飛んでいく。

「きれい…」

 私は手を伸ばして蝶に触れようとする。

「「「主様」」」

 カラスたちが声を合わせてメルヒを呼ぶ。

「なんだい?
 あれ、逃げてる」

 ひらひらと舞う蝶にメルヒも気づく。
 メルヒは倉庫に足を運び虫取りあみを取り出してきた。

「みんなも手伝って」

 そう言って、全員に虫取り網を渡されたた。
 虫取りなんてやったことないけど、面白そう。
 私はワクワクしてきた。

「くれぐれも物を壊さないように気をつけてね」

 いつの間にか人化した三つ子達に注意する。

「大丈夫ですわ」

「平気だよ」

「…分かってる」

 みんなそれぞれの場所で網を構える。
 蝶を見つめていたら、瞬きした間に二匹になった。
 三つ子がそれぞれ蝶をつかまえようとするが、ひらりとかわされる。
 その瞬間には三匹になった。
 一人一匹づつ追いかける。

「あの蝶はいったい何です?」

 私はぼんやりと蝶の姿を目で追う。

「夢の力を糧とする魔術書グリモワールから生まれた蝶だよ。
 リリスが雪のなか倒れてる時に使った本の魔法だ。
 本来は数時間すると消えるのだけどねぇ」

 メルヒは困ったように自由に飛びまわる黄金の蝶を見る。

「発動した者のいうことをきいてくれるはずなんだけどねぇ。
 どういうわけか何匹が残って好き勝手飛び回ってる。
 瓶の中に入れて観察していたのだけどねぇ。
 時間が経つと増えるみたいだ」

「私を助ける時に使った魔術書グリモワールの話をもう少し詳しく…」

 なんだかまた知らずに迷惑をかけているような気がして私はメルヒにこわごわ訊く。

「毎夜、夢枕に置いて夢の力を貯えた魔術書グリモワールを使ったのだけど。
 修復しきれてなかったようで、誤作動で全部の魔力を放出したんだよねぇ。
 リリスが悪いわけじゃない」

 メルヒは気にすることはないと話す。

「毎夜って…それってとても長いこと直してたんじゃ」

「「「蝶々、綺麗だった」」」

 三つ子たちが揃って口にする。

「ものすごい量の蝶がぶわーって、出てきて」

「リリス様が埋まってた場所の雪溶かしたのですわ」

「…ひらひらすごい量だった」

 これはどう考えても本をもう一冊、駄目にしている。

「貴重な本を使用させてしまって、ごめんなさい」

 私はメルヒに謝る。

「直すのが足りなかったのがいけないし、リリスはここに来て何も悪いことしてないよ。
 あんまり気にしすぎるのは良くない」

 メルヒは優しく言葉をかけてくれるが、私の気が済まない。
 保護されてばかりでは、あの暮らしとそう変わらない。
 私は自分の顔をパシッと叩き蝶を見る。
 ひとまず蝶を捕まえよう。
 せめて今出来ることを手伝おう。
 私は虫の習性を考える。
 虫は光を見ると寄ってくる。
 夢から生まれた蝶は何を好むのだろう。
 何を求めて飛んでいるのだろう。
 最初に見たとき私には近づいてきていた。
 この蝶たちが最初に受けた命令って…
 私は網を床に起き、手を伸ばす。
 逃げていた蝶は私の手に吸い寄せられるかのように寄ってきた。

「この蝶は私を探してくれていたのではないですか?」

 優しく黄金の蝶を手で包む。
 じんわりと温かい熱を感じた。

「おや、こんなにすんなりと」

 メルヒは用意していたガラス瓶の中へ、一匹ずつ入れていく。
 メルヒは私を助ける時に紡いだ詠唱を教えてくれた。


 ━━汝、助けを求めし者
 我、道を示す者
 夢から生まれし幻想よ
 力となれ━━


「リリスの言う通りかもしれないねぇ。
 助けはもう必要ないよ。
 助けてくれてありがとう」

 メルヒが蝶に向かってお礼をいう。
 ひらひらと羽ばたき返事をした。

「サファイア、ルビー、エメラルド。
 君たちもありがとう」

「「「捕まえたかった!!!」」」

 三つ子は少し不満そうにしていたが、メルヒは頭をそれぞれ撫でたことで満足したのかカラスの姿になった。
 もとのとまり木に飛んでいく。
 黄金の蝶は分裂した蝶々の数だけガラス瓶に詰められ。
 棚の中に並べられた。

「綺麗ですね。
 この蝶はもう消えてしまうのでしょうか?
 命令は達成してしまいましたし」

「観察してみないと分からないかな。
 どの蝶にも伝達されているべき情報が伝わってないところをみると、直すべき原因がこの蝶にあるのかもしれない」

「消えたら寂しいですね」

「そうだねぇ。
 夢の力は幻みたいなものだから、いずれ消えてしまうと思うけど。
 しばらく観察していようか」

 メルヒは棚からガラス瓶を取り出し作業机の上に置く。
 ガラス瓶のなかでヒラヒラと蝶は舞った。

「ところで、そろそろ事情を聞こうと思うのだけどねぇ」

 メルヒは私に向き真剣な眼差しを向ける。

「そうですよね…」

 ここに置いてもらう為にも事情を説明しなくてはいけない。
 フルールのことも心配だ。
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