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1章 リリスのグリモワールの修復師
20 逃げる薔薇姫その一
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リリスに呼び出された、冬の日の朝。
ついに魔族の迎えが来たことを私は知る。
「フルール様。
リリスお嬢様を頼みましたよ」
いつもより暖かく動きやすい素材の服にフード着きの赤いマントを着たリリスがやってくる。
手に抱えた鞄には執事が持たせた食べ物や飲み物がたくさん入っているのだろう、重そうだった。
「もちろんよ、ミルキ。
リリスは私にとっても大切な友達なのだから」
私は力強く返事をする。
リリスを見ればオロオロと心配そうにしている。
私はリリスに安心して欲しくて手を握る。
「ほら、リリスもミルキに何か言いなさいな」
優しく背中を叩きミルキの方へ顔を向かせた。
泣きそうな顔を我慢しているせいか、いつもよりぶちゃいくになっている。
そういう顔もかわいいわね。
「ミルキと今まで離れたことないから怖くて…」
「リリス様、私はここでやらねばならないことがあるのです」
「ごめんなさい、私のためなのよね。
私、絶対幸せになるわ!
好きなこと見つけて挑戦するの!」
リリスはミルキの手を握る。
このいい感じの別れの挨拶のところで、無粋な声が外から飛んでくる。
「おい、執事!
どこにいる、ここを開けろ。
私だ!」
「おかしいですね、ダミアン様の声が聞こえます。
この時間に来たことはないはずですが…」
ミルキは困った顔をする。
「あいつも魔族が今日迎えに来るって知って、リリスに会いに来たんじゃない?」
私は眉をよせる。
「このまま会わせないのも不自然でしょうね…
リリス、ベッドに入って寝てたふりしてちょうだい。
ミルキはこのままダミアンを案内して!
私は見つからないように隠れてるから」
「かしこまりました」
ミルキはリリスの手を名残惜しそうにおろす。
そのままドアを抜けダミアンのもとへ向かった。
「ダミアン様、今お待ちを!」
ミルキが出て行ったので、急ぎリリスをベッドに寝かせる。
着替えた服や鞄が見えないように、毛布を被せた。
「リリス、泣き顔のままよ。
上手くダミアンを誤魔化してね」
「…ええ」
私は近づいてくる足跡を聞いて、素早く透過の術式を作動させ、気配を魔法で消し去った。
ミルキの声が聞こえる。
「リリス様はまだおやすみになられてます。
例の件で取り乱されて疲れてるので手短にお願いしますよ」
「そうだな、でも私もリリスがいなくなってしまうと思うと辛いんだ。
顔を見るくらい許されるだろう」
ドアをノックもせず、音を立てないようにしてリリスのベッドにダミアンは近づく。
「愛しいリリス」
ベッドの高さに合わせるように座り、リリスの顔に手を伸ばす。
目元に雫が残っていたのか、指先ですくい取った。
「泣いているだね…
かわいそうに」
「…お兄様」
微かな声にダミアンは反応する
「寝てていいよ。
きっと今日は忙しいだろうからね」
聞こえたのはそこまでで、ダミアンはリリス耳元になにか囁いた。
ビクリとリリスの肩が震える。
一体何を言われたのかしら?
ダミアンは満足したのか部屋を出ていく、そこでなにか思い出したのかはっとミルキを見る。
「そうだ、執事。
父上が呼んでいたぞ。
このまま一緒に向かおう」
「承知いたしました、ダミアン様」
ミルキは私にわかるようにウィンクをひとつすると、ダミアンと共に出て行った。
足音が遠ざかるのを確認し、私は姿を現す。
「リリス!お疲れ様。
ミルキがもう出なさいってサインしてたわ!
すぐにここから出るわよ」
私はまだベッドに横になっているリリスのもとへ向かう。
リリスは震えていた。
肩を自分で抱きしめてどうにか震えを抑えていた。
「ダミアンに何を言われたの?」
様子がおかしいので不安になる。
いつも通り、妹への愛を囁いているのかと思っていたが違うのだろうか。
「お兄様はこのことに気づいているのかもしれないわ」
私はそれに首を振る。
「まさか、気づかれるようなことはしてないわよ」
「お兄様は私に…。
『どこに行くというんだい?
どこに行こうとも必ずリリスを見つけて捕まえてあげる』って言われたの」
「なっ…」
あれ、なんかバレてる?
私、今回はそんなにうっかりした覚えないけれど。
「にゃぁ…」
頭の上にいたココもなにやら戦慄していた。
まだ逃げ出してもいないのに不安な気持ちになった。
ついに魔族の迎えが来たことを私は知る。
「フルール様。
リリスお嬢様を頼みましたよ」
いつもより暖かく動きやすい素材の服にフード着きの赤いマントを着たリリスがやってくる。
手に抱えた鞄には執事が持たせた食べ物や飲み物がたくさん入っているのだろう、重そうだった。
「もちろんよ、ミルキ。
リリスは私にとっても大切な友達なのだから」
私は力強く返事をする。
リリスを見ればオロオロと心配そうにしている。
私はリリスに安心して欲しくて手を握る。
「ほら、リリスもミルキに何か言いなさいな」
優しく背中を叩きミルキの方へ顔を向かせた。
泣きそうな顔を我慢しているせいか、いつもよりぶちゃいくになっている。
そういう顔もかわいいわね。
「ミルキと今まで離れたことないから怖くて…」
「リリス様、私はここでやらねばならないことがあるのです」
「ごめんなさい、私のためなのよね。
私、絶対幸せになるわ!
好きなこと見つけて挑戦するの!」
リリスはミルキの手を握る。
このいい感じの別れの挨拶のところで、無粋な声が外から飛んでくる。
「おい、執事!
どこにいる、ここを開けろ。
私だ!」
「おかしいですね、ダミアン様の声が聞こえます。
この時間に来たことはないはずですが…」
ミルキは困った顔をする。
「あいつも魔族が今日迎えに来るって知って、リリスに会いに来たんじゃない?」
私は眉をよせる。
「このまま会わせないのも不自然でしょうね…
リリス、ベッドに入って寝てたふりしてちょうだい。
ミルキはこのままダミアンを案内して!
私は見つからないように隠れてるから」
「かしこまりました」
ミルキはリリスの手を名残惜しそうにおろす。
そのままドアを抜けダミアンのもとへ向かった。
「ダミアン様、今お待ちを!」
ミルキが出て行ったので、急ぎリリスをベッドに寝かせる。
着替えた服や鞄が見えないように、毛布を被せた。
「リリス、泣き顔のままよ。
上手くダミアンを誤魔化してね」
「…ええ」
私は近づいてくる足跡を聞いて、素早く透過の術式を作動させ、気配を魔法で消し去った。
ミルキの声が聞こえる。
「リリス様はまだおやすみになられてます。
例の件で取り乱されて疲れてるので手短にお願いしますよ」
「そうだな、でも私もリリスがいなくなってしまうと思うと辛いんだ。
顔を見るくらい許されるだろう」
ドアをノックもせず、音を立てないようにしてリリスのベッドにダミアンは近づく。
「愛しいリリス」
ベッドの高さに合わせるように座り、リリスの顔に手を伸ばす。
目元に雫が残っていたのか、指先ですくい取った。
「泣いているだね…
かわいそうに」
「…お兄様」
微かな声にダミアンは反応する
「寝てていいよ。
きっと今日は忙しいだろうからね」
聞こえたのはそこまでで、ダミアンはリリス耳元になにか囁いた。
ビクリとリリスの肩が震える。
一体何を言われたのかしら?
ダミアンは満足したのか部屋を出ていく、そこでなにか思い出したのかはっとミルキを見る。
「そうだ、執事。
父上が呼んでいたぞ。
このまま一緒に向かおう」
「承知いたしました、ダミアン様」
ミルキは私にわかるようにウィンクをひとつすると、ダミアンと共に出て行った。
足音が遠ざかるのを確認し、私は姿を現す。
「リリス!お疲れ様。
ミルキがもう出なさいってサインしてたわ!
すぐにここから出るわよ」
私はまだベッドに横になっているリリスのもとへ向かう。
リリスは震えていた。
肩を自分で抱きしめてどうにか震えを抑えていた。
「ダミアンに何を言われたの?」
様子がおかしいので不安になる。
いつも通り、妹への愛を囁いているのかと思っていたが違うのだろうか。
「お兄様はこのことに気づいているのかもしれないわ」
私はそれに首を振る。
「まさか、気づかれるようなことはしてないわよ」
「お兄様は私に…。
『どこに行くというんだい?
どこに行こうとも必ずリリスを見つけて捕まえてあげる』って言われたの」
「なっ…」
あれ、なんかバレてる?
私、今回はそんなにうっかりした覚えないけれど。
「にゃぁ…」
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まだ逃げ出してもいないのに不安な気持ちになった。
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