グリモワールの修復師

アオキメル

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1章 リリスのグリモワールの修復師

18フルールの思い出その三

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「この方が重要な人物であることは分かりましたが、お兄様が入り浸る理由がわかりません」

「エリカ、お前まだ言うのか?」

 くどいと言うようにダミアンはエリカを睨む。

「そうだ、エリカはさっきリリスを傷つけたよね。
 同じように痛い目にあってもらいたいな、例えば…」

 言いかけたところで隣にいたリリスがダミアンの手を握り、首を横にふる。

「ダミアンお兄様。
 私、痛くなかったわ。
 平気よ。
 だから、何もしないで大丈夫よ」

「リリス、私のことはダミアンと呼び捨ててと言ったはずだよ」

 すっと目を細めて、リリスを見る。

「ダミアン」

 さっきまで睨みをきかせていたのが嘘のように微笑みながリリスを撫でる。

「リリスは優しい、いい子だね。
 リリスのこと傷つけた子にまで慈悲を与えるなんて」

 ダミアンはエリカに向き直る。

「リリスがこう言ってるから、ここに来たことだけ父上に報告させてもらうよ。
 もう、ここに来ないでね」

 話は終わったとダミアンは部屋に置いてあるベルを鳴らした。
 扉がノックされ、黒服の執事が現れる。

「御用でしょうか?ダミアン様」

 執事は部屋に人が増えていることに気づき、眉をひそめる。

「エリカお嬢様どうやってここに?」

「この塔の守りはどうなっている?」

「おかしいですね。
 鍵はしっかりかかっていたはずですが…」

 不思議そうに黒服の執事はエリカを見る。

「外の門なら勝手に開いたわ。
 だから入ったのよ」

 腕を組みながらエリカは不機嫌そうにしている。

「エリカが入った時点で気づいて追い返してくれよ。
 この塔を管理しているのお前だろう」

「恐れながら、ダミアン様 。
 ダミアン様がリリス様と二人になりたいと言って聞かないので、この塔から離れていたのですよ。
 お忘れではないでしょう?」

「そうだったな、無理を言った。
 エリカを屋敷まで連れてってくれ」

「かしこまりました、旦那様にもここに入ったと伝えておきましょう」

 丁寧に腰をおり、エリカを連れていく。
 エリカは部屋を出る手前で、振り向いた。

「こんな塔に閉じ込められて、可哀想だとは思うけど。
 私、お兄様をこんな風にしたあなたを許さない!」

 そう言ってエリカは執事に付き添われ出て行った。

 部屋に唯一ある窓から、リリスはエリカが屋敷に戻るの見下ろす。

「ダミアンお兄様の妹なら、あの子は私の妹。
 どうして、言ってくれなかったのです?」

「この先、会う予定の無い者の話をしても仕方ないだろう?」

 そう、素っ気なく返されて悲しそうにリリスは屋敷の方を見た。

「同い年くらいの女の子の話し相手が欲しかったわ」

 それから二人はソファに座った。

「今日はもう疲れたから一人で過ごすわ」

「そうだな、私も父上に説明しに行かなければ」

 そう言って、ダミアンは帰る準備をする。

「また、時間がある時に来るよ。
 愛しいリリス、またね」

 ふぅ、やっとダミアンって奴が出て行ったわ。
 ずっとやりとり見てたけど、リリスって子がとても不憫でならない。
 この部屋だけの生活っていうもだけど、何よりあのダミアンという兄の存在がまたおかしい。
 リリスしか目に入ってない。
 二人きりにしちゃいけないやつよ、あれ。
 執事さんは普通ぽいところは救いだか、主人の言うことは聞いてしまうようだ。
 この塔からは今は出してあげられないけど、せめて何かしてあげたかった。
 窓辺に移動して、ダミアンが完全に屋敷に帰ったのを確認する。
 窓辺にすとんと腰掛けて…。
 魔法魔術共に解除。

「ごきげんよう。お花はいかが?」

 私は窓辺に座り、出来うる限りのスマイルをリリスに向けた。
 旅の花売りスタイルで彼女を笑顔にしてみせましょう。
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