グリモワールの修復師

アオキメル

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1章 リリスのグリモワールの修復師

16 フルールの思い出その一

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「リリス」

 私の可愛いお友達。
 貴女が笑顔でいるためなら、私は…。


 塔の上の薔薇姫に会ったのは偶然だった。
 いつものように、相棒の猫ドラゴンのココと気ままに国中を旅している時だった。
 旅をしている時は花売りを生業としている。
 街から街へ、国中を渡り歩きな街の様子を見るのが好きだった。
 そんな折、国の辺境におかしな塔を見つけた。

「オプスキュリテ侯爵はこんな塔建てて何してるのかしらね。
 こんなに結界の術式もたくさん張り巡らせて…。
 なんか怪しい、余程隠したいものでもあるのかしら?」

「にゃ、オレにはお前の存在がおかしいし怪しいと思うにゃ」

 相棒のココがジト目でこちらをみる。

「何言ってるのよ!何処がおかしいって言うのかしら?」

 ココの脇に手を入れ空中に持ち上げる。

「にゃ、姿から口調から思考までお前の全てだにゃ。
 どこの世界に王様が自分の城飛び出して、放浪の旅に出たあげくこんな格好してるゃ?」

「…」

 今度はこちらがココをジト目で見る。

「仕事は全部こなしてるんだから、趣味ぐらい楽しませなさいよ!」

 私は言われ慣れた言葉にいつもようにむくれる。
 そう、ココが言うようにわたしは王様だ。
 この国の神たる不死の神竜が行なう王の選定に選ばれた。
 この魔法王国ルーナの国王。
 ステラ・ソルシエール・ルーナという名前の少年王だ。
 そう、私は男として生を受けている。
 でも、私はずっと可愛いものが大好きで自らも可愛くありたいと思っている乙女だ、可憐な姿を保ちたい。

「ココも私の趣味なのよ!」

 すりすりと柔らかいお腹に顔を埋める。

「やめるにゃー!
 ゾワゾワするにゃー!」

「私に文句を言うのがいけないのよ。
 はぁ、猫ドラゴンかわいい」

「オレは男らしいドラゴンだにゃー!
 かわいいとか言うにゃー!」

 怒り出すココを無視しモフモフ感を楽しむ。
 満足したのでそっと地面に下ろした。

「私がいなくても、城にはノエルがいるでしょう」

 私がいなくても仕事をきっちりこなしてくれる、頼れる神竜ノエルが城にはいつもいる。
 この国の神であり象徴的存在だ。

「…そうにゃけど。
 この国は人の国だにゃ。
 たまには王たる姿を人々に見せて安心させることも仕事だにゃ」

「お目付け役も大変ね」

 私は苦笑いしながら、ココを撫でた。
 ココは神竜ノエルが特別に私の為に産んでくれた子だ。
 月光を受けると虹色に煌めく美しいドラゴンであるノエルの遺伝子を受け継ぎ、美しい毛並みをしている。
 私が卵の時から大事に育てていたのにいつの間にか私を教育しようとしている。

「そうね、たまには城に帰りましょう。
 ノエルのことが恋しくなってきたわ。
 でも、ひとまず国の怪しい動きは確認しておかないとね」

 これでも国のことをかんがえて行動しているのだ。
 趣味ではあるが、闇雲に放浪の旅をしている訳じゃない。
 何かトラブルがあれば、必ず沈静化させている。

「あんまり、派手なことするにゃよ?
 王様だってバレるのもまずいにゃ」

 心配そうにココはこちらを見あげた。

「大丈夫よ!
 誰もこんな可愛い私を王様だなんて思わないわ!」

 ビシッと決めたところで、ココを頭の上にのせ塔に向かってオプスキュリテ侯爵家の敷地を進んでいく。
 もちろん、気づかれないようにこっそりとだ。
 結界が施されているせいか塔はぼんやりと遠くに見える。
 ガラスのような障壁が何層も行く手を遮った。
 施された数々の術式の抜け道を探し通り抜ける。
 途中うっかり頭の上のココの計算をし忘れて、炎弾が斜め頭上のココ目がけて降ってきたが反射神経の良いココは素早く避けた。
 うん、問題ないくらい簡単に突破出来たわよね。

「ふぅ、無事に何事も無くここまで来れたわね」

「何も無くないにゃ!
 焼けて禿げるかと思ったにゃ!
 謝るくらいして欲しいにゃ!!」

「えーっ、ココなら大丈夫でしょう。
 信頼してるわ」

 てへぺろという以前町で覚えた可愛いポーズをココに放った。
 ココは毛を逆立ててぷるぷる震えたが何かを諦めるような顔をして遠くを見ていた…

「あの塔に入るのかにゃ?」

 もう塔は目の前だ。
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