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1章 リリスのグリモワールの修復師
13 薔薇姫の塔
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吹雪が荒れ吹く夜
侯爵の地位を持つオプスキュリテ家は混乱に見舞われていた。
オプスキュリテ家の敷地には隠すようにそびえ立つ塔がある。
一族の者でも限られた者しか知らない塔だ。
この塔の名は”薔薇姫の塔”
名前の通り塔の上には、黒髪に血のように赤い瞳を持ったリリスという侯爵令嬢の薔薇姫が住む。
今はそこに、身なりの良い男五人がそれぞれの感情をぶつけていた。
「これは、どういうことだ?」
「ちゃんと説明して貰えるんだよね?
オプスキュリテ侯爵」
際立って身なりの良い、顔のよく似た二人の男が白い髪の陰気な空気を纏った初老の紳士に問いかける。
「殿下、ワシもどういうことなのか…」
考え込むように白いあご髭を手で撫でる。
内心の感情を抑えているのか、手は震えていた。
隣にいた黒髪黒目の若者が感情を隠そうともせず口を開いた。
「父上!あの者は薔薇姫の執事です。
あの者が何か知ってるはずです!」
そう語気を強めながら、置物のように姿勢良く立っていた黒服の男を指さした。
それに黒服の執事は粛々と答える。
「私は何も知りませんよ、ダミアン様」
「そんなはずはない!」
執事に勢いよく詰めより、掴みかかる。
「やめなさい、ダミアン。
殿下の前だ」
初老の紳士は息子の蛮行を止める。
「ミルキが嘘を言うはずないでしょう」
トゲトゲしい言動で若い男はダミアンを咎める。
「ミルキは私達が選んだ者だよ。
代々の薔薇姫にはずっと彼をつけてるんだ」
同じ顔の男が穏やかな言動と微笑みを浮かべダミアンを諭した。
「失礼しました…」
まだ、不服そうに執事を睨みながらダミアンは掴みかかった手を離した。
パンパンと払いながら執事は身なりを整える。
「ありがとうございます。
リオン殿下、レウ殿下」
左手を胸にあて、頭下げる。
「いいんだよ」
「あーもう。
せっかく、魔族の国アビスから
王子である僕レウ・シャイターンと双子の兄であるリオン・シャイターン自らリリスのこと迎えに来てあげたのに」
「本当、私達の花嫁はどこに行ってしまったのだろうね」
レウはむくれ、リオンは困ったような微笑みを浮かべた。
二人とも暗い紫がかった黒髪を持っている。
赤と青のオッドアイの瞳はレウと鏡あわせのようだ。
リオンは薔薇姫の塔に唯一ある窓から外へと視線を向けた。
外は未だ、止むことない雪が激しい風と共に舞っていた。
この部屋への入口は一つだけ。
そして窓も一つだけ、下を見れば塔と言うだけあって高さがあった。
「薔薇姫が身投げしたわけでは無さそうだな」
まっさらな何の痕跡もない雪にそう呟く。
この監禁状態の部屋からどうやって抜け出したのだろう?
通路は階段のみの一本道。
隠し通路もない。
唯一の入口には、施錠がされていた。
この塔の鍵はミルキが管理している。
「私達がここを訪れた時には、しっかりと施錠されていたのに不思議だ」
「ミルキは僕達と一緒に本邸からここまで来たよね。
その間、この塔の入口は誰も通れなかったはず。
やっぱり、この窓から…」
レウの方も窓の外に目を向けた。
雪と風ばかりで何も見えない。
「殿下」
背後にいたオプスキュリテ侯爵が声をかける。
「すぐさま、薔薇姫捜索にあたります。
存在を秘匿としておりますが、目立つ特徴です。
まだ遠くへは行っていないと思います」
頭を低く落とし膝をつく。
ダミアンもそれに倣った。
「そうだな、逃げたか攫われたか分からないが…。
この雪だ、リリスの身が心配だ」
「僕達の薔薇姫に何かあったら、許さない」
ただでさえ底冷えする気温がレウが放つ冷気により更に低くなった。
「レウ…抑えて」
「ごめん、兄さん。
僕、心配で心配で仕方なくて」
「そうだね、心配なのは私もだよ」
リオンは弟を優しくなだめる。
二人は侯爵の方向き
「「一刻も早く、薔薇姫をここに」」
とそろえて口にした。
「「はっ」」
侯爵とその息子は力強く命を受けた。
彼らの返事は揃っていたが、内情は揃っていなかった。
侯爵の方は魔族への怯えで一刻も早く魔族の王族への供物として薔薇姫を捧げることを考える。
息子の方はこのまま、先に自分が薔薇姫を確保しどこかに囲って隠してしまおうと思っていた。
ダミアンは薔薇姫リリスの実兄ではあるが、その愛情は歪みきってきた。
リリスは魔族の王だろうが王子だろうが誰にも渡さないと心の中で笑っていた。
魔族に引き渡す前にちょうど良いタイミングでいなくなってくれた。
リリスをずっと観てきた僕だ。
やっぱりあの執事が何かしたに違いない。
獰猛な視線を執事ミルキに向けた。こ
侯爵の地位を持つオプスキュリテ家は混乱に見舞われていた。
オプスキュリテ家の敷地には隠すようにそびえ立つ塔がある。
一族の者でも限られた者しか知らない塔だ。
この塔の名は”薔薇姫の塔”
名前の通り塔の上には、黒髪に血のように赤い瞳を持ったリリスという侯爵令嬢の薔薇姫が住む。
今はそこに、身なりの良い男五人がそれぞれの感情をぶつけていた。
「これは、どういうことだ?」
「ちゃんと説明して貰えるんだよね?
オプスキュリテ侯爵」
際立って身なりの良い、顔のよく似た二人の男が白い髪の陰気な空気を纏った初老の紳士に問いかける。
「殿下、ワシもどういうことなのか…」
考え込むように白いあご髭を手で撫でる。
内心の感情を抑えているのか、手は震えていた。
隣にいた黒髪黒目の若者が感情を隠そうともせず口を開いた。
「父上!あの者は薔薇姫の執事です。
あの者が何か知ってるはずです!」
そう語気を強めながら、置物のように姿勢良く立っていた黒服の男を指さした。
それに黒服の執事は粛々と答える。
「私は何も知りませんよ、ダミアン様」
「そんなはずはない!」
執事に勢いよく詰めより、掴みかかる。
「やめなさい、ダミアン。
殿下の前だ」
初老の紳士は息子の蛮行を止める。
「ミルキが嘘を言うはずないでしょう」
トゲトゲしい言動で若い男はダミアンを咎める。
「ミルキは私達が選んだ者だよ。
代々の薔薇姫にはずっと彼をつけてるんだ」
同じ顔の男が穏やかな言動と微笑みを浮かべダミアンを諭した。
「失礼しました…」
まだ、不服そうに執事を睨みながらダミアンは掴みかかった手を離した。
パンパンと払いながら執事は身なりを整える。
「ありがとうございます。
リオン殿下、レウ殿下」
左手を胸にあて、頭下げる。
「いいんだよ」
「あーもう。
せっかく、魔族の国アビスから
王子である僕レウ・シャイターンと双子の兄であるリオン・シャイターン自らリリスのこと迎えに来てあげたのに」
「本当、私達の花嫁はどこに行ってしまったのだろうね」
レウはむくれ、リオンは困ったような微笑みを浮かべた。
二人とも暗い紫がかった黒髪を持っている。
赤と青のオッドアイの瞳はレウと鏡あわせのようだ。
リオンは薔薇姫の塔に唯一ある窓から外へと視線を向けた。
外は未だ、止むことない雪が激しい風と共に舞っていた。
この部屋への入口は一つだけ。
そして窓も一つだけ、下を見れば塔と言うだけあって高さがあった。
「薔薇姫が身投げしたわけでは無さそうだな」
まっさらな何の痕跡もない雪にそう呟く。
この監禁状態の部屋からどうやって抜け出したのだろう?
通路は階段のみの一本道。
隠し通路もない。
唯一の入口には、施錠がされていた。
この塔の鍵はミルキが管理している。
「私達がここを訪れた時には、しっかりと施錠されていたのに不思議だ」
「ミルキは僕達と一緒に本邸からここまで来たよね。
その間、この塔の入口は誰も通れなかったはず。
やっぱり、この窓から…」
レウの方も窓の外に目を向けた。
雪と風ばかりで何も見えない。
「殿下」
背後にいたオプスキュリテ侯爵が声をかける。
「すぐさま、薔薇姫捜索にあたります。
存在を秘匿としておりますが、目立つ特徴です。
まだ遠くへは行っていないと思います」
頭を低く落とし膝をつく。
ダミアンもそれに倣った。
「そうだな、逃げたか攫われたか分からないが…。
この雪だ、リリスの身が心配だ」
「僕達の薔薇姫に何かあったら、許さない」
ただでさえ底冷えする気温がレウが放つ冷気により更に低くなった。
「レウ…抑えて」
「ごめん、兄さん。
僕、心配で心配で仕方なくて」
「そうだね、心配なのは私もだよ」
リオンは弟を優しくなだめる。
二人は侯爵の方向き
「「一刻も早く、薔薇姫をここに」」
とそろえて口にした。
「「はっ」」
侯爵とその息子は力強く命を受けた。
彼らの返事は揃っていたが、内情は揃っていなかった。
侯爵の方は魔族への怯えで一刻も早く魔族の王族への供物として薔薇姫を捧げることを考える。
息子の方はこのまま、先に自分が薔薇姫を確保しどこかに囲って隠してしまおうと思っていた。
ダミアンは薔薇姫リリスの実兄ではあるが、その愛情は歪みきってきた。
リリスは魔族の王だろうが王子だろうが誰にも渡さないと心の中で笑っていた。
魔族に引き渡す前にちょうど良いタイミングでいなくなってくれた。
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やっぱりあの執事が何かしたに違いない。
獰猛な視線を執事ミルキに向けた。こ
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