グリモワールの修復師

アオキメル

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1章 リリスのグリモワールの修復師

7 休息その一

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日が昇ったのかカーテンの隙間から光がチラチラと漏れ差す。
 心地よい眠りから、だんだんと意識が浮上し重いまぶたをひらいた。
 寝たけど、まだ眠い気がする。
 上半身を起こし周りを確認する。
 そこは改めてみると豪華な部屋だった。
 広い部屋に天蓋付きのベッドがあり、壁際には胡桃の木でできた猫足のチェストが置かれている。
 チェストの上にある時計を見ると正午を過ぎていた。

「けっこう、寝てしまったようね」

 ふわーっと口に手を当てながら欠伸をする。
 しばらくぼんやりとしていたら、ドアを叩く音が聞こえた。

「どうぞ」

「「失礼します」」

 ドアを開けてルビーとサファイアが来てくれた。

「「おはようございます。リリス様」」

「二人ともおはよう」

 ルビーはこちらに向かって歩いてくる。
 サファイアは奥へ歩き、部屋のカーテンを開けた。
 外が眩しい。
 毎日、雪が強く吹雪いていたけど、今日は珍しくいい天気なのね。
 どうせなら私が歩いてる時にやんでいて欲しかった。
 吹雪だったおかげで痕跡は残らなかったけど。
 そう内心で思いながら窓をベットの上から眺める。

「よく眠れましたか?」

「ゆっくり寝かせていただいたわ。
 ありがとう」

「休めたようで安心しましたわ。
 お召し替えが終わってから、軽い食事を部屋に準備しますね」

 にっこりと愛嬌よくルビーが話してくれる。

「リリス様。
 着替えの手伝いをしますのでボクに着いてきてください」

 少女なのに少年ぽい雰囲気を持つサファイアにエスコートされながら、部屋の奥にある扉を通り抜けると小さなドレッサールームがあった。
 可愛らしいドレッサーと赤いベルベット生地でできた座り心地の良さそうな椅子がある。

「リリス様はこちらの椅子に座ってください」

「座らせてもらいますね」

 座るとちょうどサファイアと同じ目線の高さになった。
 幼いかわいい子をみていると、心が落ち着く。
 末の妹を思いだす。
 寂しい気持ちも同時にあふれるけれど。

「何が洋服に好みはありますか?
 とは聞いてみたものの、この屋敷にリリス様くらいの年頃の女性はいないので、あまり準備はないのですが…」

 申し訳なさそうにしながらサファイアは言う。

「そんな、気にしないでください。
 助けてもらっただけで、感謝でいっぱいなのですから!
 あるものを着ますわ」

「そう言って頂けると、助かります」

 そう言って奥に行き服を手に持ってきた。

「では、こちらのローブをお召しください」

 まっしろでふわふわとした光沢のある生地に金色の糸で星座が刺繍されている。
 星座の星々には大小の宝石が縫い付けられていて、キラキラと煌めいた。
 襟は前後に長くカットリボンのようなデザインで長い、ローブの丈は足首まである。

「これはずいぶん神聖で豪華なデザインのお洋服ですね。
 誰のお洋服だったでしょう?
 私が着ても大丈夫なのでしょうか」

 とくに宝石の装飾が高そうで不安になります。
 裾も長いし転んでしまうかも。

「とても、素敵ですよね。
 こちらのローブは主様が幼少の時に着ていたもので儀式の時使っていたものらしいです」

「儀式用ですか、なんだかこの神聖な感じは魔術式とか編まれてそうね」

「はい、守りの術式が編み込まれてるそうで、リリス様にちょうど良いと主様に渡されました。
 ご着用ください」

「守りの術式…
 それは心強いです。
 服はこれしかないのですよね?」

「そうです」

 石とか襟が不安になりますが、ひとまず着てみましょう。
 薔薇姫として普段赤色しか身につけてこなかったものだから、とてもそわそわした気持ちになります。
 白のローブなんて着て似合うかしら。
 新しいことどんどん挑戦すべきよね。

「素敵ですよ、リリス様」

 そう言ってサファイアは褒めてくれる。

「鏡を見る前に、あとは髪を整えましょう」

 サファイアはブラシを手に持ち、私の髪に優しくブラシを通した。

「リリス様の髪はボクたちと同じ色でお揃いですね」

「サファイアちゃんとは、髪型まで一緒よね」

「お姉さんが出来たみたいで嬉しいです」

「そう思ってくれるなんて嬉しいわ」

 お互いににっこりと微笑みあった。

「出来ましたよ、リリス様」

 そう言われて等身大鏡の前に案内される。
 鏡の中に見える白い服の私は普段よりも瞳の色が赤く際立って見えた。

 ━━赤い瞳は薔薇姫の証
 鮮血のごとき深紅色
 この世に一つの宝物━━

 脳裏に一族に伝わる薔薇姫の詩が浮かんだ。
 はっとして、赤い瞳が目立たないように前髪で隠した。
 不自然にならないように片目だけ出す。
 ひとまず、こうしておこう。
 影になって黒ぽく見えるはずだ。

「ありがとう、サファイアちゃん。
 落ち着かないけど、素敵な服ね」

 何事もなかったように笑顔で答える。

「とても似合ってますよ。
 ルビーにも見せましょう!」

 嬉しそうにサファイアは私を連れルビーがいる寝室へ向かっていった。
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