グリモワールの修復師

アオキメル

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1章 リリスのグリモワールの修復師

5 助け

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「僕の神聖な工房でこのようなことはやめていだだきたい」

 ドアが開くとそこには銀髪の眼鏡をかけた神経質そうな男が立っていた。
 とても不快そうで眉をひそめている。
 紫色の瞳が床で寝転んでる私を捉えた。
 驚いたようで目が大きく見開かれた。

「これはお客人のお嬢さん。
 客間のベットに寝かしておいたはずなんだけどねぇ。
 大丈夫…じゃなさそうだ」

「……?」

 この人誰なのかしら?
 この屋敷の人よね?
 何か言おうとしたが、声がでない。
 くちがパクパク魚みたいにしかならなかった。
 その姿に可哀想にという視線を投げかけてくる。

「ねぇ、そこのワーウルフ。
 なんで外にいるのだろうか?
 ここ僕の工房なんだけれど
 封印の書にいたはずだよねぇ?
 ダメじゃないか、犬はちゃんとハウスしないと!」

「俺様は犬じゃない。
 誇り高きワーウルフ族のグレイ様だ!
 お前か、あんな狭いとこに閉じ込めやがったのは?」

 ワーウルフのグレイは突然はいってきた男に動物みたいに手を床置き、しっぽを上げ威嚇した。
 当の男は何かを探すかのように工房を眺めている。

「その質問にはいいえと答えておくよ」

 そして私の背後にある本を目に止め、微かに苦い顔をした。

「…なっ」
「…?」

 いったい、どうしたって言うんだろう。
 とにかく私を助けてもらいたい。
 このままではこのグレイって人の花嫁兼食事にされてしまう。

「俺をまた本の中に閉じ込めに来たんだろう。
 それなら無駄だぞ。
 ビリビリに破壊してやったからな」

 勝ち誇ったようにグレイが嗤う。
 急に禍々しい空気の流れを感じた。
 グレイは後ろを振り返り、素早く手を伸ばし私はそのまま荷物のように担がれた。

「…!!!」

 叫ぼうと思ったがやっぱり声が出なかった。
 色んなことがありすぎて何がなにやら。
 混乱すると人は声が出せなくなるのかもしれない。

「本を壊した上に退路のためお嬢さんを人質にとるつもりかな?」

「いや、こいつは俺の花嫁だから連れていく」

「花嫁ね…
 やっぱりワーウルフ族だねぇ。
 悪い獣だ。
 君の一族が疎まれて一族諸共封印されるのか分かる気がするよ。
 こうやって人間をさらって行く魔族だものね。
 同意も得てなかそうだし、完全に人攫いだよね」

「この女には花嫁の印を刻んだ。
 故に、俺様のものである」

「それって、マーキングでしょう?
 どこにいても美味しく喰らえるように」

「違うぞ、俺様はこのリリスと言う女が気に入ったから。
 強固な印を刻んだんだ。
 魔物共が使う低級なマーキングとは訳が違う。
 喰らうなんて、そんな勿体ないことはしない!」

 成り行きを見ていたけれど連れていかれたくはないですね。
 狼のお嫁さんとか魔族とか嫌です。
 なんのために、家を出てきたのかわからないわもう!

「僕としては、お嬢さんを連れていかれては困る。
 その娘は昨晩雪から掘り出したばかりで、介抱している途中なんだ。
 それなのに今度は獣に攫われて花嫁されるとか、いろいろ起こりすぎでしょう。おかしいよねぇ。
 拾い物という点では、その娘の所有権はこちらにあるはずだ。
 でもまぁ、ひとまず君が持っているとしよう。
 そこで提案があるのだが、聞いてくれるだろうか?」

 まっすぐとグレイの顔を見て男はにこやかに微笑んだ。

「お前の話し方、嫌いだな」

 グレイがぶるぶると震えた。
 イライラで耳の毛が逆だっている。

「そのお嬢さんを連れていくというのなら、僕は全力を持って君を違う本に封印するよ」

「なんだと!
 あの本がなくてもできるというのか?」

「出来るとも」

 余裕ある答えが返ってきた。

「僕の名前を教えてあげよう。
 お嬢さんへの自己紹介もかねるとするよ。
 僕の名前はメルヒだ。
 正確な名前は長いから省略するよ」

 名前を聞いてグレイの毛が完全にさか立った。

「…っ!
 お前があのメルヒか!
 この魔法王国ルーナ筆頭魔術師の!
 通り名は…」

 グレイの表情は恐怖の震えに変わっていた。
 あのメルヒって人はどうやらかなりの身分のようだ。
 王城の人がなんでこんな辺境の森にいるのだろう。

「やめてよ。
 通り名なんて恥ずかしい。
 今はただの修復師さ。
 魔術書専門のね」

 やれやれという感じで余裕たっぷりにグレイを見る。

「それでだ、お嬢さんを置いていくならば君を見逃してあげよう。
 僕は君を追わない。
 さて、どうする?」

 どうするも何もない提案で、これはもうグレイは逃げるを選択するしかない。
 そーっとグレイを見ると、何か罠があるのではと考えている顔だった。
 このグレイって人は考えるのが苦手そうだ。
 しばらく考えていたみたいだけど、結局は獣の素直さでそっと私を床に置いてくれた。

「花嫁の印はつけた、また迎えに来る」

 頭をポンポン撫でられるとグレイは窓に向かって歩き出した。
 初めは禍々しい魔獣の声だと思ったが、こうして見ると耳もしっぽあって可愛く思えた。
 そのままグレイは森の中に消えた。
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