2 / 111
1章 リリスのグリモワールの修復師
2 グリモワール
しおりを挟む
「カァ、外にお客様が来ているよ」
「カァカァ、かわいい女の子が寝ているわ」
「カァカァカァ…お客様」
騒がしくも愛おしい声に、重たいまぶたを開ける。
ベッドの周りにはそれぞれの瞳で、カラスの三つ子が僕を見つめていた。
青い目がサファイア
赤い目がルビー
翠の目がエメラルド
僕に使えてくれている、小さなカラスは大切な家族だ。
眠ってからどれくらい経っただろうか、きっとそんなに経っていないはずだ。
外は吹雪でとても人なんて歩いてられない。
こんな悪天候の夜分に来客だなんて、きっと妖精か魔性の類だろう。
「お客人はどちらに?」
上半身を起こすとサラサラとウェーブのかかった銀色の髪が落ちてきた。
サファイアとエメラルドがくちばしと黒い羽を器用に使い、鏡を持ってくる。
そこには、紫色の瞳に色素の薄い痩せた男が写っていた。
ベッドのそばに置いてある金縁眼鏡を手に取り、アシメントリーの髪を整える。
ルビーがコートを着せてくれながら答えた。
「雪の中ですわ。
人の子は脆いのでしょう。
お早く」
「えっ…!」
どうやら、寝ている時に聞こえた女の子がというのは本当に人の子らしい。
慌てて外に向かって、廊下を走った。
ドアを開けると、猛烈な吹雪が室内に吹き込んでくる。
足を踏み出そうとして、押し戻された。
とても歩いられる状況ではなかったが外に向って無理矢理に歩みを進めた。
外の雪は深く、足を取られて進むことができない。
「「「主様、魔法を!」」」
僕があまりにももたついていたので三つ子のカラスたちが魔法を使えと急かしてきた。
あまり気は進まないのだけれど、人命がかかっている。
着ていたコートのポケットから、小さな洋装本を取り出した。
修復作業が終わり魔力を貯めている途中だった本だ。
使ってしまえばまた普通の本になってしまう。
魔力を貯めるのに相当な年数がかかるだろう。
この本のことを待っている依頼人もいる。
「本来ならば、依頼人の本を使用するだなんて、とてもするべきことでないのだけどね。
しかし、今は緊急事態!」
そう口にしながら本をめくり詠唱をはじめた。
「汝、助けを求めし者
我、道を示す者
夢から生まれし幻想よ
力となれ」
詠唱をはじめると本は金色に光輝き、光は無数の蝶になった。
道を作るように蝶が雪原にとまっていく。
「これはまた綺麗な魔法だ」
本から生まれた蝶を呼び込み手に乗せた。
じんわりととあたたかい。
この蝶、一つ一つが夢から出来ている魔法だ。
毎晩、本を持って眠った数がこの蝶の群れになっている。
夢を糧に魔力とする本だったから、ここまで貯めるのに本当に苦労したものだ。
魔力の調整が全然できなくて1度使うと魔力が空っぽになる困った本だったのでその部分も調整が取れるように修復したはずだったのだが。
まだ調整が足りないようで、ものすごい数の蝶が湧き出ている。
「ふむ、これは修復しなおしだな。
今はとっても助かってるわけだけどね」
蝶の温もりで雪がじんわり溶けていき、本来の地面があらわれていく。
上空には無数の蝶で編まれた薄いベールが生まれた。
これでもう吹雪に邪魔はされない。
道案内の蝶が私についてきてと言うように、ひらひらと顔の前にやってきた。
見失わないように、急いでついて行く。
何も無い雪原に蝶がくるりと円を描いた。
すると複数の蝶が寄り集まり円陣が生まれた。
雪が蝶のあたたかさでじんわりと溶けていく。
「そこにいるんだね」
蝶が教えてくれた場所に駆けつけると、そこには真っ赤な服を着た黒い髪の女の子が倒れていた。
「嘘みたいに、綺麗な子。
やっぱり人じゃないのでは?」
そんな考えが浮かぶほどに魔性をおびているような美しさに感じた。
無意識に手が伸び頬を撫で、くちびるをなぞった。
「つめたいね…」
服をよく見ればマントは傷だらけでボロボロになっている。
だが上質な素材のものを着ていた。
仕事柄か素材や傷み具合に目がいってしまう。
上流階級の子だろうなと考えながら運ぶ体勢に入る。
「よっこらせ」
我ながら実にジジくさいかけ声をあげながらも紳士らしくあるように。
お姫様抱っこで運ぶことにした。
思ったより軽い感覚に後ろへとよろける。
遠くに見える屋敷のドアから三つ子のカラスたちが、心配そうにおろおろと駆け出してきているのが見えた。
どうやら、この客人をお迎えする準備が整ったようだ。
「眠っている美しいお嬢さん。
ようこそ我が工房へ」
「カァカァ、かわいい女の子が寝ているわ」
「カァカァカァ…お客様」
騒がしくも愛おしい声に、重たいまぶたを開ける。
ベッドの周りにはそれぞれの瞳で、カラスの三つ子が僕を見つめていた。
青い目がサファイア
赤い目がルビー
翠の目がエメラルド
僕に使えてくれている、小さなカラスは大切な家族だ。
眠ってからどれくらい経っただろうか、きっとそんなに経っていないはずだ。
外は吹雪でとても人なんて歩いてられない。
こんな悪天候の夜分に来客だなんて、きっと妖精か魔性の類だろう。
「お客人はどちらに?」
上半身を起こすとサラサラとウェーブのかかった銀色の髪が落ちてきた。
サファイアとエメラルドがくちばしと黒い羽を器用に使い、鏡を持ってくる。
そこには、紫色の瞳に色素の薄い痩せた男が写っていた。
ベッドのそばに置いてある金縁眼鏡を手に取り、アシメントリーの髪を整える。
ルビーがコートを着せてくれながら答えた。
「雪の中ですわ。
人の子は脆いのでしょう。
お早く」
「えっ…!」
どうやら、寝ている時に聞こえた女の子がというのは本当に人の子らしい。
慌てて外に向かって、廊下を走った。
ドアを開けると、猛烈な吹雪が室内に吹き込んでくる。
足を踏み出そうとして、押し戻された。
とても歩いられる状況ではなかったが外に向って無理矢理に歩みを進めた。
外の雪は深く、足を取られて進むことができない。
「「「主様、魔法を!」」」
僕があまりにももたついていたので三つ子のカラスたちが魔法を使えと急かしてきた。
あまり気は進まないのだけれど、人命がかかっている。
着ていたコートのポケットから、小さな洋装本を取り出した。
修復作業が終わり魔力を貯めている途中だった本だ。
使ってしまえばまた普通の本になってしまう。
魔力を貯めるのに相当な年数がかかるだろう。
この本のことを待っている依頼人もいる。
「本来ならば、依頼人の本を使用するだなんて、とてもするべきことでないのだけどね。
しかし、今は緊急事態!」
そう口にしながら本をめくり詠唱をはじめた。
「汝、助けを求めし者
我、道を示す者
夢から生まれし幻想よ
力となれ」
詠唱をはじめると本は金色に光輝き、光は無数の蝶になった。
道を作るように蝶が雪原にとまっていく。
「これはまた綺麗な魔法だ」
本から生まれた蝶を呼び込み手に乗せた。
じんわりととあたたかい。
この蝶、一つ一つが夢から出来ている魔法だ。
毎晩、本を持って眠った数がこの蝶の群れになっている。
夢を糧に魔力とする本だったから、ここまで貯めるのに本当に苦労したものだ。
魔力の調整が全然できなくて1度使うと魔力が空っぽになる困った本だったのでその部分も調整が取れるように修復したはずだったのだが。
まだ調整が足りないようで、ものすごい数の蝶が湧き出ている。
「ふむ、これは修復しなおしだな。
今はとっても助かってるわけだけどね」
蝶の温もりで雪がじんわり溶けていき、本来の地面があらわれていく。
上空には無数の蝶で編まれた薄いベールが生まれた。
これでもう吹雪に邪魔はされない。
道案内の蝶が私についてきてと言うように、ひらひらと顔の前にやってきた。
見失わないように、急いでついて行く。
何も無い雪原に蝶がくるりと円を描いた。
すると複数の蝶が寄り集まり円陣が生まれた。
雪が蝶のあたたかさでじんわりと溶けていく。
「そこにいるんだね」
蝶が教えてくれた場所に駆けつけると、そこには真っ赤な服を着た黒い髪の女の子が倒れていた。
「嘘みたいに、綺麗な子。
やっぱり人じゃないのでは?」
そんな考えが浮かぶほどに魔性をおびているような美しさに感じた。
無意識に手が伸び頬を撫で、くちびるをなぞった。
「つめたいね…」
服をよく見ればマントは傷だらけでボロボロになっている。
だが上質な素材のものを着ていた。
仕事柄か素材や傷み具合に目がいってしまう。
上流階級の子だろうなと考えながら運ぶ体勢に入る。
「よっこらせ」
我ながら実にジジくさいかけ声をあげながらも紳士らしくあるように。
お姫様抱っこで運ぶことにした。
思ったより軽い感覚に後ろへとよろける。
遠くに見える屋敷のドアから三つ子のカラスたちが、心配そうにおろおろと駆け出してきているのが見えた。
どうやら、この客人をお迎えする準備が整ったようだ。
「眠っている美しいお嬢さん。
ようこそ我が工房へ」
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

お飾り妻生活を満喫していたのに王子様に溺愛されちゃった!?
AK
恋愛
「君は書類上の妻でいてくれればいい」
「分かりました。旦那様」
伯爵令嬢ルイナ・ハーキュリーは、何も期待されていなかった。
容姿は悪くないけれど、何をやらせても他の姉妹に劣り、突出した才能もない。
両親はいつも私の結婚相手を探すのに困っていた。
だから受け入れた。
アーリー・ハルベルト侯爵との政略結婚――そしてお飾り妻として暮らすことも。
しかし――
「大好きな魔法を好きなだけ勉強できるなんて最高の生活ね!」
ルイナはその現状に大変満足していた。
ルイナには昔から魔法の才能があったが、魔法なんて『平民が扱う野蛮な術』として触れることを許されていなかった。
しかしお飾り妻になり、別荘で隔離生活を送っている今。
周りの目を一切気にする必要がなく、メイドたちが周りの世話を何でもしてくれる。
そんな最高のお飾り生活を満喫していた。
しかしある日、大怪我を負って倒れていた男を魔法で助けてから不穏な空気が漂い始める。
どうやらその男は王子だったらしく、私のことを妻に娶りたいなどと言い出して――
私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました
山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。
※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。
コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。
ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。
トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。
クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。
シモン・ノアイユ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。
ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。
シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。
〈あらすじ〉
コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。
ジレジレ、すれ違いラブストーリー
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」
window
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」
アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。
「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」
アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。
気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

忌み子にされた令嬢と精霊の愛し子
水空 葵
恋愛
公爵令嬢のシルフィーナはとあるパーティーで、「忌み子」と言われていることを理由に婚約破棄されてしまった。さらに冤罪までかけられ、窮地に陥るシルフィーナ。
そんな彼女は、王太子に助け出されることになった。
王太子に愛されるようになり幸せな日々を送る。
けれども、シルフィーナの力が明らかになった頃、元婚約者が「復縁してくれ」と迫ってきて……。
「そんなの絶対にお断りです!」
※他サイト様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる