甘い君に酔いしれて

色葉ロイ

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第一章

#6

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「まぁ、青木から大まかに聞いたと思うんだけど」
 届いたジュースを飲みながら藤井は緋山に話しかける。
「うん、藤井もなの?」
「やっぱり気づいた?」
「うん、まぁ。話聞いてるうちに、そうなのかな? とは」
 青木は何だか気まずそうに俯いたまま口を開かない。
「俺は記憶操作もできるんだけど、緋山はどうしたい? 記憶を消して、なかったことにもできるよ」
 藤井がそう聞いたが緋山は大して驚きもせずに何かを考えているようだった。少しの間をおいてから藤井と青木に問いかけた。
「それだと、青木はどうなるの?」
「えっ?」
 久しぶりの青木の発言は消え入りそうなほど小さかったが、風が起こりそうな勢いで頭を上げた。
「あんなフラフラになるってことは、血が必要なんでしょ?」
 青木から求めてもらえる、という緋山にとって激アツ案件をなかったことになんてできない。というかしたくない、という強い思いで真っ直ぐに青木を見つめる。
「青木にはメールで言ったけど、俺にできることはなんでもするよ」
「だって。青木どうする?」
 固まっている青木に代わって藤井が繋いでくれる。
「あ……えっと。血の相性が、良くないと戻しちゃって…」
「相性がいい血はなかなか見つけられないんでしょ?」
「お、おう。んで、その…」
 久しぶりに話した幼馴染を襲った――と言うと少し語弊があるが――、しかも自分のことを好きな相手を前にうまく話せなくなってしまう。
「緋山がいいなら、その、平気なら」
「うん、なに?」
 ちゃんと話せていない青木のことを優しい眼差しで見つめながら頷く緋山。
「ときどき、血をいただきたくて」
「よろこんで」
 緋山が被せ気味で答えると、吸血鬼二人は驚いた顔をした。
「よろこんで⁉︎」
 防音の部屋を突き抜けそうなほどの大声で聞き返す藤井を煙たそうに青木は見てから緋山に目線を移す。
「まじでお前さ、わかってる?」
「うん、青木のためになる」
「もー、ばかじゃん。殺しちゃうかもだよ?」
 本当に俺のことが好きなんだ、と実感した青木は照れ隠しを含めて冗談ぽく言った。
「それでもいいよ」
「おほー、あはっ、よかったじゃん青木ー」
 若干引き気味で、しかも棒読みでそう言いながら、藤井は青木の肩を叩いた。
「あ、リヒトから電話だわ。ごめん」
 突然鳴り響いた着信音に驚く青木をよそに、藤井は小窓に映し出された名前を冷静に確認して、部屋を出て行った。
「緋山、本当にいいの?」
「俺の気持ちも知ってるでしょ?」
「まぁ。だからこそ嫌かなと思ったんだけど」
 ――嫌なわけない。どんな形でも好きな人から求められて嫌だなんて思うわけない。歪んでいるかもしれないけど――
 青木の目に映る緋山は嬉しいとしか思っていないようだった。
「俺が緋山のこと、餌みたいに思っても?」
「思ってるの?」
「思ってるわけない。けど、理性が……」
「理性が保てないほど求められて、嬉しくないわけないよ」
「へ、へ、変な言い方すんな」
 思ったことをそのまま言っているだけの緋山も、改めてこの言葉だけ聞いたら結構なことを言っていると気づいたようで急に恥ずかしさに襲われる。
 二人して頬を赤くして俯いていると、戻ってきた藤井に「何してんだ」と怒られてしまった。
「今からリヒト入ってくるけどいい?」
「うん、俺は大丈夫」
「俺も。じゃあこの話終わりな」
 山吹のために席を詰めながら荷物や飲み物も移動させる。
「結局パートナーになる、でいいの?」
「パートナー⁉︎」
 藤井の一言に、普段冷静でクールで何を考えているのかよくわからない緋山が驚いて声を上げた。
「あぁ……その、ときどき血をもらうっていう、そういう相手ってこと」
 青木が説明すると緋山は先走った自分の考えに恥ずかしくなったようだった。
「お互いに照れるのなに?」
「俺が青木のこと好きだから……かな」
 なんて、緋山は口元を両手で隠しながら言った。何を暴露してんだ、と青木は頭を抱える。
「あ~、じゃあ尚更パートナーがいいじゃん」
 パートナーになれば、他の吸血鬼から狙われることがほぼなく人間側にもメリットがあると藤井は言った。
「ひ、緋山がいいなら、パートナーになって欲しい……です」
「よろこんで」
 緋山がまた被せ気味で、さらには満面の笑みで返事をすると、藤井は若干引きながら小さく拍手した。
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