甘い君に酔いしれて

色葉ロイ

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プロローグ

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 青木ミコトは今、十七歳の現役高校生。命のタイムリミットである十八歳まであと少し。




「おっす」
「なんだ、シュンか。おす」
 藤井ふじいシュンペイ。中学の塾で仲良くなり、学力がほぼ同じだったため同じ高校を受験した。それだけでなく命の恩人でもある。本当は同じ年齢ではない。
「変化は? どーよ」
「特には。ご心配どうも、おじいちゃん」
「やめろ、ガキが」



 ◇
 中学の塾帰り、青木は藤井と薄暗い道を歩いていた。飲み物が飲みたくなった青木は自販機に小走りで向かった。その時車が突っ込んできて、ものすごい衝撃で吹っ飛ばされた。事故ったら本当にスローモーションになるらしい。
 あれ? どこも痛くないや……あぁ、俺死んだんだな。なんて思っていると少しだけ揺さぶられた。
「ミコト?  目、開けられるか?」
 優しい口調で声をかけられ、青木が目を開けると、藤井に抱き抱えられていた。藤井はこの世のものとは思えないほど美しい顔をして輝いているように見えた。
「ん、あれ……」
 俺死んでなかったんだ。自分の手を見ると真っ赤に染まっていて、身体も服も真っ赤だった。
「え……俺、死ん……だ?」
「勝手にごめんな。応急措置的に助けてしまったんだが、ミコトはどうしたい?」
 よくわからない質問をされる。思考が追いつかない。それになんか、藤井の口調がいつもと違う。古臭い口調だ。
「ああ、すまない。意味がわからないよな。とりあえず俺の家に運ぶ。いいか?」
「うん」
 よくわからないが、このままでは死ぬとしか思えない状況で、こんな返事しかできなかった。
「少し眠れ、心配しなくていい」
 藤井の優しい低い声が耳に響くと、青木は静かに意識を手放した。


「ん……」
 あれ、俺さっき、と考えを巡らせながら自分の身体を見る。服は着替えさせられ、真っ赤だったのが嘘のように身体も綺麗だった。
「ああ、目が覚めたか。ここは俺の家。まず状況を説明しないとな」
 今まで聞いたことのない上品な声色の藤井に若干の気色悪さを感じた青木は、あからさまに顔に出し、起き上がりつつ後退りをした。
「実は俺、吸血鬼なんだ」
 その言葉を聞いて理解に時間がかかる。今なんて言った?  吸血鬼?  青木は藤井がおかしくなったのかと、怪訝な顔をした。
「それで死にかけたミコトを吸血鬼に変えた」
 藤井の言葉は耳を通り抜けていくばかり。俺が吸血鬼になったってこと?
「わかんないわかんない。夢?」
「今どこも痛くなくて何も怪我してないだろ?」
 そう言われてみると痛みもなければ傷もない。あんなに吹っ飛ばされたのに。
「本来同意なしで吸血鬼化させることは禁じられている。だが冷静に判断できずに変えてしまった」
 古臭い口調のせいで余計に内容が入ってこない。聞きなれない言葉ばかりが見慣れた藤井の口から溢れてくる。
「し、証明!  証明して欲しい」
 藤井は何も言わずに目を閉じた。そしてゆっくりと目を開け、青木を見つめた。真っ赤な瞳で。
「うわ! な、に? か、カラコンだろ?」
「違うよ、よく見て」
 青木の頬を掴んで顔を近づけると、少しだけ口を開いてみせた。キラッと光ったのは牙だった。
「そ、んなの……」
 突然睡魔が襲ってきて知りたいことは山積みなのに瞼が閉じてきてしまう。
「眠いだろう。一度眠った方がいい」
「……ん」
 藤井の瞳や牙に恐怖を覚えつつ、眠ってはいけないと思いながらも何も反応できない。ただ言葉は聞き取れた。それがわかっているようで藤井は話し続けていた。
「変化に身体が耐えられずに休息を求めるらしい。俺もそれはよくわからんが……そうらしいんだよ。普通に考えて瀕死の大怪我を負ってケロッとしてる方がおかしいだろ」
 いつもの口調の藤井に安心しながら耳を傾ける。
「とりあえず好きなだけ寝ろ。起きたら説明してやるよ」
 その直後柔らかい寝具に包まれて深い眠りに落ちた。
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