甘い君に酔いしれて

色葉ロイ

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第一章

#2

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 藤井の手には俺がさっき見つけられなかった抑制剤のボトルが握られていた。それを俺の方へ放り投げた。
 吸血鬼は好みの匂いの人間に引き寄せられる。青木はそれが緋山だったようだ。
「理性失うなよ、庇いきれないぞ」
「おう、わりぃ」
 受け取った抑制剤を飲み込んで、壁にもたれた。
「あれ、藤井?」
「ああ、青木が体調悪そうだったから様子見にきた。落ち着いたみたいだけど。あと頼んでいい?」
「うん、わかった」
 藤井は片手をひらひらと振ってその場から去ってしまった。
「おい、シュン……」
「大丈夫? 青木。顔色が悪いけど」
「もう大丈夫。ちょっと休んだら戻る」
「これお水……」
「おう、迷惑かけた、先戻ってて」
 授業中に断りも入れず飛び出してきたから怒られるかも。
「青木がこんななのにバスケなんてできない。俺もここにいるよ」
「でも……」
「藤井が説明してくれてると思うから」
 それはいいんだけど、これ以上緋山の匂い嗅いだらやばい。汗かいてるからいつもよりも匂いが濃くて、薬飲んでも意味がないくらいだ。おかしくなりそう。やばい、クラクラしてきた。膝が笑ってその場に座り込んでしまった。
「わっ、横になれるところに行く?」
 緋山が俺を抱き抱えるように支えてくれている。首が真横に来てさらに匂いが強くなる。
「ん゛っ……はっ、どいて……」
 やばい。本気でやばい、これ。自分の心音で視界が揺れる。口の中がむずむずして、力の加減ができなくなる。
「青木……目が」
「はぁっ、見ん……な! どけ。はなせ」
 ああ、緋山にバレた。赤い目、尖った牙。見られてしまった。忘れさせないと。でも俺にそんな能力はない。ハイランクでもない完全な変化もしていない俺は何も能力は使えない。
「あ……ひ、やま。はぁっ、う」
 ダメだとわかっているのに、緋山の服を引っ張って首を曝け出す。そこに近づいていくとさらに匂いが強くなってもう抑えられない。
「っ⁉︎  青木っ⁉︎  どうしたの?」
 ああ、ダメだ。プツリと俺の頭の中で理性が飛んで、緋山の首に歯を立ててしまった。
「っ⁉︎  ん゛っ、痛ッ……あおき……んぐっ」
「ん……はぁっんぅ……うま」
「あ゛……はっ、なに、これ……」
 もったいなくて、溢れてくる血を全て飲み干した。飲んでいる間に理性が戻ってきた。緋山の首の傷跡を舐める。首から顔を離すと、緋山の顔が目に入った。
 血を吸われた人特有のあからんだ頬、恍惚の眼差し、トロンとした表情。
「ん……ふ、あおきぃ……?」
「ごめん、眠っていいよ」
 頬に手を添えると、緋山は静かに眠りに落ちた。
「あーあ。やっちゃったね」
 背後から藤井に声をかけられる。
「ゔっ……お前に言われたくない」
「記憶消したい?」
「いや、起きてから、話してみる。緋山なら」
 きちんと話せばわかってくれるかもしれない。
「わかってくれるかもね」
 藤井はランクが高く、記憶操作ができる。
「よく理性保てたな」
「危なかったぁ……はぁ……」
 一歩間違えば殺してしまう。とんでもなく美味しかった。でもその血から、青木に対する愛情の味がした。そのおかげで、我に帰ることができた。
「んぅ……」
「緋山を保健室に運んでくる。そのままそばにいるから、先生に伝えてくれる?」
「おう、まかせろ」
「さんきゅ」
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