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 退屈な授業中は、どうしても妄想に駆り立てられる。俺は右手でペンをリズムよく回し、黒板に書かれている文字をただただ見つめた。頭の中は上の空。気が付くと、妄想劇が始まっていた。
 ―― 急に開かれる教室のドア。2人の目出し帽を被った人間。体つきから、おそらく男であろう。迷彩服の内側から膨張している筋肉が分かる。手には黒く光るライフル銃が、それぞれ1丁ずつ持っている。1人が威嚇射撃を、窓に打つ。衝撃で割れるガラス。教室に悲鳴が響き渡る。
「これは本物だ。今から命令に従わないものは、容赦ない」
 怯える生徒たち。教師は腰が砕け、その場に座り込む。ガラス片で出血する生徒もいた。もう1人の男はクラスのマドンナである、恵夢に近づいた。目出し帽から興奮する鼻息が漏れる。
「おい、こいつ可愛いな。人質として攫っちまおうぜ」
 恵美は小刻みに身体を震わせ、瞳には涙が溜まっていた。よく見ると、左袖から血が垂れており、右手で手首を抑えている。さっきのガラス片が飛んだに違いない。それを見た俺は恐怖より、苛立ちのが勝っていた。なぜ、彼女がこんなひどい仕打ちを味合わなければいけないのか。
「たしかに、人質は必要だな。俺らが本気ってことも、見せしめには必要だ」
 今度はガラスの方ではなく、座り込んでいる教師に向かって、銃口を向けた。鉛玉が発射され、銃声と共に教師の体は血しぶきを上げ、その場に倒れこんだ。さらなる悲鳴が起こると、今度はこちらに向けて、1発放った。数人の生徒が倒れこむ。教室は大混乱を招き、血だまりが作られる。
「次に声を出した奴から、鉛玉をぶち込んでやる」
 声を荒げると、生徒は必死に恐怖を漏らさないように、抑え込んだ。体を大きく震わせている生徒もいたが、決して声は漏らさない。これだけの騒ぎに、他の教室から様子を見に来る者はいない。他人はあてにできない、俺が救うしかないのだ。そう思い、2人の様子を伺った。不思議と恐怖心はない。
 男たちは恵夢を近くの椅子に座らせ、その後ろで煙草に火を点け始めた。2人は笑いながら談笑し、完全にこの場の支配者であると勘違いしている。俺はこの場を切り抜ける工夫を考えた。制服のポケットに何かあることに気づく。38口径の小さな拳銃が入っていた。なぜここにあるのか、そんな疑問もない。使い方も分かる。確認をしていないのに、銃弾も装着済みであることが分かった。
 2人が大笑いした瞬間、俺はポケットから拳銃を出し、1人に向けて撃った。初めてだとは思えない銃の扱い。見事に相手の額にヒットした。まさか、こんな学生が拳銃を持っているとは思わない。もう1人が慌てるうちに、俺は再度打ち込んだ。恵夢はすぐに駆け寄り、俺に熱い抱擁をしてきた。教室に歓声が沸く。俺は恵夢の頭を優しくなでた。
「よかった。無事で。恐かったね」
 恵夢は大きな瞳からな涙をこぼした。俺の異変に気付く。どうやら、最後の1人を打った際に、相手も俺を目掛けて撃っていたのだ。腹部に血が滲み、呼吸も荒くなる。
「いや、死なないで」
 恵夢の声が遠くなっていく。好きな子のために死ねるなら本望だ。俺がそう微笑み、静かに眠りについた。
 ―― 誰かが俺を呼ぶ。ハッとすると、教師がこちらを向いていた。呆れた顔で見ている。
「何をやっているんだ。ぼけーっとして」
 俺の妄想劇は、教師の声で現実に引き戻された。歓声ではなく、笑い声が響く。さっきまでヒーローだった俺は、今は笑い者。恵夢もこちらを見て、くすくすと笑っている。さっきまで俺のために流した涙は、所詮妄想なのだ。俺は少し恥ずかしく感じた。
 時計を見ると30分も妄想に浸っていたことに気づく。残り時間もあと10分。昼休みまであと少しだ。俺は椅子に腰を預け、深く座った。ふと視線を下げると、ポケットに覚えのないふくらみが。そのとき、教室のドアは勢いよく開かれた。

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